ジラーチ誕生日小説〈4〉



 ─当日─


「ドキドキするわね...。あ、何か忘れてないかしら?確認しないと。」


 アイスケーキに貰ってきたりんごの炭酸飲料、ストラップをつめたプレゼントボックス、先生方からのお祝いメッセージ、そしてロウソク。


「そういえば、溶けないようにしてるって言ってたけど、下の氷でできた土台だけで大丈夫なのかしら...。」


「ボクが周りの空気を冷やしてるから、溶けることは無いよ。」


「そ、そう...。」


 いつもとても成績が良くて、基本的に嘘はつかないハミルくんの言葉を聞いても、心配で仕方がなかった。そしてそれをどうにか紛らわすために、テーブルの周りをぐるぐると回っていた。


「そんなに心配しなくたって大丈夫。ジラーチは喜んでくれると思うよ。」


「校長先生...。でも心配なんです、今までこういうことしたこと無かったし...。」


「ジラーチもきっと、君の頑張りをわかってくれると思うよ。」


 チリンチリン。

 鈴の音が鳴る。2人が来た合図だ。


「よし、着いた。」


「真っ暗だよ...?」


「せーの、」


「「「誕生日おめでとう!」」」


「え、あ、ありがとうございます!それに先生まで...!」


「ちょっとココと厨房を借りるために話に行ったらこんな展開になって...」


「ほい、これ。」


 ジラーチ「凄い、ケーキの上にバラが乗ってる...!」


 最終的に2人が作り上げたのは、当初予定していたケーキの上に、砕いた冷凍マンゴーを混ぜたアイスクリームで作った4つのオレンジのバラを乗せたものだ。オレンジのバラの花言葉は「信頼」。フタバちゃんらしいチョイスだと思うわ。そしてケーキの下の氷のプレートは、Happy Birthday! と削られていた。


「そのバラも全部、アイスで出来てるの。ここのところ暑いし、涼もうってことでね。」


「因みに外なのに溶けてないの、フタバにも手伝ってもらったからなんだぜ。」


「みんな、ありがとう。」


「どういたしまして、ジラーチ。」


「あぁもう、ボクが化粧直しをしている間に始まってしまったのかい?」


 いつの間にか消えていたハミルくんが、そう零しながら帰ってきた。せっかく良い雰囲気だったのに。


「ハミル、おせーぞ。お前の分は少ししかねーかんな。」


 フレッドがそういうと、ハミルくんがやれやれという仕草をした。うん、フレッドの気持ちを少し分かった気がする。


「誰がフタバを手伝ったと思ってるんだい?そのケーキ、フタバが成功させるまで食べ続けていたんだ。むしろ要らないくらいだよ。」


「誰の作ったケーキが要らないって?」


 カトレヤ先生と面談があったフタバちゃんは、知らぬ間に帰ってきていたようだ。そしてハミルくんに飛びついている。それに動揺せずに普通におんぶしているハミルくんがすごい、というか。


「フタバ、おかえり。でも、いくら配ってたって8分の1は僕が食べることになるんだし、この11日間で累計3ホール以上は食べた。ジラーチへの想い、ボクには十分伝わったよ?」


 3ホール以上って...。ハミルくん、フタバちゃんの為にものすっごく頑張ったのね。


「そっか...。でもせっかく上手くいったんだし、一口は食べてほしいなぁ。」


「フタバがあ〜ん♡ってしてくれたら食べる。」


「ちょっ、ばっ、ハミル何言ってんだよ!?」


「うん、わかった。」


「フタバもOKするんじゃねぇ!」


 フタバちゃん、すっごいキョトンとしてるわ。「こっちがお願いしたことなのになんで?」って顔ねあれ。やっぱりあの3人を見てると面白いわ。


「ねぇ、ヴェロニカちゃん。」


「ん、何?」


 不意にブレザーの裾を引っ張られて振り返ると、そこにはジラーチがいた。


「誕生日会、してくれてありがとう。」


「誰もそんなこと言って...あ。」


 一瞬、校長先生と目が合った。絶対教えたの校長先生ねこれ。


「別に。大切な友達、なんだし。」


「じゃあ、ヴェロニカちゃんの誕生日の時はもっとびっくりさせるから!もっと大切な友達ってヴェロニカちゃんが思えるように、ね!」


 そう言いきったジラーチの笑顔は本当に天使のようで、どこか違う扉を開けてしまいそうになった。






 普段より、より一層キラキラと輝く星たちは、まるで彼ら彼女らの1歩を祝福しているかのようだった。



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