その7 遺跡

 少し休憩してから、彼らは探索を始めた。ルートは手当たりしだいに家を開けて入ってみた。どの家も生活の痕跡があった。机があり、椅子があり、暖炉、台所、棚、食器、などなどだ。これらの生活用品を捨てて彼らは一体どこへ行ってしまったのだろうか?二人は墓場がないか探してみた。それは村のはずれにあった。いたって普通の、人間のものと変わらない墓標が綺麗に並んでいた。


「小人ってのは長生きだったんだな。百三十二歳で死んだって書かれている」

「小人が人間よりも長生きだという伝説は、エウロー地方でも聞いたことがあるな。それに、ここに書かれている年代、私の知らない元号だ。やはり紀元前に生き、滅びたのか」

墓標の生没年のところには、

    メレオ暦一三年〜 ルメル暦二八年

と、書かれていた。メレオやルメルというのは、当時、この辺りの国を統治していた王の名だろう。


「あんまり戦争で滅びたって感じはしないから、やっぱり疫病とかかな」

「それだったら火葬した場所が残っているんじゃないか?だが、ここいらにそれらの痕跡はない」

「村から外れた場所でやったとか、かな」

「それはありそうだな。何か記述でも残っていればよかったんだが…」

「そういうのは見つからなかったな。ま、紀元前なら、そうほいほい紙と筆が手に入るわけじゃねえし。お、あそこ、道になってないか?」

「おや、本当だな」


 二人は墓所の向こう側に、木のトンネルになっている所を見つけた。人間はたやすく入れるが、ドラゴンには少々きつかった。シーグラムは、身を縮めながらルートの後を追った。トンネルの途中で、地下に続く階段を見つけた。


「シーグ、石の階段だ。地下へ続いている」ルートの背中ごしにシーグラムが覗き込んだ。

「ならば、私が先へ行こう。階段が脆くなってるやもしれんからな」シーグラムは、首からランタンを下げて先行した。

 地下へ続く階段はそれほど長くはなかった。二人はすぐに階段を降りることになった。そこは地下洞窟になっていた。階段を降りた右手には川があり、その先に道は無かった。そして左手には大きな扉があった。先に進むには、この扉を開けるしかなさそうだった。

 ルートは、渾身の力を込めて開けようとしたが、扉は微動だにしなかった。

「ほら、お前も手伝えよ」ルートは扉をジッと観察していたシーグラムに呼びかけた。

「待て。この扉、力づくでは開かないようになっているぞ」

「どういうことだ?」

「古代文字が書かれている。

   黄泉の国の魔人、ここに封じたり

   決して開けることなかれ

   もし我と同じ力を持つ者現ることあらば、向かふべし

だと」

「やばいもんが封印されてるってことか?」

「ふむ。古代の怪物を封じたが、この封印した人物と同等の力を持っていれば、再び倒すべく立ち向かえ、というわけか」

「そんな勇者がほいほい現れてたまるかよ。こりゃあ、ここには近寄らないほうがいいかな…」とルートが弱気なことを考えていた時、扉が重々しく動く音が聞こえた。シーグラムがいつの間にか扉に手を触れていたのだ。

「どうやら、封印の主が進めと言っているようだぞ」シーグラムはルートの方を振り返った。

「まじかよ。まさか、お前が勇者様だなんて…」

「どうする?魔人が怖い人間様は帰るか?」

「バカヤロウ!お前だけ勇者面ゆうしゃづらされてたまるか!ここのお宝頂かない限りかえれねぇぜ」

 両扉は二十センチメートルほどの隙間を開けて止まっていた。

「まったく、あとは自分で開けろってことかよ」

ルートとシーグラムは力を合わせて扉を押し開け(ほとんどシーグラムの力だったが)、二人はその中へ入って行った。

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