その6 森の片隅で…
ルートは目を覚ました。ごく短時間ではあるが、気を失っていたのだ。蜘蛛に襲われて穴に落ちてしまったことまでは覚えていたが、どこに落ちたかまでは分からなかった。彼は目の焦点を合わせて、改めて周りを見渡した。そこは、さきほどまでいた森とは全く違う光景が広がっていた。森の中にまだいるのは間違いないが、そこには、小さな家がいくつも点在していたのだ。その空間は、樹海や林の木よりも大きい巨木が何本か聳え、さらに蔦が絡まり、天然の壁を作っていた。だが、どこからか陽の光が差し込んできており、先ほどまでの陰鬱な森とは正反対の印象を与える。地面には草花が咲き誇り、小鳥やうさぎなどの小動物、蝶などが、ささやかに飛び回っているのが見えた。
彼は立ち上がって、小さな家に近寄ってみた。あの林の家よりは風化していないが、蔦がからまり、外壁が朽ちた様子は、もう住人が存在していないことを思わせた。
シーグラムからの交信がきた。ルートがどこにいるか分からないようだ。
「ルート、今どこにいる?生きているか?」
「ああ、生きてるよ。それでな、大発見だ!小人の村を見つけたんだ!」
「まずはどこにいるか教えてくれ。そこに私はいけるか?」
「えーと、穴に落ちたんだ。それで、気づいたらここに——。そこらへんの地面に穴が空いているはずなんだけど、分かるか?」
「ああ、お前を襲った蜘蛛の近くでそれを見つけた」
「通れそうか?」
「道を広げながらなら行けそうだ。ちょっと待ってろ」
シーグラムがこちらに来るまでの間、ルートは村を探索してみることにした。家と家の間は距離が少し離れており、各家が畑や家畜小屋を持っていたことが窺えた。朽ちた木の柵、荒れ果てた農作地、牛小屋や厩と思しきも建物を見つけたからだ。さらに奥の方に進むと、広場のような所が見えた。村は案外広そうだった。広場になっている所へ進んでみると、真上から日光が降り注いでいるのが分かった。村の周りは木や蔦に囲まれているが、その天井に当たる部分は蔦草が薄くなっており、日光が届いているのだった。日光の高さからしても、先ほどの地点より下に来たのは間違いなかった。
ルートを呼ぶ声がした。シーグラムが来たのだ。彼は元いた所まで戻った。
「ふう、こんなに土塗れになったのは久しぶりだ」シーグラムはそう言って、体をぶるぶる震わせて土を払った。
「あの蜘蛛たち、どうなった?」
「多分、全滅したと思う」
「あんな大きな蜘蛛初めてみたぜ。世の中にはあんなバケモンみたいなのが本当にいるんだな」
「未踏の地というのは、人間には伝わっていないものが生息しているものだ。あの大蜘蛛たちも、古来よりあの森に住まっていたのだろう」
「けど、あいつら、俺らが念話し始めた時に、俺が隠れている場所に気づいたんだ。何か不思議な力でもあるのか?」
「私には分からないが、そういう力を検知する器官が優れていたのだろうな。彼らが未知の生き物であることに変わりはないが——」
ルートは、先ほど見つけた広場へ相棒を案内した。蜘蛛の襲撃で、彼らは疲れきっていたのだ。
「それにしても、本当に見つかるとはな。住居のサイズが、林の中で発見されたものと同じだ。」
「ここは樹海のどの辺りなんだろうな。蜘蛛から逃げている内に方角が分からなくなっちまったから——」
「お前が蜘蛛に攫われた場所からさらに北へ来たはずだ。恐らくここは樹海の北北西にあたるのではないかな。山の方へ向かっていたのは間違いないから、まさしく人知のおよばない場所なのだろうな」
「さっきまでとは全然別の場所みたいだな。こんなに光が差しこんでるなんて——」
「ああ。まったく分からないことだらけだ。この森がどのような構造になっているのか。小人はなぜ滅んでしまったのか」
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