第7話 VSコンビニエンスで


「あ、こごえだ。」


ビルの屋上から飛び降り、街を歩くこと2時間

喉が渇いたと言う伊達の要望に応えて

三紀猫が渋々コンビニエンスストアに入ろうとした時

その入口で2人が出会ったのは、明らかに数日ぶりとも言える外出をしているであろう1人の女だった。


「んぁ?」


目の前にいる"太陽は敵"と書かれた大きめのTシャツにショートパンツを履き、この季節には少し寒そうなサンダルを履いた長身の女を前に

伊達はこれまでに無い間の抜けた声を出した。


「よぉ!牛!外で会うなんて珍しーこともあるもんだなぁ!なんだ?パシリか?」


ヒラヒラと手を振り

笑いながら彼女に近づく三紀猫を見ると

この怠惰の化身とも言えそうな女が

探している馬一族のこごえなのだろう。


「んー?あれ?三紀猫かーだるいわー」


頭を掻きながら、至極めんどくさそうに答える牛は

十二支の一旦とは思えないような態度で答えた。


「え、お前さん、これが…馬一族の…」

「あぁ、牛だ!だるそうだろー?ははは!」

「いや、なんか想像と違うと言うかよ…まさか探してた人物にこんな形で会うと思ってなかったからビックリしたよ…。」


もっとハードでハートフルな旅を予想していた伊達としては

コンビニエンスストア前と言うかなり拍子抜けな出会いだったのだけれど…

まぁ出会い頭に即戦闘!と言う流れよりはマシと言える。そう、戦闘は苦手なのだ。


「てかさーこの前スレ見たよー」

「スレ?なんだそれ?」


コンビニエンスストアの中に入り

お茶やらお菓子やらを買い込む牛と

そんな牛に対し何気ない友人かの様に話している三紀猫の後を伊達は追いながら、本当にこれでいいのか?と言う気持ちが目覚めてきていた。

なんとも緩いこの風景に半ば恐怖のようなものを感じながら…


「なんかあれなんだろー?神の挨拶周りもっかいやりたいとかー?」


塩味系と辛味系のスナックを吟味しながら淡々と続ける牛。


「そうそうー牛は賛成だろー?」


そして、勝手に牛のカゴに飲み物をほりこみながら三紀猫は後ろをついて行く。

なんだろうこの日常風景は…神の挨拶周りをやり直すための話し合いとはにわかには信じられないようなやり取りだ。


「いやー別にどっちでもいいんだけどさー、また走るの?だるいよねー」

「いや、別に走らなくていいじゃん!その日は家で寝てればいいじゃねーか」

「いやいや、三紀猫さぁー馬鹿なの?」


レジへ進みながら牛は酷くだるそうに、今までとは比べ物にならないくらい深いため息を吐く。


ピッ…ピッ…


「家で寝てろも何もさぁー、挨拶周りに賛成しなきゃ、今の地位な訳よー?これからも、これまでも、ずぅーーーと。」


ピッ…ピッ…


「それをわざわざねーせっかく序列7番目の地位を捨てるなんてさー?流石の面倒くさがりであるあたしでもそんな馬鹿な真似しないよ?」


ピッ…ピッ…


会話をスルーしつつレジ打ちを的確に済ます店員さんに感心しながら

伊達は牛と三紀猫の会話に口を挟んだ


「それじゃあ牛、どうしたらその馬鹿な真似ってのをしてくれるのかよ?」


牛はこちらを見ない。

ただレジ打ちが終わり袋詰めされていく商品をひたすら見つめている。何を考えているかは分からない。何せ出会い頭から気だるげでだるそうにしているだけで、失礼ながら何かを真面目に考えるタイプには見えないのだ。


「そうだなぁー…んー…あ、お前!」

「小生かよ?」

「そう!お前、イタチ一族の伊達だろー?」

「ひひひ…小生を知ってるのかよ?」

「知ってる知ってる…お前もスレ立ってたからなー」


まさか口を挟んだ事によってこんな事になるとは、誰も予想出来なかっただろう。


「三紀猫!こいつさーちょっとの間、あたしに貸してくれない?そしたら挨拶周り考えてやるよー」


まさか、の答えだった。

小さな伊達の肩に手を回しながら至極だるそうにそう言う牛を、伊達はただただ目を丸くして見つめる事しか出来なかった。

挨拶周りの再開を手伝おうと意気込んではいたものの、まさか序盤でこのように巻き込まれるとは思っても見なかったのだろう。

唯一伊達にとっての救いは、初めて交渉を重ねようとしている十二支が驚く程気だるげで怠惰だと言うことだけだ。


「んー?まぁいいけど!」

「お前さんが決めるのかよ!」


伊達は軽く即答する三紀猫に驚いたが、反抗や抵抗する気は持ち合わせていなかった。この男について行くと決めたのだから、ここで怖気づいていてはいけないのだ。伊達の様な小動物にもプライドや勇気はある。


「んじゃー借りるわー。未にもちゃーんと言っとくからーだるいけどー」

「信用していいのか?」

「いやいや、腐っても面倒でも寝ても覚めてもゲームしてても…十二支の牛だよ?」


三紀猫を見つめる牛の目は、それ以上は何も言うなとでもいいたげにギラリと光った。並の動物達ならその鋭い眼光におののき、ここで黙って引くだろう。しかしこちらも、腐っても面倒でも寝ても覚めても、ゲームはしないが三紀猫である。


「十二支が約束事守るってのは分かってる。俺が言いてぇのはな、そいつに…伊達になんかしたら許さねーぞって事だよ。」

「お前さん…」


そうして三紀猫の瞳もまた、赤く、どす黒く変化していく。本人の意思を無視するように即答で伊達の貸出を決めたのは三紀猫なのだが、今の伊達にその事を考える思考能力は無かった。

なぜなら彼は、感動していたからである。


「お前さん…そんなに小生の事を…」


薄らと涙を浮かべる伊達。

何度も言うが、本人の意思を無視して即答で貸出を決めたのは三紀猫である。


「わかってるってーそんなカリカリするなよーだるいわー。」


頭をポリポリと掻きながら牛は続ける


「こいつの能力を借りたいだけだってー用事が済んだらすぐ返すからさー」


軽い口調に戻った牛を見て、三紀猫も段々と冷静さを取り戻した。


「あぁ、分かってる。」


三紀猫は小さく笑って伊達の頭をクシャクシャと撫で回した。


「小生は子供じゃあ無いんだから大丈夫なんだよ!」

「それも分かってる。」


こうして伊達は十二支の七番目、牛へと借り出されて行ったのである。

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