俺にかまわず……早く行けっ……!!(1時間経過)

ちびまるフォイ

大岩<ゴロゴロゴロゴロォッ!!(迫真)

「俺にかまわず、早く行け!!」


「ヒダリ、何言ってるんだ! そんなことできるわけないだろ!」


「バカ野郎! 今の状況わかってるのか!!」


「お前を置いて俺だけこのダンジョンから逃げるなんてできねぇよ!」


「このままだったら二人ともあの世行きだぞ!」


「ふざけんな! お前を置いて……病気の妹さんにはなんて伝えればいい!!」


「お前の兄貴は……お前のことを愛していると伝えてくれ」


「そんな大事なこと……自分の口で伝えやがれ!!」


「いいんだ……あれだけ嫌っていたお前のことをかばっちまうなんて

 俺もヤキが回ったってことさ。こんな姿見られてたまるか……」


「ヒダリ……。ダメだ! お前を置いて戻るなんて、できない!」


「ミギが忘れない限り、お前の心の中に俺はいる。いつだってな」


「お前と冒険できる日々をこれからも続けたいんだよ!!」


「いつだって終わりは突然だ、ミギ。今まで過ごした日々、楽しかったぜ。さぁ早く行け!」


「ヒダリ、最後にひとつだけいいか」


「なんだ」




「……長くない?」


「えっ」



「いや、もうさっきから結構話してるじゃんね」

「うん」


「お前、さっきから大岩を背中で受け止めてるじゃん」

「うん」



「めっちゃしゃべってない?」


「……」


「え、なに? これってあんまり重くないの?

 俺にかまわず早く行けとか言ってるわりにはピンチじゃないの?」


「そ、そんなことはねぇよ……」


「じゃあなんでさっきから大岩を受け止めながらあんなにしゃべれたんだよ。

 余裕あるじゃん。余裕ありありじゃん」


「それは火事場のなんとかって力っていうか……。

 友達を守りたいっていう強い意志が……ほら、そういうのだよ」


「演技だったの?」

「……」


「演技じゃん」


ヒダリは観念したように目線をそらした。


「演技か演技じゃないかって言ったら……ちょっと盛ってたところは、ある」


「演技じゃん」


「ちげーよ!! ここで、こう、大岩を受け止めてだな……!

 で、死んだと思うじゃん。と思いきやだよ。

 なんかミギが強敵と戦ってるときにさっそうと登場して――」



"どうしたミギ。腕、なまっちまったんじゃないか(キリッ"



「とか、言えたらいいなとは思ってたよ」


「あーー……でもマジそういうのやめろよ」


「なんでだよ。超かっこいいじゃん。嫉妬? 嫉妬なの?」


「いや、そういう必死の演技されると、今後仲間として活動するときに

 どれだけピンチかどうかわからねぇじゃん。演技かもしれないじゃん」


「そこは……察しろよ。戦いで培われた阿吽の呼吸とかで」


「できるわけねーだろ」


「……」

「……」




「……あ、思い出した」


「なに?」


「そういやさ、町で冒険者リストラ試験があるんだ」


「え!? あの成果を出せていない冒険者をことごとく追放する

 冒険者かいわいでは恐怖のイベント!?」


ミギはおもむろに大岩に背中を添えた。


「くっ……!! ダメだ! これは支えられない!

 ヒダリ、お前は俺にかまわず先へ町へ戻れ!!」


「ちょっ! ずりーぞ!! お前、町に帰りたくないだけだろ!」


「だって帰ったら確実に追放されるじゃん!!

 ここで名誉の戦死にすれば、なあなあになって見逃されるんだよ!」


「お前さっき演技だって、俺の事めっちゃ言ってきたくせに、演技再開すんなよ!!」


「うるせぇ! 大岩の気持ちを考えてみろ!」


「変な三角関係みたいに片付けんな!!」



ミギとヒダリは河川敷で殴り合う男のように戦った。



「はぁ……はぁ……ちょっと待て……やめよう、こういうの」


「だな……もうなんか……無益すぎる……」


「あのさ、思ったんだけど……2人ともここで死んだことにすればいいんじゃない?」


「バカ。それだと町に行った時に俺たちの死亡を伝える人がいないだろ。

 行方不明のままだと捜索隊が送られて、ウソがばれる」


「……あー、くそ。そうかぁ……」


「……いや、待て。ある! あるぞ! いいアイデアが!」


「本当かヒダリ! どうすれば2人とも死んだことにできるんだ!?」


「この大岩トラップを戻すんだよ。で、新しくきた冒険者が引っかかるだろ?

 そこにすかさず俺たちが2人でかばうんだよ」


「なるほど!! それしかねぇな!!」


「死ぬときは一緒だぜ、的なことを言うんだよ」


「あーー! それ腐女子が好きそうなやつ!!」


「とにかくトラップ戻そうぜ」

「おう」


ミギとヒダリは大岩のトラップを元の位置に戻して、スイッチも準備し直す。


「よし……あとは誰かがここに来ればいいだけだ」


二人は物陰で息をひそめて誰かがトラップにかかるのを待つ。

やがて、ダンジョンに道具をたくさん持った男がやってきた。


なんの疑いもなくスイッチを押す。


「かかった!!」


スイッチによりストッパーが外れた大岩が通路奥から転がってくる。

ミギとヒダリはさっそうと飛び出して、両手で大岩を受け止めた。


「ぐっ……!! なんて重さだっ……! 支えるのがやっとだ……!」


「おい、そこの人! 俺たちにかまわず、早く町へ戻れ!!」



「いえ、しかし……」



「なにモタモタしてる!! 巻き添えになりたいのか!? 早く行け!」

「そして、俺たちの最後の雄姿を……伝えてきてくれっ……!!」


男は申し訳なさそうに頭を下げた。



「あの、私、トラップ整備士をしておりまして。

 その大岩トラップが老朽化で威力が弱いということで、

 本日、修理するためにここまで来たんですが……」

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