第4話:美味しい話のもらい方(200903-6)

 岸田絹子は、その後もラハールを、月に1回、多い時は、週に1回、呼び出して、食事を与えてくれ、まるでペットのように可愛がってくれた。ラハールは、絹子のことは、何とも思っていないが、絹子はラハールにぞっこんであった。ラハールは、これも、お仕事と割り切って、毎回、おつとめを果たしていた。


 ただ、絹子は、さすが商売人で、お金を渡してくれるわけでも何かを買ってくれるわけでもなかった。そこで絹子の機嫌の良い時に売上厳しいんで、言い情報を頂戴と言うと年度末3月にA商会では手元資金が不足していて今なら大量に買うなら、安い条件で、宝石を買えるチャンスだよと教えてくれた。


 ラハールは早速、A商会に出向いて話を聞こうとしたが悪いがインド人に売る宝石なんかないよと門前払いをくらった。数日後、また出直して大きめのバッグに大金をつめて訪問したが、冷たい反応には変わりなかった。そこで、おもむろにバッグをあけて、実は売ってくれれば1万円札を100万円ずつ束ねたたばを目の前で見せた。

 売ってくれるなたら、即、現金で買いますよと言った。すると番頭が驚いて、主人を呼んできた。誰の紹介で来たのかと聞くので、岸田さんの紹介で来ましたというと本当かと言い、すぐ電話して確認を取った。


 本当だとわかると、手のひらを返したように何をご希望ですかと聞いてきた。金はあるから、在庫品を見せてくれと言った。するとラハールを奥の商品倉庫の商品棚を見せてくれた。ラハールは、大きいが光沢の良くない宝石や、傷ついた宝石、サイズの不揃いの綺麗な真珠、ユニークな形の真珠、サファイヤ、黒真珠、黒ずんだり、傷のついた金、銀、プラチナを取り出していった。大きい水晶、いびつな形や、変わった色の淡水真珠など単品では売れないような商品を手当たり次第に取り出した。


 すると、お客さん、なんで、もっと簡単に売れそうな良品を持っていかないのかと不思議そうに言った。ラハールは、その質問に、それは秘密ですと笑った。

 1時間近く掛けて、欲しい商品を取り出した。こんなに、本当に買えるんですかと疑った。ラハールは、そこから電話をして車に中にいた部下に大きな袋に入った大量の1万円札を持ってこさせた。


 A商会の主人に、これ全部買うから幾らになるかと聞いた。ちょっと待って下さいと電卓をはじき出した。主人が8千万円と言った。それを聞いてラハールは小売りでもそんな高い値段じゃ、お客は絶対に買わない。岸田商会や宝石商の仲間に言って、締め上げるぞと、すごんだ。また電話を掛けだした。その後ラハールが宝石の会社の社長だとわかって主人が、ごめんなさい、この値段は小売り価格だったと謝った。 

 次に現金支払いなら6千万円で良いと言った。高価なケースもつけると言った。

 ラハールがニヤッと笑って4千万円だと言った。そんな殺生なと主人が言い、間を取って5千万円と言った。ラハールがケースはいらない石だけ良いから4千万円と言った。主人が呆然と黙っていると売る気がないなら時間の無駄だから帰ると言うと、わかった4千万円で良いと言った。100万の束を40個、店の机の上にのせた。


 番頭が、数えようとしたが、主人がよせと言い帯封が着いてるから大丈夫だと言い、そのままにさせた。帰ろうとすると、主人が名刺を差し出し、今後、現金取引をして下さるなら、また、格安良品が入ったらお知らせしますと言い、名刺を下さいというので、ラハールはハイよと手渡しし、主人の肩をたたいて、現金取引するから、

良い情報をくれよな、また良品を安く売れよと言った。


 主人が、ありがとうございますと丁寧に頭を下げた。実は日本の宝石業界は小売店の力が強く、問屋は3ヶ月、6ケ月ひどい場合は1年の取引手形で商売をしていて、問屋の売上が落ちてくると手元資金が枯渇するという弱い立場だった。たぶん、宝石を現金取引するのは、ラハール以外いないと思われ、その後も、良い品を安く買える様になっていった。

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