第14話 モノ作り魂を忘れるな~マコト~

 ピンポーン

 ビクッ!

 注意しなければならない。

 玄関の様子を、ディスプレイで確認。

 玄関先には、黒いコートを羽織った長身の男が一人。

 ほぉ

 懐かしい顔だ。

「タケトさん。久し振りですね」

「お久し振りです。マコトさん」

 はぁ

 来たのが、まともな人で良かった。

「これは?」

 タケトさんが、荒れ散らかった工場を見て、俺に訊ねてきた。

「先々週、何者かに工場を荒らされてしまいまして」

「そうだったんですか。酷い人達がいるものですね。マコトさんにお怪我はなかったんですか?」

「はい。私は大丈夫なんですが、作っていたモノや工具が破壊されてしまって。作業に大幅な遅れが出てしまっています」

 先々週。覆面を被った不審者達が工場に押し寄せてきたのだ。そして、工場を散々荒らして帰っていった。もう何が盗まれたのかも分からない有り様だ。

「それは困りましたね。警察には通報されたんですか?」

「通報しましたよ。しかし、それで作っていたモノが、直るわけじゃないですからね」

 制作中であった扇風機のような機械。再度、一から作り直す羽目になってしまった。どうにも足りない部品があって、納期が二週間遅れそうだ。ツクツクボウシ、初の納期遅延。外的要因によるものとはいえ、顧客に申し訳ないし、何より俺自身、非常に悔しい。

 タケトさんが、扇風機のようなモノを興味深そうに眺めている。

「これは、何を作っているのですか?」

「さぁ。それが、さっぱりでして」

「面白い構造をしていますね。ひょっとして、ココに何か入れるんじゃないですか?」

「そうですね。そこに、得体のしれない物体を組み入れます。ええと。確か、コレだったかな」

 プニプニとしたその物体に触れたタケトさん。考え込むような顔をしてみせる。

「これは、非常に珍しい物質ですね。この物質を持ってきた人物と会えますか?」

「それが、メールで遣り取りをしているだけで、直接会ったことがないんですよ」

「なるほど。では、その人のメールアドレスだけでも教えてもらえませんか?」

「それは、できません。タケトさんといえども、顧客情報ですから」

「そうですか」

 残念な顔をしてみせるタケトさん。

 相談したいのは山々だが。顧客との信頼関係は、他の何よりも重要だ。

「タケトさん。今日は、どんなご用件で?」

「あっ、そうでした。実は作って欲しいモノがありまして。私の方も、何かよく分からないモノだと思いますが」

「問題ありません。タケトさんの依頼であれば」

 タケトさんから、図面を貰う。細部まで書き込まれた設計図。有難い。酷いところだと、手書きのラフな図面しかないからな。株式会社デンデンなんか、特に。

 作るモノは、筒状のステッキ。

「ここに、コレを入れて下さい」

 手渡される謎の物体。

「これは、何ですか?」

「大切な人を救う為のモノです」

「ひょっとして、奥さんですか?」

「いえ。娘です」

 そう口にして、タケトさんの表情が少し柔らかくなる。

 娘がいるのか。

 そんな年齢には見えないけど。それ以上話さないところをみるに、タケトさんにも色々と事情があるのだろう。

「分かりました。最速で作製するようにします」

「どれくらい掛かりそうですか?」

「そうですね。この図面から見るに、二週間くらいでしょうか」

「助かります。でも、これも、早めにお願いしますよ」

 タケトさんが、扇風機のような機械をポンポンと叩きながら言う。

「勿論。それも、最速でやるつもりです」

 そう

 何であれ、作る。

 それが、このツクツクボウシ。

 この俺の存在理由なのだ。

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