第24話 才女、武神を斬り伏せる

 放たれた殺気は想像を遥かに超えていた。

 確かに、武神と言うだけあって、それに見合った実力を持っていると一見で分かる。

 ただ、一つ新たな疑問が浮かんだ。

 先日、こっそり来斗と鎮の訓練を見せてもらったのだけど、力の付き方が早いのはやはり私だけじゃないらしい。

 アビスやトト顧問にも確認してみたけど、やはり異世界人というのは迷い人も含めて非常に基礎能力が高いものなんだとか。

 そのため、成長できる余地を多く持っており、少しの訓練で大幅なレベルアップへと繋がるのだそう。

 そういった特性から、この世界で人族に置ける最強格と言えば異世界人という風になっているはずなのよ。

 なのに、彼はこの世界の人間であるにも関わらず、最強格に並ぶ、あるいは超えた力を有している。

 恐らくは他に二人はいると思われる武神たちもね。


「まさか、隔世遺伝?」


「なるほど、今代の聖女は知に富んだ人物だとは聞いていたが本当のようだな。

 その通り。俺の曽祖父が勇者をしてたんだ。この国でな」


「それ、三武神の一角を任せられるのも当然じゃない?」


「違いない。実際のところ他の連中も遠い祖先が勇者やら迷い人って奴らだからな」


 結局、彼も私と一緒でそういう運命だったということね。

 少し同情するわ。


「さて、どうする? 消化不良にはなってしまうが聖女に怪我をさせては、アイツからどんな折檻を受けるか分かったもんじゃない。

 ここで、やめるなら一向にかまわないが?」


「冗談。貴方の実力を見せてもらうために私もここまでしてるのよ?

 今更、興醒めなこと言わないで頂戴」


「ハッ! よく言う」


「そうですよ聖女様。

 ミカヅチ様は折檻を受けるなんて言っていますが、三武神の中で最も強いお方なのです」


 意外とMなのかしら?

 そんなことを考えながらも攻撃に入る。

 私は攻撃を反らし隙を突く。

 ミカヅチは私の攻撃を無理やり避けながら、あるいは籠手で防ぎながら剣を手放し殴ってきた。

 間一髪で避けつつ、後ろへと後退する。

 そこへ、すかさずミカヅチが魔力弾を放ってくる。

 かめ○め波? あるいは、元○玉?

 精霊魔法かも分からない、見た目ただの魔力の塊が飛んできた。

 それを刀で斬り伏せる。

 無理かとも思ったけど、ただの魔力の塊だもの、暴風を纏った剣閃をお見舞いしたら霧散したわ。


「無茶苦茶するな」


「それはお互い様よ。普通、大の男が女を殴る?」


「戦場に立てば男も女も関係ねぇ。その逆も然り。

 誇り高き武人であれば、無抵抗な者を性別に関わらず保護せねばならない」


 確かにその通りだ。

 王様は案外、ミカヅチのこういった性格が気に入っているのかも知れない。

 王様と気が合いそうだものね。


「それで? 本来であれば私は端っこの方で治療に専念してるはずなんだけど?」


「知ってるか? 戦場では回復要員を最初に潰すのが定石なんだ」


「まぁ、普通はそうなるでしょうね……」


 MMORPGでも回復しすぎてタンクが仕事しないとヒーラーが攻撃されるのよね。

 一時期、知り合いに誘われてやっていたのだけど、変なタンクとマッチングした時は相当ひどい目に合ったわ。

 あれ? 私が聖女なのって元々、ヒーラー基質だからかしら?

 流石に偶然よね。偶然も必然なんて言葉があるけど、あんなの眉唾よ。


「さて、そろそろ決着といこうか」


 ミカヅチがそう宣言する。

 確かにお互いまだまだいけそうな感じだけど、これ以上に白熱してしまうと本気で相手を

 ここらで終わらせておくのが得策でしょうね。


「なら、まだ研究中のとっておきを出してあげる」


 折角だから試作技を使わせてもらう。

 対強者用の技をね。

 片手で持った刀を振るう。


 キィーン……


 キィーン……


 キィーン……


 リズム良くなる音は風鈴の名を持つ霊刀、クロシェット・アイレの奏でる音だ。

 途端にミカヅチの動きが鈍くなる。


「何だ? 身体が急に……

 仕組みが分からないが遠隔で相手を麻痺させるたぐいの術か!」


 その通り、これは音を使って相手の心身に影響を及ぼす魔法。

 まだ、この世界には存在しない風の精霊魔法を利用した特殊魔法で、私は音奏おんそう魔法と命名した。

 今、奏でているのは私が覚乱奏波かくらんそうはと呼称している旋律――ありとあらゆる感す演

 

「小癪な真似を!」


「それは完全に悪役のセリフよ?」


 しかし、やはりまだ調整が足りないのか、それとも屈強の武人の精神力が異様に強いのか鈍くなっただけで止めることは出来ない。

 そして、この魔法には一つ弱点がある。


「刀を振るって音を出してるせいで攻撃は出来ないようだな」


 その通り。

 これはあくまで相手を麻痺させる魔法。

 相手が麻痺したところを接近して攻撃しなければ決定打を与えられない。

 つまり、今のミカヅチの様に耐えられてしまうと私は無防備になってしまうのだ。


「安心しろ平打にしてやる」


 そう言ってミカヅチが峰の部分を使って殴りかかってくる。

 幾ら平打と言っても大剣だと面積が大きいから思いっきり吹っ飛びそうよね。

 こんなの喰らったら後遺症が残りそうなものよ?

 まぁ、喰らわないから関係ないのだけどもね。

 ミカヅチが殴った瞬間に私の姿をしたが霧散する。


「何だ!?」


「フフ。隙だらけの技だってことくらい私にだって分かっているのよ?

 流石に対策くらい用意しているわ」


 そう、これがもう一つの開発した魔法。

 風と水の精霊魔法を複合した霧の魔法。

 幻影を見せるその霧の名前は――


狭霧幻華さぎりげんか


 私はミカヅチの背後を取り、峰で首を斬りつけた。

 ミカヅチが膝を付き、そのまま倒れ込んだところで模擬戦が終了した。

 周りは呆気にとられているみたいね。

 まぁ、彼らには私が突然消えて突然ミカヅチの背後に現れたように見えたでしょうから無理もないわ。


「み、ミカヅチ様が敗北?」「今代の聖女様は規格外すぎる」「本当に人族なのか?」


 ちょっと待って?

 いや、確かに倒しちゃったんだけど、そんな人を化け物みたいに言わなくてもいいんじゃない?


「まさか、本当に勝ってしまうとは思いませんでした。

 これで、ヴェル・ド・ユグミル殿にもいい報告が出来そうです」


「今回は銃を全く使ってないのだけど?」


「いえ。ヴェル殿は流石に聖女様でも魔法は出来ても戦闘までは出来ないだろうと考えていたそうで、最初は銃の製作を渋っていたのですよ。

 宝の持ち腐れになるなら作らんと頑なに主張してらして……」


「ヴェル親方らしいわね。

 親方は自分の仕事に誇りを持ってるから」


「そうですね。聖女様が霊刀に選ばれたことをお伝えしたら一応、作ってくださいまして……しかし、これほどの腕があると伝えればヴェル殿も満足してくださるでしょう」


 ヴェル親方にはサスペンションの件でかなりお世話になったからね。

 この程度で恩返しが出来るのならそれに越したことはない。


「なら良かったわ。早めに親方にも報告してあげて頂戴」


「ええ、既に国王陛下にも報告に――」


「それは要らないわよ?」


「すみません。既に伝わってしまっているかと」


 よく見ると見学していたはずの兵や貴族たちが気がついたらいない。

 ……。

 明日を待たずに噂になるのね。

 うん。もう慣れた。

 明日が来るのが少し嫌になったのは言うまでもないかしら?

 どちらにしても、頑張るしかないんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る