第3話

「ただいまー!!!美羽、買ってきたよ!」

時刻は午後2時過ぎ。丁度、太陽が傾き始める頃合だ。

「ありがとう。」

美羽のために買ってきたお茶の表面には僅かながらも水滴が付いていた。私の額にも汗が滲んでいる。

長い髪を高く結んで正解だったと今になっては思う。

屋台の前にはこの暑さの中で豚汁を選んで並ぶ人は居らず、空いていた。

私と美羽はお客さんがいないことを確認して、後ろに設置されてある休憩用のテントに入り、日陰で休むことにした。

もちろん、売り場部分にも屋根は付いているが、休憩所とはまた違った暑さがあった。

「あー………疲れたね、イベント自体は4時くらいには終わるから……。」

「そこから片付けしなきゃね〜。」

「…だよね。」

はぁ、とため息をつきながら、私は美羽と雑談をする。どうせ、客は来ないのだ。少しくらいならいいだろう。

ジュースを頬に当て、涼をとる私は地面に体育座りをして項垂れていた。

美羽はというと、休憩というのに立っており、タオルを首にかけて汗を拭っていた。

ちょっとした所作で人の性格は出るというものだ。美羽はもの静かで大人しめの女の子だ。私はというと、それなりに学校では大人しい方だが、プライベートでは思いっきりうるさい方である。

「美羽〜。あっちにお化け屋敷あったよ。彼氏と行ってきたら?」

「ホント?!!」

こんな時に美羽の目は輝く。ホラーが好きで、お化け屋敷や映画等をよく見ているらしい。……ホラーが苦手な美羽の彼氏さんと一緒に。

「休憩してきていいよ?お昼前くらいからずっと屋台の当番してくれてたし。」

私の声と丁度、屋外放送がかかる。何らかのステージイベントが始まるらしい。

「ほら、人並みもステージの方に流れていくと思うから。行っといで。」

私の顔を見た美羽は逡巡したようだが、ありがとう!と言ってスマホを取り出した。

彼氏さんに連絡をしているのだろう。微笑んでいる美羽の顔を見ると、青春しているんだな、と感じる。

残念ながら、私にはしばらくないだろう。こんな時にも私の彼氏は来てくれないのだから。

…少しばかり、寂しい。とか思うけれども、口に出したことは無い。言ったら相手に押し付けることになる、と私は考えているからだ。迷惑は決してかけたくない。

そう強く思う私は、我慢するクセがついていた。自分の本音すらも、言えなくなっていた。

そんなことを考えていると美羽はいつの間にか居なくなっており、私は1人になっていた。

「ふぅ…。」

1人になると多くのことを考える。どうしようもなくネガティブな方向へ物事を考えてしまうのだ。

いつ頃別れを言おうか、連絡をしてもいいのだろうか、最後に会ったのはいつだったか、迷惑ではないだろうか。

共に過ごした時間は少なくなっていたので特段、何も感じなかった。付き合っている、という自覚が無い、と言ってもいいくらいだ。

ぼうっと考えていると、おつ、と声をかけられた。

誰かと思い、顔を上げると先程まで控え室に居た藤田たちだった。

「おつかれー、なんでこっち来たの?暑いよ?」

「知ってる。」

「それでも良かったんだ〜、瑞希ちゃん初めまして、高田というんだ。よろしくね。」

高田、と名乗る男の子は藤田の隣にいて、私よりも身長が高いということしか、特に興味がわかなかった。

「うん、よろしく。」

笑いながら、私もあいさつを返す。

藤田は私の後ろに足を広げ、陣取るように座っており、

「何様だよ…。」

と私は声をかけた。

「俺様」

どやぁ、っとした顔で言われた私は苦笑いで返し、高田はその藤田の横に座っていた。

藤田は音楽を流しながら高田と話している。

先程まで1人で静かだったこの場所は、たちまちうるさくなってしまった。

そのうるさいのが嫌いでもない私は、会話に入るべくして、声をかける。

「何見てるの?」

スマホを覗き込むように私は藤田に近づいた。

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