花人にだって、花火を綺麗だと思う心がある。

「彼女……いばらは、本当に可愛い子でした。子犬みたいな、そんな子。私たち以外には懐かなくて。いつも、私はいばらと一緒にいました。りょうかおるが、そうしてくれたように」

 彼女は立ち上がると、咲き誇っている薔薇ばらに触れる。

 それは、頭を撫でているように見えた。

 慈しむように細められていた目が、ふ、と曇る。

「だけど、彼女だって、やっぱり花人で。抱えている事情があって」

 白くてほっそりとした指が、蒼い薔薇から離れていく。


 一度薄墨色の瞳は、薄い瞼に隠されて。

 もう一度その姿を見せれば、すっと俺のほうを向いた。


「ここの近く……と言っても、遠いけれど、近くの町で、いつも八月中旬にやっている花火大会、知ってますか?」

 知っている。

 知らないはずがない。

 だって。

「知ってますよ。俺、そこに五歳の頃から住んでるので」

 言えば、彼女は驚いたように目を丸くする。

「そうなんですか?」

「はい。……あなたは?」

 まあ、答えは想像できるけれども。

「私は、住んだことはないんですけど。綺麗な花火ですよね、近くで見られるの、少しだけ羨ましいです」

 ふふ、と笑って、彼女はまた、俺の隣に座る。

「私、毎年この土地から見てたんです、その花火を。地下室に入るまで。ずっと。それで、その年はいばらも誘って見に行きました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る