治癒魔法覚えます
第20話 才女、神の使いと会う
神聖魔法、それも治癒魔法を教えてもらう約束した翌日。
部屋でのんびりしている所に一人のシスターがやってきた。
「は、初めまして! せ、聖女様! きょ、教会から来ました、エ、エル・グラビと申します!」
頭を下げる勢いで前のめりになり、そのまま倒れてしまった。
頭からいったから凄く痛そう……
「うっ! ご、ごめんなさい! わ、私そそっかしくて……」
「いえ、それは大丈夫だけども――怪我してない?」
「はい! このくらいの怪我なら治癒魔法ですぐ治りますから大丈夫です!」
その甘えがそそっかしさの原因なんじゃないかしら?
何となく、この子は放置していたら、ずっとこんな感じじゃないかと思う。
「それで、教会からということは、治癒魔法の指導者に関しての連絡かしら?」
「はい! なんでも司祭様自ら指導をさせて欲しいとのことで、まずは一度教会に来て下さいということです。
予定は空けてあるので時間の都合がいい時にいつでもどうぞと言ってました!」
「そう。なら、今から行きましょうか」
もとより今日は治癒魔法を習うために空けてあるのだから、習いに行くのが普通よね?
エルも「わかりました!」と言わんばかりに、手を前で祈るように握ってるし、特に問題はなさそうね。
なら早速、教会とやらにお邪魔するとしましょうか。
「ルカは申し訳ないけどお使いを頼まれてくれるかしら?」
「お使いですか?」
「この国の音楽に関する書籍を集めて欲しいの。
音楽理論から歴史、楽譜に至るまでね」
「畏まりました。でも、サイカ様。
治癒魔法が使えるようになったら真っ先に見せてくださいね?」
「ええ、約束よ」
† † †
教会はてっきり王宮の中にあるものだと思っていたのだけど、山を下りて街の近くまで行った所にあった。
「こんな所に脇道があったのね」
「そうですね。細い道なのでこの国に来たばかりの人は迷うことが多いですね」
暫くすると大きな建物が見えてくる。
かなり立派な造りだ。
日本国内の教会では到底太刀打ち出来ないでしょうね。
「どうぞ中へ」
エルに促されるように中へ入る。
エルは人見知りらしく、慣れれば出来たシスターさんになるみたい。
内装も古めかしく趣のある感じだ。
その先に司祭が待っていた。
「いやー、ご足労頂いてしまってすみません。聖女様のお噂はかねがね」
「……」
「うん? どうかしましたか?」
「え、エルフ?」
「はい! 如何にも。私の名前はアル・ブリューソー。
エルフ族ですが、ここで司祭を勤めさせて頂いてます」
エルフと言えば長寿に魔法っていうのがファンタジーのお約束よね。
治癒魔法もアルが教えてくれるってことは魔法が使えるってこと。
やっぱりお約束はお約束なのね。
「ところで、『エルフ族ですが……』ってことは種族差別みたいなのもあるわけ?」
「残念ながら……。と言っても、カルディア王国ではそんなこともないんですがね」
まぁ、王様があれだからね。
種族差別とか絶対許さないでしょうけど。
「昔は別の国で獣人族の司祭様が暗殺されたなんて事件があったそうです。
暫くの間、本格的な戦争になりかねない緊迫した状態が続いたんだとか」
「どこの世界も同じ様なものなのね」
「聖女様のいらした世界も?」
「昔ね。有名な牧師が暗殺される事件があったの。
私たちの世界で言語を話して文明を築いてるのは人間だけ。
だけど、その人間にも人種って言うのがあって、白人、黒人、そして、私たち黄色人種。
肌の色で差別なんかをしていたのよ。大分、厳しくなって昔に比べれば随分と緩和されたんでしょうけど、なくなったわけじゃなかったわ」
実際、その手の話題は大事になるものも多く、ニュースになることもあった。
場合によっては黒人というだけで射殺されてしまった、普通じゃありえない考えがたいシーンが映像として出回ることもあった。
「ところで、アル司祭は何歳なのかしら?」
「歳ですか? こう見えて二十五歳なんですよ」
意外。エルフって長寿だと思ってたから、これだけ若く見えても実は七十歳って言われても全然驚かないのに。
「その顔は意外と若いなぁって顔ですね」
「あら、分かっちゃった?」
「やっぱりそうですか。いえ、異世界から来た方はエルフが長寿の種族と思っているらしく『てっきり百歳くらいは超えてるんだと思ってた』とよく言われるそうなんですよ。
確かにエルフは長寿ですが、精々、百五十から二百、長い人で三百歳くらいなんですがね……」
それは日本の創作物のせいでもあるから私からは何も言えない。
でも、こうして見てみると、耳が長いこと以外は本当に人間と変わんないのね。
よくよく考えると獣人族ともあったことないし、そのうち会ってみたい。
「さて、そろそろ治癒魔法について講義を始めましょうか」
そう言って奥の席に案内される。
アル司祭自身は立ったままだ。ちょっとした講演会みたい。
そして、講義が始まる。
――治癒魔法
それは、神聖魔法と呼ばれる精霊魔法とはまた違った力を持つ魔法。
火、水、風、地の四属性を持つ精霊魔法に対し、神聖魔法は聖属性の魔法しかない。
神聖魔法は聖属性の魔法であるため、汚れの浄化が主な力となる。
聖属性には癒しの効果もあり、この癒しの効果を最大限に利用したのが治癒魔法なのである。
中には、怨霊の類いを浄化して回る神聖魔法の使い手も存在するのだとか。
「まぁ、つまり、精霊の力を借りて行使する魔法と違い、神から力添えを受けて自身で行使するのが神聖魔法というわけです。
なので、早速洗礼を受けておきましょう」
なるほど、神の使いにならないと使えないということね。
でも、それは逆に言うと精霊同様に神に認めてもらえないと使えないってことよね?
「洗礼を受けるのは問題ないんだけど、それだけで治癒魔法が使えるわけじゃないのよね?」
「もちろん、その通りです。適正はありますが……まぁ、聖女様なら大丈夫でしょう」
一体、何を根拠に大丈夫と言っているのかは分からないけど、別に適正がなかったところで損害を被るわけじゃない。
大人しく洗礼を受けておこう。
「では、まず着替えですね!」
「は?」
前言撤回。
何か嫌な予感がする。
逃げようかと思った時にはエルに捕まえられていた。
なんだろう、さっきまでのポンコツぶりは何処へやら少し笑顔が怖い。
多分、私は引きつった顔をしていたと思うのだけど、問答無用で小部屋へと押し込まれた。
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