書き手としては無視出来ない! ついに見た『鬼滅の刃』

ワタクシ、本屋によく行く人間なんで、『鬼滅の刃』という作品についての認識はわりと早くありました。正直、読みたいとは思いませんでしたねえ…。鬼退治、兄妹愛。使い古されたテーマだと思いました。主人公が優しい? そんなん普通じゃん! 少年マンガでは優しくない主人公の方が稀じゃい! と…。

ただ、ここまで社会現象になると、物語を書いてる者としては、さすがに無視出来なくなりました。一体これは何なんだ。何がこの人気を支えているのか。

ついに見ました。そして読みました。とはいえ、映画一本とマンガを二巻まで読んだだけですが。

とはいえ、その前にネットやテレビでかなりの情報が入って来ていたので、炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶといった主要キャラだとか、全集中だの水の呼吸だの…色んな事を知ってはいました。

それはそう、昔の日本人が『清水次郎長』? ああ、全部は知らないけど、森の石松とかのやつね? 「江戸っ子だってねえ、呑みねえ食いねえ」ってやつだよね? とか言ってたであろう、あの感じに近いんじゃないかと思います。

映画を見た感想。まさに、昔の日本人はこんな感じで娯楽を楽しんでたんだろうなあ、とそんな感じを抱きました。清水次郎長、国定忠治といった、浪曲や講談でよく知られた話の名場面を、寄席に聞きに来たかのような…。

映画を「芸術」という観点からのみ見るなら、「鬼の動きは宮崎駿ならもっと迫力出せるんじゃないか」とか、「脚本は登場人物が内面を語り過ぎ、溜めが多すぎ」とか思うところはいろいろありました。しかし、「これは浪曲や講談の世界だ!」と思うととても楽しく、近年稀有な娯楽体験が出来たと思います。

おどろおどろしい鬼が出て来るのが、縁日の見世物小屋的でもあり、子どもが観たがるの、分かるなあ…、と思いました。子どもはそういう、「闇」に惹かれる時期って、絶対にあるんですよね。それは無下に否定するべきではない。

異形の者達が大暴れする所は、どこかインドの「マハーバーラタ」なんかも彷彿とさせます。偶然かもしれませんが、炭治郎はマハーバーラタのヒーロー、アルジュナ(剣じゃないけど弓の業がむちゃくちゃすごくて、優しく兄弟思い)やカルナ(日輪の子で耳に飾りを付けている)に重なるキャラクターだと感じました。

寄席や浪曲、見世物小屋、マハーバーラタなどは、ハレの日に人の集まる場所で催されてきた娯楽といえるでしょう。しかし今はコロナの影響で、人が集まる事は容易ではありません。しかし「鬼滅の刃」は、「興業収入最高額更新なるか!」というニュースやテレビやネットの盛り上がりは、明らかにに「祭り」的高揚感があります。

コロナの閉塞感の中で、人々が、昔ながらの、祭りの場の匂いを持つ作品にかえって惹き付けら、社会現象になる後押しをしたのではないかと、そんな風に思うのであります。

キャラクターもうまいですね。個性的なだけでなく、現代的だったり共感出来る人物が必ず一人はいそう。単純な比較は難しいけど、キャラの描き方に関して言えば宮崎駿より上だと思います。ワタクシも小説で善逸のような女好きや伊之助のように獣の面で顔を隠したキャラを書いているんですが、ポイントはそういう表面的な事ではなく動機付けだったり内面の掘り下げ方だなあ、と思いました。

ちょっと話はそれるんですが、とある雑誌に「鬼滅」の著者は社交性に乏しい女性で、結婚か介護を理由に実家に戻った、と報じられているのを読んで、興奮してしまいました。記事が事実なら、漫画の才能だけ恵まれたごく普通の女性が、エンタメ界をこれだけ動かしたんだとしたら、それこそ漫画的で夢のある話ではないでしょうか。

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