第12話 才女、いいことを思いつく
声にならない呻き声が部屋に充満している。
私の私室に一体何が……?
意識が朦朧としているせいで状況が確認できない。
最初は精霊もいることだし、遂に霊的何かが来たのかと思ったけど、周囲の状況を見て理解した。
ああ、私はマシな方なんだって。
だってね? 見て、この惨状。
恵子ちゃんは口開けてソファーに倒れ込んでるし、鎮も白目向いて気絶してる。
来斗は意識はあるものの、腰を痛めてソファーにしがみつき何とか立とうとして、倒れるなんてことを繰り返してる。
かという私はどうかと言うと、全く動けずルカに引きずられてる。
ルカは私の脇下に腕を通して丁寧に運んでくれているのだけど、女の子だから持ち上げられなくて足を引きずっちゃってるのよね。
私は全然構わないのだけど、どうやらルカは気にしてるみたいで、「ごめんなさい。ごめんなさい」って連呼しながら運んでる。
これはさっさと寝て疲れを癒やさないと……
意識が落ちる前にルカに恵子ちゃんをベッドに、他の二人には布団を用意してしっかりと寝かせてあげてとお願いして意識を手放した。
多分、死んだように眠っていたんじゃないかと思う。
――翌日。
昼過ぎに目を覚ました私達はリビングのソファーに座り集まった。
「もう、無理!」
それが、最初に発した言葉だった。
ええ、もう本当に……
街へ出てから一ヶ月。
各々の目的の為に毎日、街へと繰り出していたのだけど、あの凶悪な砂利道の存在を避けられるわけではない。
ずっと、苦しめられてきた。
最初の数日こそ徐々に慣れ始めたのか気にならなくなっていた。だけど、体への蓄積まで分かるはずもなくこの有様だ。
それもこれも、全て王様のせいだ。
実は、気になって先生に聞いてみたのよ。
『先生、質問があります』
『うん? サイカさんが質問とは珍しいですね。
私で答えられる範囲なら何でもどうぞ』
『何故、王城はあんなに街から離れているのでしょうか?』
『ああ、なるほど。異世界人である皆さんは知らないのも当然ですね。実は――』
このカルディア王国は、実のところ既に何百年もの歴史を誇る大国なのだそう。
以前あった王宮は老朽化が酷く、いっその事、建て替えてしまおうという事になったらしい。
そして、出来たのが今の王城。
現在の国王であるオスカー・カルディアは幼少期、被召喚者を家庭教師に持っていたらしい。
そして、そいつがガッチガチの城マニアって奴だったらしく、城の魅力という魅力を熱心に教え込んだのだとか。
しかも、この布教が見事に実を結び、オスカー・カルディア国王は日本人顔負けの城マニアへと昇華したんだって。
つまり、「どうせ立て直すなら城作ろうZE☆」というノリで今の王城が建てられたということ。
せめてもの救いは、日本の戦国時代に流行った天守閣付きの城を建てなかったということでしょうね。
王様は日本の城がお気に入りらしく、山の上に建てたのもそういった理由からだそう。
別に、日本の城だって必ず山の上にあるわけじゃないのに!って思ったけど、今更言っても仕方ないわね。
それはともかく、一ヶ月の課外活動を終え、しばらくは城で独学することになる。
教わることの多かった私に合わせてのスケジュールになってしまったけど、実際のところ四人とも、繰り返し反復練習をしないと知識に体が追いつききれていない状態なのよ。
だから、休憩もとい習ったことを定着させる時間を設けることになった。
でも、その期間が終われば次のステップに進むべく、また地獄のガタガタロードを進むことになる。
それだけは避けたい! 切実に避けたい!!
となれば、異世界でどんな影響が出るか分からないし遠慮しようかとも思ってたけど、背に腹は代えられない。
早急にあれを作ろうと決めた。
「というわけで、第一回チキチキ悪巧み会議を始めます」
「「「おぉぉぉ……」」」
私の声に対して三人の声は小さかった。
無理もない。あれだけこっ酷く疲弊させられれば誰だって一日程度で回復できない。
ちなみに、昨日、全員が倒れた理由は簡単で魔法のリバウンドによるもの。
あまりにもキツいと感じた私は疲れを誤魔化す所謂、社畜用の魔術を教えてもらった。
誰に? 召喚された日に出会った召喚の統括さんのお見舞いついでに教えてもらったのよ。
今まで張り詰めてたからか、頼られて安堵したのか、快く教えてくれた。
相変わらず回復魔法は扱えないから、筋肉痛とかは治せないけど、この一ヶ月の間、馬車による疲れを誤魔化すことは出来た。
そして昨日、その疲れが一気にやってきた。
この魔法のデメリットは、催眠に近いから常駐魔法に近いわけだけども、魔法を解除しないと体を休めることが出来ないということ。
昨日で最後ということは体を休めるために魔法を解除するわけで……
あとはご想像の通り。
「それで、相澤。具体的に何をするつもりなんだ?」
「最近ね。休憩の合間に色々と見ていたのだけど、鉄加工技術はあるのよ。
だから、バネもあるの」
「バネは確かにあったね。どこで見たのかは忘れたけど」
日本で身近なバネと言えばボールペンに用いられるが、生憎とカルディア王国では羽が使われている。
私の仮説だけれども、恐らく時間軸的にもここは外れていて、色々な世界や時代から人を呼び寄せられるのではないかと思う。
そう考えると、自動車がないのに馬車があったりというのは納得が出来る。
「それは分かったが……バネなんか何に使うんだ?」
「私は思ったの。あの馬車を使うから体が悲鳴を上げているんだって」
「まぁ――そうだな……」
「だったら、あの馬車を自分たち用に改造してしまえばいいのよ」
「……あぁ――そうだな……」
「だから、サスペンション付けちゃいましょ?」
「悪い。流石に思考が追いつかないわ」
来斗が諦めたかのように項垂れてしまった。
少なくとも私は変なことを言ったつもりはない。
道を舗装するには資材――は王様に用意させるにしても、現場指揮が出来る人間が私以外に居ないだろうし、人手も時間も足りない。
少なくとも、復習をする傍ら合間合間で作業を進められるようにする必要がある。
なら、馬車を改造するのが一番手っ取り早い。
しかし、今一度、自分たちの状況を今一度確認する。
「何か始めるにしても、体をゆっくり休めないとどうしようもないわね」
結局、作戦決行初日の準備はふて寝から始まった。
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