あはん アイスクリームでもスプーンを曲げられます

 あらあら、やっぱり曲がっちゃったわね。



 年代物のアイスクリームのパイントが出てきたのよ。

 そこでフタをグリグリめりめりとひっぺがしてみて、おかしな色味にもなっていないし、ひんやりほわほわと結露しながら周囲の空気が冷っこく白い冷気になっているのを見ていたらね。

 こう、すっくと立ち上がって床に散らばる冷凍庫の中身をひょいひょいと避けながら茶箪笥に向かっていたわ。


 アイスクリームを掘ろうと思って持ってきたステンレスのスプーンね、カレーライスを食べる時に使う大き目で丈夫なスプーンの柄を握ってぐりぐりぐりぐりとアイスクリームに突き立てたまでは耐えていたのだけれど、いまだにやたらと冷っこいアイスクリームで冷えたスプーンを握っていられなくなっちゃった。

 パイントの容器のフチまで目一杯に入っているアイスクリームからステンレスの柄に空気の水分が結露して凍り、白っぽくなってきてほぼ垂直に揺らぐことも無さそうに屹立しているわ。


 よし、電子レンジでチンしてしまいましょう!

 そう閃いた私は早速迷った。

 カレーライスを食べるスプーンが生えていて電子レンジの中に立てて入れる事が出来ないの。苦心して突き立てたけれど冷たくて握っていられなくなり暫し観察していたら真っ白に凍ってアイスクリームと一体化してしまったかのようなスプーンの柄が邪魔だし金属なので電子レンジに入れない方が良い。昔、お隣のおっちゃんから欧州出張のお土産でもらったお皿に間食の積りで冷凍チャーハンを乗せてチンしたらバチバチと異様な音がし始めて金色や銀色の模様が焦げてしまった上に猛烈に母から叱られた事を思い出して頭に入ってる血が下がり果てたような感慨が去来した。


 よしー!引っこ抜く!少しでも掘り進めてちょいとアイスクリームを味わいたいという甘い物欲が我がフィジカルに満ち満ちてまいりました!妹は総合格闘技の世界一にもなったくらいの妹だ!姉の私だって妹に及ばない事を自覚してはいるけれど一緒に稽古も修行もしていたくらいに姉なのだ!と、電子レンジが設置してある台所の一角でスプーンが真っすぐ上に向かって生えたままのアイスクリームを睨みながら握っていた拳を開き足元から頭のてっぺんまでリラックスを意識しながら呼吸を整えた!

 ぎっ!

 左手でアイスの容器を掴みつつ右手でカレーライスを食べる為に作られた大ぶりの、そして少し長めの柄を掴んだ!冷たさが両手のひらから浸みてくる!むっふー、負けるか負けるか負けるかー!

 ぎぎっ!

 右手で掴んだスプーンの柄を更に握りしめ肘と肩を固めてじんわりと右から左へわずかに倒し込む!なんと強情なスプーンの柄とアイスクリームだわね!わずかに左へ傾いた柄を右側に倒し込むのよう!

 くにゃ。

 あはん。

 あらあら、やっぱり曲がっちゃったわね。

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