オルゴール

「かつて世界を支配した昆虫も、恐竜も、みんな一気に衰退したの。自然の力で。」

土管でカチャカチャと機械をいじりながら女の子はそう言った。

「人もそうなる。だからわたしが生まれた」

「人を衰退させるために?」

「そう」

なんだか大きな話だ。たった一つの爆弾で、そんなことが可能なのかな。

「明日世界は崩壊する」


僕は今日家出をした。最初で最後の家出だ。今日は土管で寝泊まりする。

女の子は夜になってもガチャガチャと何かをいじっている。

「人が衰退したら何が地球を治めるの?」

「わかんない。それは神様が決めること。サルとか、イルカとか、蟹とか……もしかしたらまた人が治めるのかも」

「ふぅん」

僕は土管から顔を出してあたりを見渡す。誰もいない。家族は僕を探しているだろうか。

「父親が好きって気持ちも、嫌いって気持ちも、傷をつける自分も、傷ついちゃうじぶんも、全部許せる人間だったらよかったのに」

そう女の子は呟いた。


僕らは朝早く出発した。大きなビルの間を車に気を付けて歩く。一度も入ったことがない飲食店の建物には、大きな機械仕掛けの蟹が張り付けられていた。

「ほら、あそこ」

ビルとビルのすき間から見えるシャープな建物。有名な建築家が建てたとかなんとか。

「行こう」


ビルに入った瞬間から僕の心臓はばくばくし始めたけど、誰も僕らを気にすることはなかった。展望台直通のエレベーターがあったのでそれにやすやすと乗り込んだ。

エレベーターは信じられないようなスピードで進んでいく。

「どきどきしたね」

僕がそう言うと

「うん、めちゃくちゃどきどきした」

初めて笑顔で答えてくれた。


展望台という名の芝生公園は心地が良い場所だった。人は少なかった。平日だからかもしれない。

僕らは柵から乗り出して外を見た。

「綺麗だね」

「うん」

女の子はリュックを下ろし、チャックを開ける。

「名前なんて言うんだっけ?」

「わたしの名前?」

僕が頷くと女の子は首を傾げた。

「今更?」

そして上を見上げながらうーんと言って

「ソラ」

僕を見た。

「いい名前でしょ」


「オルゴール?」

「うん、最後に聴くのはこれかなって」

オルゴール型爆弾、こんな小さな機械で世界は滅ぼされるのだろうか。

チリリリとゼンマイを回す。儚げな音楽が流れてきた。

「もう、大丈夫かもしれない」

オルゴールを芝生に置く。僕らは寝っ転がった。


「ありがと」

ソラは言う。


「そばにいてくれて」




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