#27 -犠牲②-


 アイリ達のやり取りから少し前、ロベルタ達が襲撃を受けた港町から少し離れた南部の山中。


「……む……」


 薄らと日が昇る中で、ロベルタが目を覚ます。定期メンテナンスが終了し閉鎖モードが解かれたのだ。


 まだはっきりとしない意識の中で、エリーゼを探す。少しだけ揺れた肩が何かに当たり、当たった先を見るとそこにエリーゼがいた。


 ロベルタの隣でロベルタのコートに身を包んだエリーゼがロベルタに寄り掛かってぐっすりと眠っている。


 もう少しこのままにしておきたいとロベルタは一瞬考えたが、状況はそれを許してはくれない。ロベルタ達は現在、逃亡中の身なのだから。


「……起きろよ。エリーゼ」


 気に寄り掛かって眠っているエリーゼを、ロベルタが揺り起こす。数回身体を揺すると、エリーゼが目を覚ました。


 眠たそうに目を擦った後、エリーゼがあくびをしてゆっくりと立ち上がり大きく伸びをする。


 海を背にした山の空気は街よりもずっと澄んでいて、冷えた大気はエリーゼの意識をこの上なく明瞭なものにしてくれた。



「…………ん、おはようございますロベルタさん。クラリスさんはどちらに?」


 毛布代わりに使っていたコートをロベルタに返しながら、エリーゼが問う。


「クラリスは哨戒中だ。じきに戻って来るさ」


 エリーゼから返されたコートを素早く羽織って、ロベルタが返答した。


 ロベルタ達は追撃を避ける為に港町を離れ、山間を縫ってレジスタンス本部へと向かっていた。


 ここならば多少なりとも敵の目はごまかせる。人形と言えども部隊の動き方は人間とよく似ているのだ。


 いくつもある山の中でこちらの位置を予測して待ち伏せるのは難しい。


「エリーゼ、どうした?」


 呆と風景を見つめるエリーゼに、ロベルタが問いかける。


「山からの景色は……綺麗ですね。私は山にはあまり言ったことが無かったので……」


 胸いっぱいに空気を吸い込んで、エリーゼが感嘆の言葉を零す。


 エリーゼの眼前には上っていく朝日が神々しく輝いており、眼下には下りの道にある大きな峡谷と連なって広がる山脈、そして彼方に広がる一面緑の平原が見えた。


 振り返れば見渡す限りの大海と海向こうの共和国本土と離島群が見える。


 三人は険しい登り道を登り切り、山頂へと出ていた。この調子であと四つ山を越えればレジスタンス本部へはもう目と鼻の先だ。


「今日中にこの山を越えて次の山で野営地を探すぞ。今のペースならば遅くともあと三日以内に辿り着ける。そうすればこの追いかけっこも一段落だ」


 ロベルタがトランクとは別に持っていた小さめの提げ袋から長方形の軍用食レーションと水筒を取り出してエリーゼに渡した。


「今日もかなりの距離を歩くから、今のうちに朝食を摂っておけ。味はあまり良くないが栄養だけはあるぞ。水は町で買ったものだ」


「買った? 麓付近の川で汲むんじゃ駄目なんですか?」


「上流の水源付近ならまだしも下流域の川の水は一度沸騰させないととても安心しては飲ませられないからな。直に湧いて出る泉があれば良かったんだが」


「なるほど……。では、いただきます」


 冷えた水で眠っている間に渇いた喉を潤し、レーションの包みを開けて中の赤茶色の物体を頬張る。頬張った瞬間、エリーゼは「うっ」と嗚咽を漏らした。


 噛んだ瞬間に口いっぱいに広がる、何とも言えないモサモサとした触感。


 味は一応何かのフルーツの様なものを意識して付けられているらしいが、何を使っているか分からない分かえって気持ちが悪い。


 おまけに噛めば口の中の水分が丸ごと持って行かれるので食べるのにも一苦労である。


 ――これははっきり言って……。


「……美味しくないです……」


「あははっ、だろうな。一日これで凌がなきゃならん日が続いた後は何を食べても美味しいらしいからな」


 しかめっ面でレーションと格闘するエリーゼを眺めながら、ロベルタが愉快そうに笑う。


 エリーゼがやっとの思いでレーションを流し込むのを確認した後、ロベルタは肩から下げている袋から透明なパックに詰められた赤色のゼリー状のものを取り出して一息に吸い込んだ。



「何ですか、それ?」


 不思議そうな顔でエリーゼが尋ねる。今までに見たことがないものだった。


「まあ人形用の食事のようなものだ。


 アミノ酸ベースのナノマシン群に少量の人工筋肉ブースト用フェムトマシンが入っている。味はないし消化されないから、人間が食べても腹の足しにはならないぞ」


「……今更ですけど、人形も食事って摂るんですね」


「限りなく嗜好品に近いけどな。


 だが俺達の身体は限りなく人間のそれに近いから、他のものからエネルギーを補給する方が自分でエネルギーを生成するより幾分効率が良いんだ。


 摂取するものが有機物ならなお良いが、贅沢は言ってられない」


 ロベルタが話しながらコートからインカムを取り出して耳に装着し、スイッチを入れる。


「……クラリス、出発するぞ。合流してくれ」


『了解。至急そちらへ合流します』


 ぷつんと音を立てて通信が切れ、ロベルタが空になったパックを鞄へと片付ける。


 程なくしてクラリスが木々の陰から姿を現して合流し、三人は下りの道を降り始めた。


「あの、ロベルタさん」


 なだらかな山道を早足で歩きながら、エリーゼが隣のロベルタに話しかける。


「天使って、何なんですか? 強い人形ってイメージしかまだ無いんですけど」


「……限りなく人間に近くてどこまでも人間からはかけ離れている、の化け物達。人形の最高峰、人間の狂気の終着点だ。


 各機が一国の軍隊全てを相手取るだけの力を有していると言われている」


 ロベルタが「十機」と言う単語を発した時に微かに顔を歪めたのを、エリーゼは見逃さなかった。


 ――何か、あったのかな。


「基礎能力も十分に脅威だが、一番注意すべきは【神格武装クラウ・ソラス】と特殊プログラムだ。


 ケルヴィムで言うならば【神格武装クラウ・ソラス】はイシュヴァル、特殊プログラムはPandoraだな。天使を並びない存在にしている大きな要素だ」


「……じゃあ、ロベルタさんのは何なんですか? ケルヴィムに勝ったんですから、何も持っていないってわけじゃなさそうですけど」


 エリーゼの問いに、ロベルタが黙り込む。マズいことを訊いた、とエリーゼが気づいた時にはもう既に辺りに気まずい空気が漂っていた。


 ロベルタは遠くを見ており、クラリスは依然として黙っている。


「……あ、えっと……。その、私……」


「急ぐぞ、どうも嫌な感じだ」


 クラリスがこくりと頷き、ロベルタがエリーゼの手を掴んで速度を上げる。


 ――マズいな。居場所が割れている……!


 背後に何かの気配を感じる。陰の様にぴったりとくっついて離れない、舐め回す様に嫌な空気。


 その空気の正体を、ロベルタは朧げながらに知っていた。


「クラリス、フェルディナンドだ! 奴が俺達の位置を掴んで――」


【警告:大型転移反応感知。マーカーブルー、推測:帝国軍機多数】


 ロベルタの視界に幾つもの赤い半透明のウィンドウが現れては消え、最終的に表示された山全体を表すマップは真っ青になるほどに青い点で埋め尽くされていた。


 ロベルタがエリーゼの身体を軽々と抱え、クラリスに目配せして走り始める。先程までとは比べものにならない程の速度で二人が山道を駆ける。


 二人の身体は山道を降る上で最も効率的なルートを瞬時に探し出して、一厘の無駄もなく動いた。


 まるで風だ、とエリーゼが思う。そう、二人は今、山間を縫う一陣の風だ。


 なだらかな道を越え、険しい岩場を越え、二つの風が山中を矢の様に駆けていく。


 しかし峡谷付近に差し掛かったところで、再びロベルタの電脳がけたたましく警報を発した。


【警告:無人機三機の転移を確認。推測される武装:多弾頭クラスターミサイル計六発】


「……畜生が!」


 ロベルタとクラリスの視界が真っ赤に染まり、頭の中でミサイルアラートが暴れ回る。拡張された視界の先で、三機の黒い無人機が静かに三人を見下ろしていた。


 放たれた六発のミサイルが無数の爆弾の雨となり、三人に降り注ぐ。防ぐ手は……ない。


「飛ぶぞ、クラリス!」


 ロベルタがエリーゼを強く抱きかかえ、地面を蹴って谷へと飛び込む。


 クラリスもそれに続き、二人が谷に跳んだ直後に山道は爆炎に包み込まれた。


 爆風に飛ばされながらも二人は体勢を立て直し、谷底へと着地する。幸いにして全員無傷だ。三人がいた山道は木端微塵に吹き飛び、頭上は炎に包まれている。


「……とうとう仕掛けてきやがったか!」


 ロベルタが電脳を近接戦闘モードへと移行。コートから端末を取り出してデュランダルを呼び出す。


 クラリスも既にデュナメスを構えて、二人でエリーゼを庇うように立っていた。


 それに呼応するように周囲の空間が少しだけ捻じ曲がり、次々とスパルトイ達が姿を現す。大型転移装置による大規模転移だ。


【警告:人形部隊『バーサーク』の転移を確認。同時に天使型『ベルベット』とそのマスターを確認。推奨:速やかな離脱】


「……できるなら……そうしたいんだがね」苦笑いしながらロベルタがデュランダルを構え直す。


「ろ、ロベルタさん! 逃げないと!」


 おろおろとした様子でエリーゼが叫ぶ。しかし二人は動かなかった。……否、動けなかった。


「……できないんだ、エリーゼ。


「え? でも前には私とクラリスさんを抱えて森から海まで……」


 エリーゼの言葉に、ロベルタが気まずそうに顔をしかめる。


「あれは、俺の身体にナノマシンのがあったから出来たんだ。だがあの時の転移で身体の中の余剰分のナノマシンは全て死んだ。


 だから今は……恐らく、二人のうち一人しか運べない。それも焼け石に水の時間稼ぎにしかならない距離の……な」


「そんな……」


 絶望に打ちひしがれるエリーゼを見やって、ロベルタがふっと微笑む。


 たとえ逃げられても、今逃げなくても、やる事は変わらないのだ。


「……全力を以て必ず護る。お前には傷一つ付けさせない。約束だ」


 エリーゼが頷いたのを確認して、ロベルタが上を見上げる。


 谷の全てをぐるりと囲む三千機のスパルトイ。その中心にイレーヌとベルベット、そしてシエルがいた。


 ロベルタを見降ろしながら、イレーヌが口を開く。


「本来であれば無人機でお前達を倒すつもりだったんだがな。その行動力は賞賛に値する」


「敵を褒めないで下さいよ大将。こいつらはあそこで行動不能になっている方が楽だったんですから」


「ははは、それもそうか」


 イレーヌが腕を振り上げ、気迫に満ちた目でロベルタ達を睨む。


「ロベルタ以外は全て殺せ! 奴は四肢を捥ぎ取ってここへ引きずって来い! 戦闘状況開始!」


 イレーヌの合図と共に、戦闘服に身を包んだスパルトイ達が崖を飛び降りてロベルタ達へと向かってくる。


 ――何体来ようと……殺すだけだ!


 ロベルタがエリーゼに向かって飛びかかってきたスパルトイの首を刎ね、続けざまにナイフを振りかぶってこちらへやって来たもう一機を一刀両断する。


 クラリスはこちらへと波状攻撃を仕掛けてくるスパルトイの群れをデュナメスで牽制し続けていた。向かってくるスパルトイ達の頭部を、一つの無駄もなく正確に射撃している。


 クラリスが群れを抑え、撃ち漏らしをロベルタが倒す。それはこの旅で二人が培った信頼が無ければ為し得ないコンビネーションだ。


 そして波状攻撃が止まり、ロベルタがエリーゼの方を振り返る。


「エリーゼ! Angelの使用許可を!」


 ロベルタの叫びにエリーゼが頷き、「使用許可します!」と叫ぶ。


 刹那、ロベルタの首に取り付けられたチョーカー型の副脳ユニットが作動し、主電脳からの指示でAngelが発動した。


 ロベルタの背に翼の形をした反重力力場が形成され、ロベルタの赤い瞳が蒼く輝く。


 転瞬、ロベルタがノーモーションで空間転移し、目の前にいたスパルトイ十五機を斬り捨て飛び立った。


 目覚めた天使が高速で低空飛行を行いながら、無慈悲にスパルトイ達を切り刻んでいく。


 あまりにも一方的な、蹂躙。それは天使と呼ぶにふさわしい、無慈悲極まりない機械的なものだ。


 そう、彼は天使だ。聖典に記された、神が遣わせ一国を滅した天使の似姿だ。誰もそれを阻めない、天災のようなものに近いモノ。


 やがてロベルタは空高く舞い上がり、デュランダルを仕舞って巨大な銃器――イフリートを呼び出した。


「イフリート・モード……強襲アサルト!」


 イフリートの形が二挺の小型機関銃となり、精密な狙撃が特徴のデフォルトとは打って変わっての乱雑な掃射で軍勢を蹴散らす。


 一見すればロベルタ側が圧倒的に優勢なこの状況。しかしイレーヌの顔から笑みは消えない。


「……それで勝っているつもりか、馬鹿め」


 イレーヌがそう呟いた瞬間、ロベルタに肩を撃ち抜かれた一機のスパルトイが爆発した。爆炎が倒れたスパルトイの残骸に移って中の爆薬に着火、爆発が連鎖的に広がっていく。


「な……っ!」


 ロベルタがイフリートを端末に戻し、エリーゼの下まで転移する。エリーゼとクラリスを掴んで空中へと避難した時、谷底全体が爆発で満たされた。


 一瞬の暴力の奔流が去った後、荒涼としていた谷底はさらに殺伐としたものへと姿を変えていた。


 辺り一面の岩肌が焼け焦げており、草木は跡形も無く消し飛んでいる。


 ――そうか……そういうことか!


「即死した時に自爆しないのを見ると主電脳から指示が出て自爆するのか。考えたなイレーヌ!」


「あははははっ、大正解だぞロベルタ! 本来はお前が《エインヘリアル》でスパルトイを取り込む時に発動するものだったんだがな。


 お前ののお陰で思いもよらず活躍しているぞ!」


 イレーヌがぱちんと指を鳴らし、控えていた数百体のスパルトイがアサルトライフルを構えて発射。フルオートで放たれた弾丸がロベルタへと襲い掛かる。


「くっ……!」


 ロベルタが加速し、その軌跡をなぞる様に無数の銃撃がロベルタを追いかける。一人であれば訳も無く避けられるが、今は二人抱えた状態だ。避けられるはずがない。


 ロベルタの腿と脇腹に弾丸が突き刺さり、体勢を崩して制御を失ったロベルタが落ちる。


 途中でクラリスはロベルタの手を振りほどいて着地したが、エリーゼはロベルタに庇われたまま着地した。


 身体ごと地面に叩き付けられたロベルタが「うっ」と声を漏らす。


「ロベルタさん!」エリーゼが悲痛な叫びを上げる。


「大丈夫……だ……。弾は抜けたから修復アンプルがあればこれくらいは治る……」


「許すと思うか? シエル、班を率いてロベルタとクラリスを潰せ」


「了解!」


 イレーヌの指示にシエルが力強く返答し、ベルトのアンプルを注射した後近くで控えていたスパルトイ二十体を連れてロベルタの方へと飛び降りる。


 シエルの動きは以前と比べものにならないほどに素早く力強い。前に戦った時とはまるで別物であることは誰の目から見ても明らかだった。


 ――強化アンプルに手を出したか!


 雷光の如き速度で振るわれたクリュサオルによる一撃を躱し、ロベルタがシエルの胴体を蹴りぬく――否、蹴り抜こうとした。


 しかしそこにシエルの姿はない。そして肉を裂く音と共に、全身を違和感が走る。


「な……に……?」


 ロベルタが見下ろした先、ロベルタの腹からは、体液の滴るクリュサオルの刃先がしっかりと見えていた。人工臓器への深刻なダメージでAngelが解除され、ロベルタが膝を着く。


「お前は後回しだ。先にお前の部下とマスターから殺すとする」


 シエルがそう短く告げて、エリーゼの方を睨む。シエルと目が合ったエリーゼが「ひっ」と小さく悲鳴を漏らし、金縛りに遭った様にその動きを止めた。


 どうあっても逃れられない死が、エリーゼを捉えて離さない。


「……次は逃がさない」


 シエルが駆け出し、エリーゼが尻餅を着く。ロベルタはその様子を見ていることしかできない。


 ――動け。


 シエルがクリュサオルを振りかぶり、エリーゼへと迫る。


 ――動け!


 そして上段に構えられたクリュサオルが、エリーゼの喉元を捉える。


「死ね、哀れな少女よ」


 ざく、と肉を突き刺す音と、くちゃりという体液を抉る音。確かに刺したと言う手ごたえがシエルにはあった。


 だが驚いた表情をしているのは、他ならぬシエル本人であった。


「なっ……」


「ロベルタ、さん……?」呆然とした様子で、エリーゼが呟く。


 二人の眼前にいたのは、他の何でもないロベルタだった。その腹には深々とクリュサオルが突き刺さり、もはやアンプルでは修復できない程の深手を負っている。


「……クラリス。エリーゼを連れて……逃げろ……」


 ロベルタがズボンのベルトから大振りのナイフを取り出してシエルを振り払う。


「こいつらを全員ぶっ壊したら……必ず追いつくからよ。だから……頼む。先に行ってくれ」


「…………できません!」


「クラリス! 命令だ!」


「聞けません! ロベルタがいなければは絶対に成就しません! 私とエリーゼだけ逃げても無駄死にです!」


 クラリスがロベルタに駆け寄るが、押し寄せるスパルトイに阻まれあっという間に組み付かれた。


 ロベルタが振り払うも、今度はスパルトイがロベルタの身体にしっかりと絡みついた。瀕死のロベルタでは、スパルトイを振り払えない。


「――しくじった」


 残りの力を振り絞ってロベルタがクラリスをエリーゼの方へと突き飛ばして、エリーゼごと後方へと飛ばす。


 二人が離れるのとスパルトイの自爆装置が起動するのはほぼ同時だった。


 組み付いたスパルトイの目が赤く光り、クラリスがエリーゼを押し倒して覆いかぶさる。


「……すまな、い……。俺は――」


 言葉をかき消して、爆発音が轟く。


 ロベルタの言葉も、エリーゼの悲鳴も、イレーヌの笑い声も全てかき消すほどの爆発が辺りを包みこむ。


 やがて爆発が止んだ時――エリーゼは目の前に転がって来たものを見て愕然とした。


「…………嘘」


 嘘だと思いたい、嘘だと信じたい、その物体。


 転がって来たのは防爆仕様のコートに包まれた、焼け焦げ千切れたロベルタの上半身だった。


 まだ微かに唇や瞼が痙攣しているが、殆ど死んでいる状態に近い。下半身は見当たらず、足を主に吹き飛ばされたらしかった。


 開きっぱなしの瞳孔が、まるでガラス球の様にエリーゼを反射している。


 誰の目から見ても、ソレはもう。ただ死んでいないだけの、微かに動く何かだ。


「……我々の勝ちだ。残りを片付けろ」


 つまらなさそうにイレーヌが言い放ち、残っていたスパルトイ達が一斉にクラリスとエリーゼに襲い掛かる。

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