その4 作戦会議

「それで、ちゃんと見てこれたか?」

「ああ。建物の構造も獲物の位置も把握できた。あとは、どうやって盗むかなんだが…」

「いいなあ。お前はあの「マリアの光」を間近でみてきたんだろ?他にも、色んな現代作品を–––」シーグラムは羨ましそうにため息をついた。


 彼らは今、郊外に来ていた。都市部を離れてしまえば、畑だらけの土地であり、家もまばらだった。彼らはなるべく人家から離れた小高い丘の上で今夜の作戦会議を開いていた。


「絵なら後でゆっくり眺めればいいだろ。時間が無いんだ。ここからリュパまで割と距離あるからな」

「分かった。無駄話はやめよう。それで、どうするのだ?」

ルートは紙を広げ、今日見てきた美術館の間取りを簡単に描き始めた。

「職員用エリアや保管室はさすがにみてこれなかったが、今回は裏口から行くなんて回りくどいことはしない。建物の構造はシンプルにこんな感じだ。出入り口は建物のちょうど中心。そこを入ると吹き抜けのエントランスだ。両脇に階段とエレベーターがあって、二〜四階が展示室。屋上はカフェレストランと庭園。展示室はいくつかの区画に別れてはいるが、扉で仕切られているわけじゃなく、全て繋がっている。そして警官の配置だが、やっぱり予告状に出ている品がある二階が特に厳重だ。あとは。職員用出入り口と搬入口、それから屋上。こんな感じだな」と、彼は間取りを書き上げた。

「裏口からは行かないと行っていたが、正面突破でもする気か?」

「そんなことしないさ。いや、最終的にはそうなるかな。まずは下準備だ。お前には、日暮れまでに街に行ってもらいたい」

「日暮れ前に?しかし、街の住人に見られるぞ」

「街の中心部に馬鹿でかい大聖堂がある」ルートは街の地図を取り出して、シーグラムに大聖堂の場所を教えた。

「そこの鐘の影に隠れれば、短時間ならなんとかなるだろう。そこでお前には美術館の壁に切れ込みを入れて欲しい。お前の能力(ちから)ならなんとかなるだろ?」

「不可能ではないが、もしかして絵を壁ごと持って行く気か?」

「その通り!そうでもしないとスピーディーに事が運べないんだ。なんだ?自信ないのか?」ルートは馬鹿にしたように相棒に言った。

「ふん。私にでも繊細な仕事くらいできるさ。分かった。で、どこを狙えばいい?マーキングまではしてきていないだろ?」

「ああ、さすがにそこまではできなかった。やってほしいのは、ここだ」ルートは、再び美術館の図面を書き始めた。今度は建物の裏側だ。そこに、地上からの高さ、屋上からの距離、建物の端からの距離などを正確に書き上げた。美術館の中を歩いている時と外観を見ている時に計算しておいたのだ。

「ちなみに、大聖堂と美術館の距離は?」シーグラムは訊いた。

「大体五百メートルってとこかな。鐘の所まで登ったら分かんねえけどな」

「……。お前、そんな距離から緻密な作業をやらせようとしたのか。大体、私が作業しているところを誰かに見られる可能性を考えなかったのか。それに、少しでも力加減を間違えれば、壁を貫通するし、距離を間違えれば絵を傷つける」

「あら、また自信なくなった?」ルートはまた小馬鹿にしたようにシーグラムを見やった。

「仕事はきっちりやるさ。それに、元はと言えば、私がやりたいと言い出した事だ」

「そうこなくっちゃな!それじゃ、時間も惜しいし、お前の体を黒くしながら、後は説明させてもらうぜ」ルートはどこからともなく墨とモップ筆を取り出し、シーグラムの体に塗りたくった。


「それからの立ち回りは?」くすぐったそうにしながらも、シーグラムは作戦会議を続けた。

「俺は警官に変装して警備にまぎれてくるさ。それで、二階の様子をお前に逐一伝える。そして、予告の時刻になったら作戦決行だ。怪盗が現れて、しばらく経ったら俺が合図する。そしたら、お前は切れ込みを入れておいた壁を押し出して中へ入ってくれ。後は俺の能力でその絵に紐をくくりつけて運び出す。あ、そうだ。お前、爪潰しとけよ」ルートはシーグラムの鋭い爪を見て言った。

「もちろんだ。大切な絵を傷つけられないからな。そして運び出した後は、一旦ここまで飛んでくる、というわけだな」

「そうだ。ここで一度降ろして、整え直して山中深くまで再び運ぶ」

「私が侵入した所を見られる危険は皆無ではないだろう?騒ぎになった時はどうする?」

「なるべく人が怪盗の所に行った頃合いを見るが、警官に見つかりそうになった時は俺がなんとかするさ。数人なら大丈夫だ」

「分かった。それで、もう終わりそうか?」シーグラムはじれったそうに自分の体を見た。

「後は首と頭だけだ。じっとしてろよ」

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