ジラーチ誕生日小説〈3〉
─途中経過─
授業が終わって寮に戻る道のりの途中、フタバちゃんとハミルくんと会った。
「あ、ヴェロニカ!条件付きでOKだって!」
「条件?」
「うん。当日の誕生日会は校長先生もいるってことと、」
「うん、校長先生もね、ってえぇ!?校長先生来るの!?」
「うん。生徒が楽しんでる姿を見たいんだって。あと、厨房を使う時は、必ず妖精さん2人以上と一緒にいること、だって。」
「え、2人も...?」
妖精はこの学校の端っこを歩いて一周すると1時間はかかるような広さなのにたった20人で管理している。それなのにベッドのシーツは3日に1回は選択されているし、いつも校舎内、外の庭は綺麗にされていて、人数が少ない分一人一人の仕事が多いはずなのに...。
「妖精がいれば大きな被害は間違っても出ないからってことらしいよ。」
「あれ、ハミルくんも一緒に行ったの?」
「フタバに何かあったらいけないからね。」
相変わらず過保護ね...。まるでフタバちゃんの親じゃないの。
この調子じゃあ、フタバちゃんに恋人が出来るのは何十年先かしら。
「あ、そうそう。何人もでやると面倒臭いし、ケーキは私とハミルの2人で作るね!あと、先生方にお祝いメッセージ書いてもらうの頼んどいたから、前日までには渡してくれるはず!」
もう、他の人に相談もしないでそこまで進めちゃって...。
まぁ、
「えぇ、分かったわ。でも、これからは誰かに言ってから実行してくれないかしら。」
「おけまる!」
「じゃあボクらはこれから厨房に行ってくるから。ストラップの進捗、確かめなくても大丈夫かい?」
あ、忘れてた...。
「ハミルくん、ありがとう!フタバちゃんのこと、よろしくね!」
その答えを口で言わずに笑顔で返すのが彼らしい。
リート寮に向かう途中、お目当てのフレッドを見つけた。こんなに早く見つけられるなんてラッキーだわ。
最悪、近くの男子にお願いして連れてこなきゃいけないとこまで考えてたし。
「あ、フレっ...。」
「仕方ないですね。分かりました、ついてきてください。」
あれ、カトレヤ先生と一緒にいる...?
何の用事だろう。
「でもなんで私に頼むんです?リリィ先生とかの方が良いと思いますけど。」
目的はわからないけど、確かに気になる。
「職員室に行ったら旦那さんと話してて...。なかなかそういう時間とれないだろうし、声かけるの申し訳なくって...。」
「貴方でもそういうこと考えられたんですね。」
思った...!それ思ったわ...!
「先生なのにひどくないっすか?」
「ふふっ、冗談ですよ。」
カトレヤ先生でも冗談って言うんだ...。
「はい、つきましたよ。あとは自分で頑張ってください。」
「えっ、手伝ってくれないんですか?」
カトレヤ先生が連れてきたのは、植物園だった。なるほど、授業以外じゃ立ち入り禁止だからお願いしてたのね。
「私は用事があるので。ヴェロニカさん、手伝ってあげてください。」
「は、はい。ってえぇ!?」
バ、バレてたの?
「お前、俺らが非戦闘員でもないのに隠密系魔法使わないんじゃ、バレるに決まってるだろ。
「ひどいわね!そんなこと言ってると手伝わないわよ!」
「あーはいはいスミマセンデシター。」
すっごい棒読みね...。ま、いいわ。
「それで、あんたココに何しに来たの?」
「Y●Uは何しに植物園へ?ってか?」
こいつ、馬鹿だわ。とりあえず、そっち方面が好きな方への謝罪を込めて、チョップしとこうかしらね。
「いってぇ!聞く気ないよなお前!」
「あるわよ!」
フレッドはもう諦めたようで、頭をガシガシとかいた。
「ストラップ、ヤマボウシって花のプラ板つけようかと思ってスケッチしに来たんだよ。」
「なんでヤマボウシ?」
そもそも、ヤマボウシってどんな花だったかしら。
「花言葉...。」
花言葉?
「友情って...。」
恥ずかしかったのか、フレッドはそっぽを向いてしまった。でも、耳が真っ赤でバレバレよ。それにしても意外だわ、そういうの気にするなんて。
「あ、あれじゃない?」
私が指したのは、プレートに
"
と書かれた、花弁の先が尖っているように見える白い花だ。
「お、ほんとだ。
「どういたしまして。せっかくだし、書き終わるまで待ってあげるわ。」
「そういえば、お前はなんのストラップにしたんだ?」
「粘土で作った紅茶のティーカップよ。それにしても絵、上手いわね。知らなかったわ。」
フレッドが持っているスケッチブックには、見たまんまそっくりに書かれている。こんな画力、私には無い。
「ま、ここにいる誰にも見せたことないからな。」
喋りつつもすごいスピードで筆が動いている。しかもとても線の一つ一つが丁寧で、あれよあれよという間に完成した。
「よし、帰るぞ。」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
そういったフレッドの顔は、とても笑顔で、嬉しそうだった。
きっとオルガノン寮のロビーで本でも読んでいるだろうと思って重い扉を開けると、やっぱり彼が定位置に座っていた。
ただ、いつもと違う点がひとつあって、それは本が手元にひとつもない、ということだった。
「ジョセフ、本も持たないでどうしたの?」
「いや、今頑張ってストラップを作ってるんだけど、なんかしっくり来なくて...。」
ジョセフが作っているものに目を向けると、そこには茶色の██(自主規制)のような何かが。
「えっと...これ...は?」
「え?チョコレートケーキを作ったつもりなんだけど。やっぱりこうした方がいい?」
そう言ってジョセフは少し形を変形させたが、見ててもあんまり変わった感じはしない。
「う、うん。そっちの方がいいと思うわ。」
でもパッと見あれに見えるようなものを贈るなんてどうなのかしら...。
「ケーキが良いなら、チーズケーキとかはどう?」
なんとしても、茶色はダメだ。せめて違う色にはしないと。
1時間後、やっと何とか収拾がつきそうなところまですることが出来た。
まぁ、すっごい疲れたけど。
時計に目をやるともう夜の11時を過ぎていた。
「あら、もうこんな時間...そろそろ寝るわ。おやすみ、ジョセフ。」
「おやすみ。」
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