第7話 強奪する〈悪魔〉 (正大 継之介)
「飯田(いいだ) 宇美(うみ)。中学二年生。学校ではその可愛さから多くの人に告白されているみたいだけど――モテる分、性格は相当悪いらしいよ?」
公人は一枚の写真を見せながら俺に言ってきた。
それは〈ポイント〉で情報を買ってから、三日目の夜のことだった。三日で名前しか教えられなかった少女を見つけるとは、流石は公人と言うべきか。
「相変わらず調べるのが速いな……。この制服――〈聖ノーラン高校〉か」
写真に写っていたのは髪の長い少女。恐らく、隠しとったものなのだろう。物陰から撮ったと分かる画角だが、それでもモデル張りのプロポーションを誇っているところをみると、彼女がモテるというのは、本当なようだ。
写真に写る飯田 宇美を眺める俺に公人が言う。
「〈聖ノーラン高校〉……。これといった特徴はない、一般的な高校だ。精々、幼稚園から大学まで持っているという所だけだね――それより、制服だけで学校が分かるなんて、継之介は制服マニアなのかな?」
「ちげーよ。〈聖ノーラン高校〉なんて変わった名前にしては、普通の制服だなって覚えてただけだ」
制服を見ただけでどこの高校か分かるほど、俺は詳しくはない。下手したら自分が卒業した高校の制服すら分からなくなっている。
俺が卒業してから直ぐに、新しい制服に代わったみたいだし。
「ふーん」
俺達が話をしていた場所は、純さん達と暮らす一軒家の前、玄関先だった。公人が調べた情報を俺に早く伝えようと待っていてくれたらしい。
褒めて貰いたい子供のようだ。
ま、褒めはしないが感謝はするけどな。
公人に礼をいいながら、俺は家に上がった。
キッチンで夕食の準備をしている純さんに帰宅したことを告げると、純さんは「お帰りなさい」と俺達に微笑んだ。そして、「今日の夕飯は生姜焼きよー」と言って、楽しそうに油が弾ける音に向き合う。
挨拶を終え、俺達は二階にある部屋に向かう。扉を開けて、手に持っていた鞄をテーブルの横に置き座椅子に腰を下ろした。
「そんなことより、〈悪魔〉としてこいつが何をしてるかが問題だ」
俺が眠るベッドに腰を下ろした公人に言う。
飯田 宇美がどこの高校に通っていようと構わない。
俺が知りたいのは、彼女がどんな悪事をしているかだ。〈並行世界〉に来たのは三か月前でも、俺と公人の付き合いは長い。
俺が何を知りたいかなど、公人は言うまでもなく分かっていた。
「ふふ。僕を舐めないでくれる? 彼女が一人で怪しいことをしているのは調査済みだよ」
どうやら、俺がこの三日間アルバイトに勤しんでいる間に、公人は飯田 宇美について一通り調べは終えているようだった。
自身が調べたことを記憶の中からアウトプットする公人。
「彼女は放課後、友人たちを港にある廃倉庫に集めて宝石やブランド物のバックを、無料で配っているらしいんだ」
「なに……?」
ブランド品を人に無料で配るなんて、当然、一介の高校生が購入できる金額じゃない。公人曰く、多い時には数百万分の金額が配布されるのだと。
「何故、そんなことを……?」
俺の問いに公人は「分からない」と首を振る。流石の公人でも人の気持ちばかりは調べられない。
だが、公人が調べた情報は飯田 宇美のことだけじゃなかった。
「ただ、〈悪魔〉が宝石店などを襲っているという情報は手に入った。彼女が配った物品からみるに――彼女の仕業だろう」
全部を照合したわけではないが、襲われた宝石店の商品と、飯田 宇美が配った商品が一致しているモノがあったのだと公人は言う。
高級品を無料で配布できる理由は――無料で奪ったから。
〈悪魔〉の仕業と分かれば、襲われた宝石店も泣き寝入るしかない。
「なるほどね。そこまで分かれば充分だ――流石だな、公人」
名前が分かってから三日とは思えない成果だ。
……それに比べて俺が手に入れたモノは、誠子の父親から教わった調理のレシピだけだ。今度、公人に振舞おう。
「ありがとう。それで、明日から飯島 宇美を追い、一人になったところを倒そうと思うんだけど、継之介はどう思う?」
「そこまで調べているなら、俺が意見することはねぇよ。さっさと倒して〈ポイント〉を集めようぜ?」
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