その14 古城の攻防

 ヴィルムバーク城には、二つの大きな塔がそびえている。一番大きくそびえ立っているのは物見台として使われていた塔。より広くまで見通せ、そして防衛にも優れていたこの塔が使われていた頃は、ティツが戦火に会うことは無かったと言われている。その隣、山の岸壁側にある塔は、牢獄として使われていた塔だ。今は街中に留置所、街の外に刑務所があるため、使われていないが、当時は、この塔が刑務所として使われていたのだ。


 改修工事が行われ、一部ではあるが、住む者もいるこの城は在りし日の姿を多少取り戻してはいるが、この牢獄だけは誰も近づかず、いつも暗く、埃ばかりがたまっている。唯一よりつくものといえば、ネズミくらいだろう。


 ユリアーナは、この何百年も使われていなかった牢獄の一階に囚われていた。祖父とボリスの安否をずっと気にかけながら、どうやって見張りの目を盗んで逃げてやろうかと考えていた。彼女は、牢獄にこそ入っていたが、その檻には、古すぎるが故に鍵が無かった。だが、彼女が逃げ出さないように賊は拘束していたのだ。ずっと考えあぐねている内に、どこからともなく轟音が聞こえてきた。見張り塔がある方向だと、彼女と見張り達は気づいた。


「おい、今の、向こうからか?」

「そうらしいけど、一体何事だ?」

「俺たちで行ってくるから、お前、ちゃんと見張ってろよ」三人いる内の二人が様子を見に行き、一人はここに残った。一体何が起こったのか、ユリアーナには見当もつかなかった。



「お前、平和主義者のくせに、さっきからこの街壊しすぎじゃねえか?」ルートは穴の空いた壁から建物内に入り込んで言った。

「好きで壊してるんじゃない。こうでもしないと私が入れないし、それに敵をおびよせるのにもいいだろ?」シーグラムはルートの横から顔を出して言った。


 二人は、ダルコ達がゲーペル邸にはまっすぐ入らず、城の物見台付近にある通用口から入って行くのを見たのだ。その時シーグラムはあることを思い出した。

「そういえば、この城は刑務所としても使われていたのだ。エルマー達が捕まったのなら、捕らえられている可能性が高い。が、はてさて、どちらの塔が刑務所だったかな?」

「お前、そういう重要なことは覚えとけよな」

「仕方ないだろ、百年以上前に訪れた上に、私には人間の牢獄なぞ無縁なのだからな」

「だったら、あちらさんには全員で来てもらおうぜ」


 そして、二人は物見塔の中腹あたりの壁を突き破って侵入したのだった。塔の中は、一階から最上階まで螺旋階段で繋がっていた。彼らは階段に降り立ち、下を見下ろした。先ほど突き破った壁の破片が下まで落ちているのが見えた。そして、次第に、人間がやってくるのが見えた。二人のハンターだった。

 そこからの二人は素早かった。シーグラムは一目散に急降下し、ルートは、階段の手すりに、先刻賊を倒すために使った黒い紐を巻きつけ、下に降りた。

 突然の一人と一頭の襲来に男達は動くことができなかった。ルートは一人を押さえつけ、シーグラムは自慢の爪でもう一人を壁に押し付けた。二人とも身動きができなかった。


「おい、子供のドラゴンと爺さん、それに娘を捕まえてきただろう?どこにいる?」ルートは尋問した。

「む、娘はすぐそこの牢にいる。じじいとドラゴンは領主が持っていっちまったよ。どこにいるかは知らねえ……」男は苦しそうに答えた。ルートは、それを聞いた後で、男の首を死なない程度に絞めて気絶させた。シーグラムが押さえつけていた男はというと、すでにもう気絶していた。

「あっちが牢屋か。この通路だったら、お前も通れるかな?」

「ギリギリだが、私はここで待っていよう。多分、その内仲間たちが駆けつけてくるはずだから、早く戻ってこいよ」

「ああ」ルートは一人牢屋に向かって走った。


 檻が並んでいる場所にたどり着いた時、見張りの男とユリアーナの姿を見つけた。見張りが襲いかかってきたが、ルートはかわしつつ、投げ飛ばした。石壁に激突した男はそのまま気絶してしまった。

 ルートは、ユリアーナの元へ行き、その拘束を解いてやった。

「あ、ありがと…。お、おじいちゃんとあの子が——」彼女は弱々しく言った。

「ああ、あんたたち、別々に捕まったらしいな。爺さんたちがどこへ連れていかれたか分からないか?」

「ごめんなさい。捕まった時、気絶させられて、気づいたらここに…」

「そうか、とりあえず、こっちに来い。どうやら、向こうが騒がしい」ルートはユリアーナの手を引いて、シーグラムの元へ戻った。


 彼らが物見塔の方へ向かうと、そこでは、シーグラムが二十人近くのハンター達と交戦していた。

 ルートは「シーグ!」と声をかけた。

「ルート、やはり残りのハンター達が来た!」

「ボスがいないぞ」

「恐らく領主の館だ!ここは、私が引き受けるから、お前はそっちへ向かえ!」シーグラムは応戦しながら告げた。

「ユリアーナ、あんたはここで隠れていてくれ。大丈夫、あいつはそれなりに強いからさ」ルートはシーグラムの姿を見て半ば呆然としているユリアーナに声をかけた。

「あ、あの、あなたたちは一体…。彼は……?」彼女はとまどいながらも訊いた。

「えーっと、俺らはまぁ、小悪党ってとこかな。ま、あいつ、女好きだからな、あんたのこと、きっと気に入るだろうぜ。あんたがあいつのこと気に入るかは分からないけどな」

「聞こえているぞ」シーグラムに忠告されてしまった。

「とりあえず、今はケガしない程度に隠れてろ」ルートはユリアーナに告げた後、ハンター達の間隙を縫って、館の方へ駆け出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る