その10 シーグラムVSハンター

 一方、その頃エルマーたちは、屋敷に向かって必死に走っていた。だが、さすがに老人の体力は限界だった。

「おじいちゃん、少し休みましょう」エルマーが足を止めてしまった時、ユリアーナは提案した。

「駄目じゃ。こうしている間にも、追っ手は距離を縮めてくる」

「けど、ルートさんが足止めしてくれているし…。」

「ふん、あんな奴どこまで信用できるか 。それに、儂の屋敷も危ないじゃろう」

「え?どうして?」

「この地下道は屋敷のところで行き止まりになっておる。このあたりからは、昔儂が作らせた道だからな」

「じゃあ、私たちどこへ行けばいいの?」

「一旦、地上へ出よう。街の郊外で身を潜ませるんだ」

「でも、そこまでの道のりで見つかってしまうんじゃない?」

「なんとか見つからない道を探しながら進む。なに、この街の地図なら頭の中に入っておるわい」子竜を抱いたままのエルマーはユリアーナを細い横道に招き入れた。そこに、地上への出入り口があるのだ。



「ボス。今の音はなんでしょうね?」教会の方向から鳴る轟音を聞いて、ダルコの手下は言った。

「あいつら、何かやらかしたな」ダルコはただならぬ事態を察知して、手下の一人に物見に行かせた。


 ダルコたちは街の広場にいた。この広場が街のほぼ中心となっているため、動きやすいのだ。ここから教会は、東南、二キロメートルにも満たない場所に位置していた。

 教会には一部の仲間を調査に行かせ、ダルコとその他の仲間たちは、もし悪魔の歌が他の場所から聞こえることがあった時のために待機していたのだ。


 教会に一人の手下をやって数分が経ったころ、広場のハンター達はとんでもないものを見た。それは、黄金の体のドラゴンが彼らの頭すれすれを飛んでいたのだ。体長は十五メートル位。威圧感を放っていた。


 そのすぐ後、先ほど物見に行かせた者と教会に行かせた内の一人がこちらに戻ってきた。教会組の者は、さきほど教会の地下で起きたことをボスに報告した。その話しを聴いたダルコは、あることを思いついた。彼は、四人の手下を子竜の捜索に差し向けたのだ。そして、残りの者たちには、「お前ら!あいつを捕まえるぞ!」

「で、でも、雇い主の依頼はいいんで?」

「子供のドラゴンより大人のドラゴンの方が高く売れるに決まってるだろ!この間狙った奴には逃げられちまったしな。いいか、野郎ども!びびんじゃねえぞ!」手下たちは怯えながらもダルコに従って、黄金のドラゴンを追いかけ始めた。


 シーグラムはハンター達の前に堂々と姿を現し、挑発するように彼らの頭すれすれを飛んだ。予想通り男達は怯えてはいたが、すぐに気力を取り戻し、シーグラムを追いかけ始めた。

「なんとか、引きつけは成功しそうだな。それに、やはり人間たちの驚いた顔を見るのはおもしろい」シーグラムは、この騒動を楽しみはじめていた。

「しかしあの大柄な男、ドラゴンにはあまり恐れをなしていないように見える。手下たちも最初は怖がっていたが、すぐに調子を取り戻したし、どこか慣れているような…。」

 シーグラムは疑問を持ちつつも、街の上空を飛び回り、ハンター達を翻弄した。ドラゴンの飛ぶスピードに人間の足は敵わないが、彼らはオートバイを用意していた。この騒動に街の住民たちが起き出して来たのか、窓を開けて街の様子を見る者が多々いた。その者たちは、シーグラムの姿を見て驚嘆の表情を浮かべ、そしてすぐにオートバイの爆音に気づき、家の中に閉じこもるのであった。


 シーグラムは先ほど、ルートを助けるために道に穴を空けた。だが、それ以上この街を壊すことはできない。ハンター達との闘争は、そこそこに行わなければならないのだ。「やりづらいな」彼は毒づいた。どこか、住宅が無い場所に誘導する必要があった。それも、エルマーの屋敷とは正反対の方角に。エルマー邸がある東側には民家がほとんど無く、林と山が広がっているが、それとは反対の方角だと百姓家がまばらにあり、田畑が広がっているのだ。正義心が厚いシーグラムにとっては、そんな場所でいざこざを起こすわけには行かなかった。


 考えながら飛んでいた時、足の付け根に何かチクッと当たった。ボウガンの矢だった。やはり彼らはハンターらしく飛び道具を持っていたのだった。シーグラムは上昇した。

「当たったのが鱗だったから良かったものの、あまり奴らの真上を飛ぶのはよくないな」

シーグラムは再び彼らに近づき、今度は矢が飛んでこない距離に飛んだ。しかし、彼らはまだ猟銃を持っていたのだ。鱗に覆われていない腹を狙われたら一たまりも無い。シーグラムはなんとか、弾丸を避けた。


 そうして滅茶苦茶に飛び回っている間に、彼は、街外れの廃墟のような所に出た。

「戦争で破壊された所か。観光地には似合わない所だが、都合がいい」

そうしてシーグラムは瓦礫のない所に降りたち、四肢を地面につけ、気を集中させた。そうしているたちにダルコ達が追いついた。彼らは、シーグラムと対峙し、手下の一人が猟銃を構えた。「いいか、腹を狙うんだぞ。外すな」ダルコはそう命令した。引き金が引かれようとしたその瞬間、地面が大きく揺れ、石畳の道は崩壊し、男達は一気に地下へと落とされた。先ほどの教会での騒ぎと同様、シーグラムが自らの力を使って、地面に穴を空けたのだ。

 男達は地下の下水道に落とされ、あくせくしていた。

「くそっ!あの野郎、妙なことしやがって!」ダルコは毒づいた。彼と何人かの手下はかろうじて起き上がり、何とか体制を立て直そうとしていた。

 シーグラムは、これなら結構な時間が稼げると思い、ルートと合流することにした。

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