第2話 何でも作ります、ツクツクボウシ~マコト~

 ジィー

 バチバチと散る火花。金属と金属とを接合。位置合わせは慎重に。間隙に溶接棒を突っ込んで、放電を加えていく。

 よしっ

 悪くないデキだ。しかし、熱いな。溶接マスクを外して、顔を上げる。

 んっ?

 なんだ、アミか。気づいたら隣にいる。

「やぁ、マコト」

 モノ好きな少女。黒のワンピース。長い黒髪、赤いリボン。どうやら近所の小学生みたいだ。ここのところ毎日、俺の工房にやってくる。俺が作っているモノに、興味津々のようだ。

「溶接中だ。危ないから、離れていろ」

「大丈夫。気をつけているから。それより、マコトはさ。今、何を作っているの?」

「さぁね。依頼されたモノを作っているんだが。これが何だかは分からない」

「分からないんだ」

「あぁ。メールで、図面と材料が届けられてきたから。俺はただ、それを組み上げているだけだ」

「へぇー。何が出来るか、興味ないんだ」

「ないね。俺は、モノ作りスペシャリストであって、そのモノが何になるかについては興味がない」

「ふーん。そっか」

 アミがはんだごてを弄りながら、何かの電子回路を作り始めた。子供にしては、腕は悪くない。だが、邪魔だ。

「もっと離れた場所でやれ。集中できない」

「マコトのいじわるー」

 そう言って、動こうとしない。面倒だ。これだから、ガキは。諦めて作業に戻る。円筒形の金属の外に変な線をたくさん、ズサズサと突き立てていく。そして、内側に変なモノを埋め込む。

 何なんだ、コレは…

 ゴムのようにグニグニとした半透明の物体。金属のような光沢を見せている。

 やれやれ

 最近、こんな仕事ばかりだ。得体の知れないモノを扱うことが多い。正直、うんざりしている。

 リクエストがあれば何でも作る。それが、ツクツクボウシのモットー。材料集めにアンデスの山だって登るし、南極に行ってモノを作ることだって厭わない。勿論、それ相応の代金を請求することにはなるが。

 この仕事を始めてから、早十五年。軍艦を造ったりもしたし、塔を建てたりもした。いつの間にか、細々とやっていくだけの固定客もついた。だが、ここ最近、意味不明なモノを作ってくれという依頼が、やけに増えてきている。作ってみて、何なんだコレは、と首を傾げてばかり。

 ピンポーン

「はーい。ツクツクボウシです」

 アミが、玄関にスタスタと応対しにいく。全く、あのガキは。

「こらっ。お前が、勝手にツクツクボウシを名乗るな」

「別に、いいじゃん。はい、マコト。株式会社デンデンってところから宅配便だよ」

 あぁ

 また、この会社か

 毎回、妙なモノを送ってくるところだ。そして、それを使って奇怪なモノを作ってくれという依頼が来る。報酬が良いから受けてはいるが。面倒だ。後回しにしよう。箱を作業台の隅にポイッと投げて、作業に戻る。

 図面を確認して、円筒形の中央に入れる羽根を加工していく。変わった形状の羽根。前へと気流を送るような構造にはなっていない。しかし、図面の形状を弄るコトはしない。過去に、よかれと修正して、クレームが来た事があった。それ以来、設計図面を忠実に再現するよう心掛けている。

「それ、もうそろそろ出来そうなの?」

「あぁ。今週で完成しそうだ。しかし、何に使うんだろうな、こんなモノ」

「うーん。そうだね。例えば、ソレが、次元を歪ませたりするのかもしれないね」

「次元? 何だ、それ?」

「さぁ。アミには、よく分からない。でも、楽しみだね。どんなモノが出来るか」

 そう言って、少女はニコリとした笑顔を見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る