Episode4 永遠の愛

その1 湖畔にて

 山間やまあいにひっそりと広がる湖。水辺は砂利になっているが、そのすぐ背後には、背の高い針葉樹林が生い茂り、林を作っている。周りには山頂が荒々しくも鋭く削られたような山々が聳え、ここいらに立ち寄る人々は誰もいない。だれも立ち寄らない場所であったが…。



「はぁ…。なんでさっきから一匹もひっかからねぇんだ…」ルートはこの湖で、ぼんやりと釣り糸を垂らしていた。魚が釣れないことに対して、ぼやいていた時、湖の中心あたりで水が勢いよく跳ね上がった。シーグラムが水中から頭を突き出したのだ。その彼に向かってルートは怒りの声を投げた。

「コラーッ!シーグーー!お前が、泳ぎ回る、せいで、今晩の、食料が、釣れないんだろうがーー!!」彼は言葉を切れ切れに、叫んだ。

 シーグラムは黙って口を閉じたまま、ルートの方へ飛んで来た。そして彼の横に降り立つなり、口を開いて中に入れていたものを吐き出した。それは六匹の魚たちだった。イワナにヤマメ、それによく分からない小さな魚たちだった。まだピチピチと跳ねている。ルートはそれを見て目をパチクリさせた。

「まったく、この私が折角食料をとって来てやったというのに、お前は文句ばっかり——」シーグラムは嘆息した。

「……。いやさ、食料とってきてくれるのは嬉しいんだけどよ、お前の口の中にどっぷり浸かったものを食わなきゃいけないわけ?勘弁してくれよ」

「嫌なら食べなければいい。自分の分は自分でとるんだな」

「だから、それをさっきからやってるんだろうが!お前が邪魔さえしなけりゃあなっ!」

この一人と一頭は、今夜の食料を巡って不毛な争いをしていたのだった。


 そんな諍いを起こしている時、フォッフォッフォ——、と、どこからともなく柔らかい笑い声が聞こえてきた。彼らが声の主を探して辺りを見回すと、一人の小さな老人がこちらを見ていることに気がついた。いつの間にいたのだろうか。

「あれ、もしかして、俺たちずっと見られてた?」

「もしかしなくてもそうだろうな」とシーグラムは返すと、ふわっと老人の元へ飛んで行った。

「ご老人、一体いつからおられたのだ?」シーグラムは老人に直接訊いた。その老人は白髪に立派な白ひげをたくわえていた。体はやせ細り、棒のような手足が衣服から覗いていた。足腰が悪いのか、背中は曲がり、小さなチェアに腰掛け、傍らには杖が置いてある。

「お前さんらがここに来て釣りを始めるずっとまえからだよ。ここでのんびりするのがワシの日課なんだ」老人は言葉柔らかく、軽い調子で答えた。

「それは、騒がしくしてしまったようで申し訳ない…。我らは去るとしよう」

「いや、待て待て。久しく誰かとまとも会話したことがないんでな、ここで騒がしくしてもらった方が、ワシとしても気が楽だ」

「それはありがたい。ではお言葉に甘えるとしよう。私はシーグラムという」

「ワシはオーラフだ。よろしくの、ドラゴンさん」

それから、遅れてルートがやって来た。

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