何もない公園で

僕は土管から帰り、学校からの連絡が家に来ていたせいでこっぴどく叱られてしまった。ただ、僕は女の子のことが気になってしょうがなかった。嫌われてしまっていないかな。オルゴールが嫌いなのかな。

あの子の名前はなんていうのだろう。


放課後、空き地に行ったけど、誰もいなかった。誰もいない土管は、寂しさというか、少し怖さがあって僕はすぐにそこを立ち去った。

僕は帰路についていた。通常の帰宅時間からしたら30分くらい遅れてるから帰るのが怖い。やめとけばよかったかも。

「ねえ」

突然声がして振り向いた。女の子は僕のすぐ後ろにいた。

「暇なの?」

少し首を傾げてそう言う。

「わかんない」

本当にわかんない。

「公園行こ」


だだっ広い公園で、僕らはベンチに座って黙っている。

僕は昨日の事を謝ろうかなんて考える。もしかしたら自意識過剰かもしれない。もしかしたら忘れてるかもしれない。

「ごめんね」

謝ったのは女の子のほうだった。

「あの音ね、わたしすっごく好きなの」

うつむいて喋る。

「でも、今聴くとね、辛い。いろんなこと思い出しちゃうから。楽しいことも、悲しいことも」

顔をあげた。

「わたしを励ましてくれた音楽も、今はもう無力なの」


女の子は公園のグラウンドに大きな絵を描いた。大きなハサミの蟹だ。

砂色のグラウンドはやがてオレンジに染まったが、僕は帰ろうとは思わない。

「どうやって世界を滅ぼすの?」

僕はさっきまで絵を描くために使っていた石を蹴りあげる女の子にそう聞いた。

「……爆弾をつくる。それをあそこでバクハツさせる」

女の子は一番高いビルを指差した。天にもとどきそうなビルだ。

「それで世界は消えるの?」

「うん」

石をぐりぐりと踏んづけながら女の子は呟く。

「それがこの世界の運命だから」

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