冷たい青竹踏み

「お姉ちゃん、なにー、どうしたのー?足元が冷え冷えで顔色も冷え切ってるけど、だいじょぶー?」

 妹がひょっこりと勝手口からキッチンに上がりこんだ。

「そこっ!踏んじゃだめ!痛くないのっ?」

 妹の足元を指さしながら注意を促そうとしたけど間に合わなかった。


 大きなクーラーボックスを左右たすき掛けにぶら下げた妹が立っていた。

 暑い中を妹の旦那さんの製氷工場から歩いてきたみたいだわね。でも汗をかいているけれどなぜか涼し気ね?と思い、もう一度妹の立ち姿を眺めたら足の下に妙な形にひしゃげて凍結した保冷剤を踏んでるわ、痛くないのかしら?


 とりあえず急いで冷凍庫から取り出して散らかしたままの凍った保冷剤を妹は踏んでるよ。痛くないみたいでゴリゴリと足踏みしながらでっかいクーラーボックスをすっと持ち上げる。


「あはは、ひゃっこいー、冷たい青竹踏みー。ああそうそう、旦那の会社の冷蔵庫からお祭りの差し入れに氷を出してきたんだけど、なんか取り込んでるみたいだねー。これに一旦仕舞っとく?」

 と言いながらクーラーボックスをドスンと床に下ろして蓋を開けようとする。


 そろそろ溶けた保冷材のジェルが噴き出すんじゃないかとちょっと怖くなってきたわね。


「せっかくあんたの旦那さんが用意して下さった氷ですからね、そのクーラーボックスを空ける為に入っている氷を捨てようとするんじゃないわよっ?!勿体ないわよもうー、先に神社へ届けてきてよっ!」

 モッタイナイ心が刺激されつつ、体格と比べてもでっかいクーラーボックスをぶら下げた妹に頼む。


「えー、神社の本殿じゃ歩いて行かなきゃならないじゃん。車で直接行けないからやだよー。あ、懐かしいアイスクリームだー、お姉ちゃんこれ食べても良い?」

 開けていた蓋から妹が手を放して重さを想像させるような音をボコッと立ててクーラーボックスは閉じた。


 外の暑さを思い返したのか拗ね気味にその場でしゃがみこんで散乱している冷たいブツを物色していた妹はアイスクリームを見つけて笑顔になる。


 ひゃっこい足元を堪能してご満悦な顔の妹につられて現実から目を逸らしたがっている私もほっこりしてきた。

「食べても良いけれど・・・・あんたそれ、中学校に通ってた頃のじゃなかったっけ?そろそろ溶けた中身のジェルがブチャーっと出てきそうだからグニグニ踏むのをやめてちょうだい。あと、お祭りの応援にきてくれてる権禰宜さん達が楽しみにしていたからさ、氷はちゃんと届けてあげたいのよ、お願いよ。」


「ううーっ・・・・下駄で石段を上がるのはちと厳しいからっ、お姉ちゃんの運動靴を借りてくねっ!」

 顔がむむーっと拗ね気味に戻り掛けるも、氷を前に喜ぶ宮司さんや神職さん方の喜ぶ様子を思い浮かべ気持ちの折り合いをつけたのか、うんうんと何度か頷きながら得心顔を見せる妹は下ろしていたクーラーボックスのストラップを肩に掛け直しすっくと立ち上がった。


「つっかけて踵をぶっ潰したりしないでちゃんと履きなさいよー。」


「おっけー。わかったようー。」

 勝手口とは反対側の廊下に続く引き戸までまですたすたと歩きながら言った。


 ここに来た時と同じように一つにつき氷六貫は入ってる筈のクーラーボックスを二つぶら下げてスタスタと立ち去る妹を見送る。相変らずだわー。


 とっても良い返事は返ってきたけれど、靴の踵はぶっ潰れて駄目になりそうだわね。


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