鰹なら杭が打ち込めます。

 さて、出ました。


「よう!氷を持って来てくれたんだな!たすかるぜー」

「わー久しぶりー、おっちゃーん!神事の本番前にはまた持ってくるからねー」

「おーおー!かき氷器は朝に幾つか届けておいたから、早速食い尽くされるかも知れないなっ!今年こそは自分で届ける事にしたのか!食いっぱぐれしなさそうだなっ!」

「シロップと練乳チューブとー、つぶつぶアンコも届けてくれたっ?」

 妹と隣の旦那さんが顔を合わせたのか、二人が大きな声で挨拶している。

 うちの勝手口が面してる通りの並びにお住いのお隣さん。

 普段から開きっぱなしの裏門から入って50m程の屋敷からおっちゃんが妹と挨拶を交わしてそのまま二人は大きい声でお喋りし始めた。


 ちなみに、壊れた冷蔵庫の前で私がとっ散らかってるこのお台所からお隣の裏門まで大たい80mは離れてる。

 せっかくの氷が溶けちゃうから早く届けなさいよっ!と思いつつ冷凍庫の整理を再開する。



 出ましたのよ。

 凍った鰹、ですっ!

 バナナは釘が打てますが。

 一本の鰹なら木杭が打ち込めます。

 多分。


 先祖の誰かが今の私のようにこの冷蔵庫前で冷凍庫から取り出して、うっかり取り落としたみたいでさ、口先や尾鰭が欠けている。

 冷蔵庫の斜め前あたりの床に凹んだ古い凹み傷があるんだけれど、「なんでこんなところに傷が有るのかな?」と、子供の頃から常々不思議に思ってたのよね。


 鰹全体を子細に見ると、背鰭や胸鰭も凍ったまま割れたのか、パリッと割れて欠けているし、尻尾の細くなったところを掴んで逆さにした鰹の先っちょが床の凹みにジャストフィットした。


 桧の床に刺さる鰹、って、どんだけ固いんだよ。

 何年間冷凍されたまんまなんだか想像しようとして止めた。

 この床よりは新しいのだろうなと納得しかけた所で、この屋敷が築何年経ってんのか直ぐに思い出せなかった事に気付く。


 家に子供が生まれると昔馴染みな写真屋さんに来て頂いて、玄関前で家族揃っての集合写真を撮影して、職人さんに用意して頂いた額に入れて床の間の鴨井に並べている。


 写真が新しく追加されると古い方から丁重に仕舞ってんだけどさ、随分昔に専用の書庫が設けられて保存していたりする。

 それで、あたしの旦那との子供が生まれた時に一つの写真を仕舞う事になったんだけど、ついでにどんな写真が有るのか見てみたくなって、新しい方から百数十枚の額をひとつひとつ見てみたら飽きちゃった。


 こんなこと思っちゃうとご先祖さま達からバチ当たりだって叱られそうだけど、家族は代々入れ替わりつつ庭木もちょっとずつ変わってきてるんだけど、背景の玄関と屋敷と更に屋根越しの遠くに小さく映ってるお寺の山門は同じままだった、けど。

 けどけど。


 代々の家族だって、整理の都合という半分義務感でこの書庫にやってきた際に気まぐれでつい見始めたなら全く同じ構図でちょっとずつジワジワと変わってく写真をひとつひとつ眺めていったら飽きるよっ。






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