言葉のイロハ
雪宮智
第1話 作家の師匠
「いい?私たちは物語を作るのではなく、物語が私たちに文章を書かせるの。そして、文章を書くのでなく、私たちは言葉を紡ぐのよ、わかった?」
「いや、よくわからないです」
「だから、君はだめなんだよ」
彼女は大きなため息をつき、僕の頭に手をのせる。この眉間にしわを寄せる女性は
朝の雑用が終わり、昼食終わりの休憩をとると、彼女は奥の部屋に戻る。
髪留めで前髪を留め、黙々と化粧直しを始める。彼女は執筆にあたる際は、決まったルールを決めている。化粧をして、身なりを整える。僕からみたら、誰にもあうわけでもないので、必要ない工程には見える。
だが、彼女はその無駄なことだからこそ、意味があるとのことだ。真剣に作品と向き合うには、正装でなくてはならないみたいだ。僕には、彼女の考えていることはわからない。なにか譲れない、小説へのポリシーがあるのだろう。たまに僕には理解できない、とんちなことを彼女は言う。
ふいに、他のことに意識をとられていると、「出かけるわよ」と彼女から声がかかる。これから、執筆作業にかかるかと思ったが、今日は違ったみたいだ。どうやら、作品を描くにあたって、アイデア巡りだろう。
彼女は野良猫のようにきまぐれで、気分屋だ。その日の予定は、その時にならないとわからない。さて、今日はどのような物語と巡り出会えるか、楽しみだ。
言葉のイロハ 雪宮智 @yukimiya_tomo
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