第5話 VS順番待ち



「つまりだねぇ、要約すると…署名を集めてくるから"神の挨拶周り"をもう一度開いて欲しいんだよ。」


「成程…」と神は頷きながら伊達の話を興味深そうに聞いていた。

三紀猫はと言えば、大欠伸をしている始末。


「っふぁ~…って事でおっさん。今から全員のとこ回って、その署名?っての集めてくるから!」


グッと背中を伸ばしながら、呑気にそんな事を言う三紀猫を伊達は無視して続けた


「神様…どうだろうかね?全員の署名を貰うのは生半可では無いと思うんだよ。みんな今の現状に満足してるだろうしねぇ…今更になって挨拶周りをもう1回やりたい奴なんて居ないと思うんだよ…」


無駄に地位を揺らがすような事など誰もしたくないだろう。別に何か行動を起こさなくても、来年にはまた自分の年が来るのだから。

それでも!と、伊達は伏し目がちに続ける


「だからこそだよ…みんなの署名を集められたら凄い事だと思うんだよ。」

「…………。」


そうして少しの沈黙の後

神はその口元を緩めゆっくり手を上げると

満面の笑と共に親指を突き立てた。


「おっけーーー!」


拍子抜けとは正にこの事なのだろうか?

余りにもあっさりと許可が降りたのでビックリはしたけれど、同時に嬉しさもこみ上げてくる。


「ただし、この件にワシは関わって無いって事で!」

「え?」

「だってほら、それで挨拶周りやり直したら"あ、署名集めたら神って言うこと聞くんだ!"とか思って、無駄に願い事とか増えそうじゃない?」


あっけらかんとそう言い放った神に

「このおっさん、そーいう奴だよ?」と、付け足す三紀猫。


「だから…あくまでみんなに挨拶周りやり直したいって根絶祈願されたから…って感じにしてね?」

「え、あ、は…はい…なんだよ。」


そうして押し切られ、後は三紀猫と多少の言い合いをし、数千年ぶりの神様は去っていった。


「なんだか…神様ってキャラ変わったのかよ?」

「あー…どうだっけかな?慰安旅行始めてからちょっと軽くなったよな!ははは!」


ちょっとどころなのだろうか?

伊達は首を傾げながら苦笑いした。


「ま!とりあえずコレでおっさんの許可も貰った訳だし!心置き無く鼠をぶっ潰せるって訳よ!」


フンっ!と反り返りながら闘志を燃やす三紀猫に合わせ、伊達も背筋を伸ばす。


「ぶっ潰すって言うよりは、説得しに行くんだよ?お前さん、分かってるのかよ?」

「おんなじよーな意味だろ?」

「いやいや、なるべくなら穏便に済ませたいよ、小生は。」

「いやいや、なるべくなら鼠をぶっ殺したいよ、俺は。」


裏路地の壁を強く引っ掻きながら、三紀猫はそんな物騒な事を口走る。

壁に付いた爪痕が、恨みの深さを表しているのか…それは深く歪だった。


「まぁー…何にせよあれだよ、十二支の面々を探さない事にはねぇ?ひひひっ!」

「そうだなぁ…よっと……!」


返事をしながら壁に足を掛け、ひょいひょいと壁を登り始めた三紀猫に一瞬驚いた伊達だったが

またか、と言いたげな顔を隠すように後を追った。


「とりあえず、場所が分かるやつが何人かいる…。」


ビルの屋上までひょいひょいと登った三紀猫は、その縁に仁王立ちすると、眼下を見下ろしながらニヤニヤと笑った。


身体能力は低くないものの、この高さには流石の伊達も少し心臓が高鳴る。


「無難な所から始めようかねぇ、お前さん?」

「ん?無難?」

「小生は見た通り戦闘向きじゃあ無いんだよ?出来る事なら話し合い的なもので署名を貰いたいんだよ。」


実際問題、激しい戦いになれば伊達は残念ながら戦力外である。多少、運動能力は高いとは言っても彼はもっぱら参謀基質なのだ。


「話し合い…なぁ?俺はそう言うのよくわかんねーけど…こごえとか辺りならできんじゃね?その話し合いってやつ。」

「確かに、確かにだよ。彼女は戦闘タイプって感じじゃあ無いしねぇ?」

「どーせ今も未呑みのみとゲーム?とかなんとか、そんな訳わかんねー事してるだけだろーし!」


十二支の中でも馬一族のこごえと羊一族の未呑みのみは趣味が合うのか、よく2人でこもってはゲームをしていると聞く。

よくこもっては…と言うよりは、逆に外に出ないと言った方が正しいかもしれないが


「んじゃっ、いっちょあの辺から攻めるかぁー」


柔軟体操をしながらそう言い放つ三紀猫を見て、これはまた走るなと思った伊達は気を引き締めた。




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