その15 ルートVSダルコ
館へ通じる扉を突き破って、ルートは、ゲーペル邸に入り込んだ。彼が最初に入り込んだ先は、廊下だった。その廊下をまっすぐ進んだ先が開けてそうだったので、彼はそちらに向けて走った。そこは、とても広い玄関口になっていた。屋敷の中は暗く、人が動いている様子は無かった。しばらく、周りを見回していたルートは、誰かが背後から飛びかかってくる気配を瞬時に察知して、咄嗟に横方向に転がった。襲ってきたのは大柄な男だった。
「小僧、昼間会ったよな」男は立ち上がりながら言った。ルートも、立ち上がりながら、男の姿をよく見た。それは、昼間の酒場で見たハンター達の親玉風の男だった。
「ダルコ!そいつをさっさとつまみ出せ!これ以上、ここでの騒ぎはごめんだぞ!」上の階にいる男が叫んだ。暗くて顔は見えないが、恐らくここの主のゲーペル領主だろう。ゲーペルは、すぐにどこかに姿を消した。恐らく、彼の行く所にボリス達はいる。そう考えたルートは、すぐに彼の後を追おうとした。しかし、ダルコがそれを許さなかった。
ルートがゲーペルを追おうとしてダルコに背を向けた瞬間、突如、服が引っ張られ、床に投げ飛ばされた。ルートはすぐには何が起こったのか分からなかったが、すぐに、ダルコを何とかしなければならない、という状況を理解した。
ルートが痛みをこらえながら立ち上がろうとした時、ダルコはすぐに殴りかかってきた。体躯に見合わず、素早いようだ。ルートは、再び横に転がって避けた。しかし、ダルコの拳は休まなかった。ルートは、飛んで来た拳を避けきれず、手のひらで受け止めた。手から体全体に電流が走ったような感覚がした。動きが止まったルートを、ダルコは首根っこを掴んで、軽々と持ち上げた。
「お前、もしかして、あの金色のドラゴンとグルか?」ダルコは訊いた。
「そう、だけど、」
「へぇ、お前らもあの子供のドラゴンが目当てなのかい?」
「まあね。あいつが子供のドラゴンは野生に帰すべきだって言うからね。あとは、ここの領主の密猟事業の話しを種に強請ろうかなぁ、なんて風に思ってな」ルートは苦しくなりながらも、全てを話した。
「ハッハ!お前の心意気、中々気に入ったぜ。おれら相手に色々かましてくれるんだもんな。だけどな、ドラゴンが味方についてるからって、少し調子に乗りすぎたな」ダルコは豪快に笑った後、目をギラリと光らせた。
「そう、だな。確かに、調子に乗りすぎた、かもな。でも、あんたも、俺を舐めるなよ!」
ルートが言い切ると同時に、ダルコの足元からは黒い紐が何本も、一斉に出現した。正確には、ダルコとルート、二人の影から出ていた。屋敷の二階の窓からは、微かだが、光が入ってきて。いた。外は、もう白み始めていた。
黒い紐はダルコの体に一斉に巻きつき、彼を動けなくさせた。
「くそっ!小僧、妙なことしやがるな」
「さっさと俺をやっちまわないからだよ。それに、小僧なんて歳じゃねえ」ルートは床に降り立って、反論した。
「こいつ、離れやがれ」ダルコは、怪力で拘束を解こうとした。すぐにでも、紐の拘束は解けてしまいそうなほど弱かったが、ルートはすぐにまた強くして、今度は、頭まですっぽり覆ってしまった。
暴れるダルコを床に転がして、ルートは、先を急いだ。先ほど、ゲーペルが姿を消した先だ。
その頃、シーグラムは、十七、八人ほどはいるハンター達と交戦していた。こんな数ならすぐにでも倒せる数なのだが、部屋の狭さがシーグラムを苦しめていた。室内ではあまり動き回れない上に、人が密集していると動きづらい。かと言って、先刻開けた穴に一旦出ようと思っても、そこは男達が丁度塞ぐように立っていた。それに、ユリアーナの存在もある。へたに暴れまわって、彼女を傷つけてはいけない。必死に回りの敵を爪や尻尾でなぎ払っている中、誰かがシーグラムの背中に乗った。その者は素早く動き、シーグラムの頭を槌で殴ろうとしていた。彼がその男に気づき、顔を向けた時、防ぐ暇はなかった。
やられる!
と思った瞬間、その槌を持った男は倒れ、シーグラムの体から落ちた。その男の後ろには、大きな石を持ったユリアーナの姿があった。
「お役に、立てた、かしら…。」彼女は息遣いを荒くして、しかしどこか誇らしそうにシーグラムに訊いた。
「ああ、ありがとう。あなたは美しい上にとても勇敢だ」敵を薙ぎ払う手を休めずにシーグラムは言った。
「お嬢さん、私の翼の下に隠れなさい」そう言ってシーグラムは左の翼を少し広げた。ユリアーナは体から降り、それに従った。シーグラムは精神を集中させた。すると、瓦礫の破片が急に跳び上がり、男達の頭上に降り注いだ。そして、瓦礫のそばにいなかった男はその被害を受けはしなかったものの、その降り注いだ石に気を取られている間に、シーグラムが平手を浴びせ、気絶した。
広間は、急に静かになった。敵がみな気絶したのだ。とはいえ、シーグラムも無傷ではない。男達から受けた傷や、先ほどの自身が動かした破片で傷を受けた。
「ふう、大丈夫だったかい?」シーグラムはユリアーナに訊いた。
「私は大丈夫よ。でも、あなたが——。」
「これくらいのダメージ、なんてことはない。ドラゴンは丈夫だからね」
「ほ、ほんとうに?」
「本当に大丈夫だ。さあ、館の方へ行こう。」シーグラムはユリアーナをそっと抱きかかえて、外へ出た。外から、館の様子を伺うつもりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます