第9話「高橋 優」 ~悲しみもいつか笑顔に変えられる日が来ると信じている~

 翌日から土曜日までは、

 とりあえずお休みをいただくことになった。


 治療するまでは、症状は改善に向かうはずがない。

 首はどこまでも右に回ろうとするので、

 基本的に寝ているしかない。


 首を固定していても、否応なしに回る。

 右に回ろうとするので、左手で首を抑えて何とか凌ぐしかない。


 妻もフルタイムで働いているので、

 日中は一人だが、不便なので何もできなかった。


 金曜日に母が上京することになったので、

 それまでは何とか一人で頑張らなければならない。


 朝寝坊すると、夜が眠れなくなりそうなので、

 毎朝、七時前後には起床した。


 趣味は読書だが、本を読むのも困難だ。

 テレビは最近観ない。

 

 アマゾンプライムで映画を検索してみる。

 ずっと画面を見ているのは辛いが、休み休みなら何とかいけそうな気がする。


 目的もなく、タブレットの画面をスクロールしていく。

 評価が高い「東京難民」という映画が目に留まる。


 失礼ながら、期待感なく、映画を観始めた。

 

 大学生が大学を除籍してから、

 ホストや肉体労働をしながら、

 最後はホームレスになるというストーリー。

 

 首と相談しながら、途中休憩を挟んで、観終わった。

 エンドロールをバックに音楽が流れる。


 聞いたことのない声だ。

 最近は、ミスチル、福山雅治以外聴かないので、

 全く知らない歌手だった。


 映画のストーリーと歌詞がマッチして、

 さらに今の惨めな自分の心境などが折り重なる。


 気づいたら、涙がこぼれ落ちてきた。

「始まりも終わりも知らされず誰もが今を歩いている」

「巡り合う命の繋がりを人は愛と呼ぶ」

「いつか帰るべき故郷を探し続ける旅人」

「生まれてくるときは皆一人 息絶えるときも一人」

 

 始めて聴いた曲だったが、

 言葉が胸にさっと沁み込んでいく。


 調べてみると、歌い手は「高橋 優」さんだった。

 曲名は「旅人」


「悲しみもいつか笑顔に変えられる日が来ると信じている」



※8話の副題

 高橋優さんの「旅人」の歌詞の一部です。

 

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