第4話 VS瞬速で再会
いやはや…三紀猫が急に走り出してからどれだけの時間が経ったのだろうか?
「お…はようだよ…」
伊達はまだ開ききっていない目を擦りながら
小さく呟いた。
寝起きには少し厳しい風に半ばうんざりしつつも
今の現状を確認する為にチラリと三紀猫の方を見る。
おっさん…いや、神様を探すと言って
走り出してから三日目…
いや、ただ単に伊達が三回眠ったから三日目だと思い込んでいるだけかもしれないが…
しかし、三回は眠りこけてしまう程の長い時間
三紀猫が走っている事に変わりはない。
「馬鹿みたいに尽きない体力だよ…。」
伊達はボソリとそう言う。
景色はすっかり海辺から街中の建造へと変わってしまっていた。
三紀猫が余りに速いのか、周りにいる人間には突風が過ぎ去った程にしか意識が無いようだ。
「お?起きたか、伊達!」
伊達の小さな声が聞こえたか聞こえていないかは分からないが
三紀猫は起きたての伊達に笑いかけた。
「乗せて貰ってるのに寝ちゃって悪いねぇ。」
まぁ正直、余り悪いとも思っていないが
とりあえず表面上はそんな風に言葉を続けてみた。
「ところでお前さん、何回ぐらい夜が回ったのかよ?」
「ん?んーーー……三回…だっけ…かな?」
やっぱり三日目か…
伊達は驚きとも呆れたも思える溜息を吐いた。
三日目にして衰えないスピードと、出発した時と何ら変わらない三紀猫の顔を見て
心底、彼を化物…いや、化猫だと思った。
なぜか肩に乗っているだけの伊達の方が疲れた顔をしている。
「それで…お前さん。乗っているだけの分際でこんな事を言うのも何なんだけどねぇ…その…神様は見つかりそうなのかよ?」
「…………………。」
「いや、ほんと、乗っているだけの分際で…ひひひ…アレなんだけどねぇ…ね?」
「…………………。」
「そんな、急かしてるとかじゃあ無いんだよ?ただ…ほら…何となくだよ…後…どれぐらいかなぁと…。」
「…………………。」
「……って!走りながら寝てるのかよ!怖いよ!三紀猫!怖い!流石に!怖い!三紀猫!ちょっ!」
「………っは!?寝てた!」
「器用なのか不器用なのか分からないよ!!」
その後も何度か走りながら眠る三紀猫に
1回止まって休もうと提案する伊達だったが
一向に言うことを聞いてくれないのでそれも諦め始めた頃───
「ん、近くにいるな…。」
そう言って三紀猫がやっと足を止めたのは
ビルの路地裏だった。
「本当かよ?小生にはうんともすんともだよ?」
伊達も鼻をヒクヒクさせながら辺りの匂いを嗅ぐが、やはり神様の匂いなど分かるはずも無かった。
しかしまぁ、いつまでも肩に乗っているだけの存在と言うのも居心地が悪かったのか
伊達はその場で三紀猫の肩からするりと降りるとイタチから
「こっちは3000年以上もおっさん追っ掛けてんだよ…絶対この辺にいる…。」
「こんなゴミゴミした中でよく分かるねぇ。」
沢山の人や食べ物、気持ち程度にある木々やそびえ立つコンクリート、走る鉄のガス…
そんな数多の匂いが混じり合う中で
的確に神様の匂いだけを嗅ぎ分ける三紀猫の鼻には圧巻だ。
「おい!おっさーーーん!!!」
すると突然、三紀猫は叫ぶ。
驚いた伊達は一瞬、身体をビクつかせる。
「おっさーーーーん!!!!おーい!いーるーんーだーろーーー!?おっさーーー
───ドカッ!!!
「五月蝿いわ!この阿呆が!!!」
構わずビルの裏路地で叫び散らす三紀猫の後頭部に
罵声と同時に空き缶が飛んできた。
「ってぇ!この!くそじじい!!」
世界ひろしといえど神様をじじいと罵れるのは三紀猫くらいだろうか。
伊達はそんな事を考えながら声のした方を振り向く。
そこには久しく顔を見ていないが、確かに忘れもしない…神様の顔があった。
「神様なんだよ!」
「おぉ、伊達か。久しいのう。」
神はゆっくりと近づきながら伊達に微笑んだ。
「元気にしておったか?」
数日前とは違い、スーツをピシリと着込んだ神は
くしゃくしゃと伊達の頭を撫でる。
「おーい、おっさん!俺にも何か言うことあるだろーが!」
「えっとぉ…しつこいの、三紀猫?」
「ちっげーーよ!!」
「あ…ワシの事、好きなの?」
「なわけねーだろ!」
「…えぇーじゃあ何?」
「おい伊達!惚けてねーで説明しろよ!」
神に撫でられてご満悦の伊達を
三紀猫が軽く小突く。
「あ……………あぁ!その為に珍しく小生を連れてきたのかよ!」
そこで伊達は気付く。
なぜ三紀猫が自分を連れてきたのか…なんともわかり易い男である。
「ったりめーだろ。なんか…こう、上手いことおっさんに説明してくれ!俺はそう言う難しいの分かんねー!」
空き缶の当たった後頭部をガシガシと掻きながら
なんとも乱暴なパスを投げる三紀猫。
「ふむ…説明…のぅ……。」
神は少し口元を緩め腕を組む。
その仕草に伊達の身が一気に引き締まる。
いくら気さくとは言え万物の父、神である…
いつもは軽口を叩く伊達も
流石にこういう時は緊張を隠せないらしい。
だが伊達は決意している
ずっと前から
それこそ三紀猫と出会ったその日から
この時この瞬間のために固めている
「小生と三紀猫は、提案を持ってきたんだよ。」
そして静かに口を開く。
これから起こるであろう事の始まり
これから始まるであろう事の触り
これから進むであろう道の話をする為に───
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