第23話 才女、武神に会う
魔法銃を無事に手に入れた私は、折角、軍本部に足を運んだからと、内部を見学させて貰うことにした。
実際、来斗や鎮がお世話になっているみたいだから、どんなものか知っておきたかったというのもある。
「この軍本部は防衛力に力を入れています」
「へぇ……てっきり、魔族領へ攻め入る準備でもしてるのかと思っていたわ」
「国王陛下は争いを好まれない方ですので。
しかし、だからと言ってカルディア領内へ侵入する魔物を見逃すわけにもいきませんからね。
過去には侵入していた魔族を捉えたという事例もございます」
「軍だけで?」
「流石に難しいですね。
その時はたまたま三武神の一人、ミカヅチ様がいらしたので捕縛を依頼しました」
また聞いたことのない武神という言葉が出てきた。
意味は恐らく武に秀でた者を指しているのでしょうね。
あの王様、のほほんとしててちゃっかり凄い護衛を用意してたのね。
「そう言えば、そんなこともあったな」
突然の声に驚いて後ろを振り向けば、鍛え抜かれた肉体を惜しみなく見せる露出度の高い服を身にまとった屈強な男がいた。
いつの間に後ろに立たれたのかしら?
「お前が噂の聖女か?」
「不本意ながら、そういう事になってるわ」
「不本意? 不本意か! ハッハッハ! これは傑作だ。
まさか俺と似たような境遇の奴が聖女とは」
「似た境遇?」
誰がどう見ても純正この世界培養の人間にしか見えない彼だけど、まさか、この世界に召喚された人なのかしら?
「俺もただ趣味で大剣振り回してただけだったのに、気がついたら武神に抜擢されてたのさ」
なるほど、似た境遇とはそういうことか。
確かに、お互い不本意ではあるものの気がついたら、そうなっていたのだから似ていると言えば似ているわね。
「それにしても、俺と違ってそれだけの才を持ち合わせていれば、聖女に抜擢されるのも仕方なくないか?」
「さて、何のことかしら?」
「隠すなよ。抑えているのは分かってるが、加護の力を与えられてるんだろ?」
確かにその通りだ。
先日の洗礼を受けて以降、加護の力は常に供給されていて、周りに影響を出さないようにむしろ抑え込まないといけない状態になっている。
治癒魔法の訓練と同時並行で魔力の操作に関しても訓練をアル司祭が付けてくれているから、ある程度であれば霊気すらも抑え込むことが出来るようになってきたけど、それでも限度というものがある。
人が神の力を抑え込もうなど土台無理な話なのよ。
最近の私の気疲れには、実は常にこの加護を抑え込む必要があるというのもある。
アル司祭には「丁度いい訓練になる」と言われたけども、常に訓練というのは気が滅入る十分な理由になるような気もする。
ミカヅチにバレるのも仕方がない。
「折角だ。闘技場もそこにあることだし、一つ模擬戦をしてみないか?」
「武神様!?」
「いいだろ。それこそ、あん時に魔族を捕らえた借りをここで返せ」
「ですが……」
「なに、聖女には無理強いしないさ。やるって言った時は貸せってだけで」
軍が隊を動かして無事には捕らえられないと判断した相手を単独で捕らえた武神と呼ばれる男。
王様が存在を私たちに隠していたのも不思議だけど、彼を含め武神たちが本当に強いのであれば私たちはどうしてこの世界に呼ばれたのか?
それを知るには剣を合わせてみるしかないのかも知れない。
今の私ならある程度は対抗できるだろうし、出来なかったとしても実力を見分けられるくらいには実力を付けているつもりだ。
「いいわ。もっとも、私は戦闘が本職と言うわけではないから、貴方の期待を裏切ってしまうかも知れないけど構わないかしら?」
「当然だ。聖女は傷ついた人間を治してなんぼ。
戦闘が得意でないことは重々承知している。ただ、聖女が霊刀を授かるなど前例がない。
国王陛下もああ見えて人を見る目は非常に優れたお方だ。余程の事がなければ例え聖女の頼みでも受け入れはしなかっただろうよ」
不本意とは言いつつも意外と王様のことは信頼しているみたいね。
なら、久々に全力を出してみるのもいいかもしれない。
† † †
私たちは闘技場の真ん中で彼は大剣を、私は日本刀をそれぞれ鞘から抜いた。
「おいおい、片手で持つのか?
小さい剣だがそれなりの重さがあるはずだぞ」
「私は左手に銃を持つこともあるからね。片手で振ることにも慣れておこうかと思ったのよ。
それに、加護があるから大した重さはないわよ?」
なんでも、全ての属性の適正を持つ今の私は、火、水、風、土それぞれの精霊王と神様の加護を受けているらしく身体能力の飛躍的向上が見られるのだとか。
並の新兵では手も足も出ないでしょうね。と、アル司祭には言われている。
「なんだ。期待外れではなさそうだ」
そう言うと同時にミカヅチの姿が消える――否。超高速でこっちに突っ込んでくる。
私はすかさず刀を逆手に持ち替え、自身の頭を守るようにかざす。
振り下ろされた大剣が滑るように反れ、私の右側の地面に突き刺さった。
刀を握る右手を離し、落ちてきた持ち手を左手で掴む。そのまま、剣が刺さったことで一瞬止まった彼を左手で斬りつける。
「ぐぅっ!」
鎧は来ていないミカヅチだが鎧や盾の代わりに硬い籠手ををはめている。
左の籠手で刀を防ぎつつ、右手で剣を掴んで後ろに跳躍する。
「何が期待を裏切るだ。期待以上だぞこの野郎!」
「私、一応は女なのだけど?」
そう言って、ミカヅチを見据える。
そして、分かったことがある。
「手加減したわね?」
「――流石だな。侮っていたとはいえ、ここまでされるとは思わなかった。
それに、聖女を殺すわけにいかないだろう?」
「さて、本当に殺せるかしらね?」
彼の本気を見てみたくなった私は枷を外す。
抑え込まれていた霊気が溢れ出す。
やっぱり、周りを気にして霊気を抑え込む必要があるけど、放出してたほうが気持ちがいいわね。
「おいおい、神格でも与えられてるのか?
これはありえないだろ……」
「何のこと?」
「自分の力がどれだけ異常か気付いてないのか?」
アル司祭が何も言ってなかったから、こういうものだと思っていたのだけど違うのかしら?
ほら、抑え込むことが出来るってことはアル司祭とかも加護を与えられているわけで……
「周りの精霊が呼応するほどの霊気を放出することは、普通の人間には加護の力があったとしても無理だ。
その常識を無視してやってのけてるんだよ。本当に気付いてなかったのか?」
勿論、知らない。
聖女になれば誰でも出来ることだと思っていたから、文献に詳細が出てこないことも別に不思議に思わなかったけどそうではないみたい。
つまり、そもそもこんなに霊気を放出することが出来ないから記載されていなかったということ。
と言われても、無理は一切してないどころか抑え込むほうが辛いのだけどね……
「お前、これだけの霊気を抑え込んでたのか?
たかだか数日でそこまで出来るとか化け物か?」
「失礼ね。ただ真面目に訓練しただけじゃない――ほら、続き行くわよ」
「――っ!?」
そう言って地面を
風の精霊魔法によって強化された速度で一気に間を詰める。
「疾い!」
「遅い!」
迎撃に振り下ろされた剣を右手で反らし、そのまま剣戟をお見舞いする。
一応、ギリギリのタイミングで峰に持ち替えたから傷は付いていないはず。
どちらにしても浅かったから大したダメージにはなってないでしょうね。
「それで? いつになったら本気を出してくれるのかしら?」
挑発のつもりはない。
武の天才にして、国防の頂点、要たる彼ら武神の力を私は見極める必要がある。
「いいだろう。ただし、死ぬなよ?」
そうしてミカヅチは今までにないほどの威圧と殺気を放つのだった。
――――
あとがき
本日、カクヨムコンテスト4の読者選考期間最終日です。
文字数の関係で4話ほど更新します。
これが16時に投稿されているはずなので、18時、20時、22時に残りを公開予定。
なお、22時の更新は場合によっては少し遅れるかもしれませんので、予めご了承ください。
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