その9 侵入者

 その時だった。地下の入り口の方から人の声が聞こえてきた。ルートとエルマーは気配に気づいた。

「お前さん、入り口の蓋を開け放してきただろう」

「自分の帰り道の確保と、それに、真夜中の教会なんて誰も来ないと思ったからね…。」ルートは、しまったという思いで言い訳した。

「さて、ここから逃げないとな。どうせ、真っ直ぐ進めば爺さんの屋敷に続いているんだろ?」

「儂の屋敷の地下室まで見つけておったか。目ざといやつめ。しかし、儂の財宝なぞは無いぞ」エルマーはぶっきらぼうに告げた。

「えっ。まじで?」ルートは調子外れの声で聞き返した。

「儂は、財宝なぞ築いておらんし、あまりにも噂を聞いてやってくる奴が多いんでな、それでレプリカだけを作って奴らを追い払っておるんだよ」

 ルートは、ひどくがっかりしてしまい、今の状況を忘れていた。

「おい、お前!早くここから出んか!奴らが来るぞ」エルマーはルートを一喝した。ルートは、ハッとし、すぐに廊下に出た。


 廊下は暗いため、賊には気づかれなかった。それに子竜は、今は落ち着いて静かだ。

 侵入者達は何かを探しているようだった。「さっきのは確かに子ドラゴンの鳴き声だ」「探せ!」「捕まえたらどんだけの大金が入るんだろうな」ルートには、それらの声に聞き覚えがあった。昼間のならず者たちだ。身なりや体臭からしてハンターっぽかったが、やはりそうだったかと彼は思った。


 ルート達は、明かりは点けずに廊下を進んだ。だが、進行方向からランタンの灯が見えて来た。彼らは立ち止まった。その灯りの主は、なんとユリアーナだったのだ。


「おじいちゃん!ルートさん!一体ここで何してるの!?」

「お前こそ何でここにいるんじゃ!?」

彼女は大声を出してしまった。その声に気づいた賊がこちらにやってくる足音が聞こえた。

「私、おじいちゃんが夜中に起きだすのを見てしまって、それでここへ…。」

「悪いけど、悠長に話してる暇はなさそうだ。行くぜ」ルートは二人の会話に割り込んだ。

 彼らは走り出した。追いかけてくる足音は六、七人ほどになるだろうか?子竜を抱えた老人と少女を連れて逃げきるのは難しかった。

「爺さん、奴らは俺らが足止めするから、あんたはユリアーナとボリスを連れて屋敷へ逃げろ」

「でも…。」ユリアーナが心配そうな面持ちで言った。

「ま、俺には心強い相棒がいるからな。そんなに心配するこたねえぜ。それじゃ、また後でな」

「わかった。今はそうした方がいいだろうな」そうエルマーはルートに告げ、ユリアーナ達を連れて逃げた。

「シーグ、聞こえてるか?」ルートは相棒に声をかけた。

 

 賊の明かりが見えて来た。

「さてと、シーグ。状況は大体分かったな?」

「ああ、そんなに地下道が深くないのが幸いだ。お前の位置が大体分かる」

「大体じゃ困るんだよ。俺が巻き込まれたらどうすんだ」

「自分の身くらい自分で守れるだろう?それに、合図はお前が行え」

「もちろんだ」


光は次第に近づき、賊がルートに姿に気がついた。光の主達は一斉に走り寄ってきた。その時、ルートの合図が行われた。

「今だ!」

轟音と共に地下道の天井が崩れ落ちてきた。ルートは身を引き、落ちてくるコンクリートやブロック石を避けた。賊の内の数人はその雪崩に巻き込まれた。難を逃れた何人かが、何が起きたのか理解できず、慌てふためいていた。その時、天井に開いた穴からシーグラムが顔を覗かせた。賊は、「ド、ドラゴンだ!」と恐れ慄いた。

「よお、お前らの探し物はこいつか?」ルートは差し込んで来た月明かりに身をさらしながら言った。その指している方向はシーグラムだった。

賊の一人がルートの姿に気がついた。「お、お前、昼間の奴か。一体どうなってやがる」男達はやはり状況が飲み込めないようだった。

「お前達、ここにいた子ドラゴンを狙ってきたんだろう?俺はその居場所を知ってるぜ」

「やっぱボスの言ってたことは本当だったんだ!」「おいお前、おとなしく子ドラゴンを渡しな」

「お前らさ、そんなこと言ってられる立場か?」ルートはシーグラムを指しながら言った。「こいつは俺の仲間だ」男達は怯んだ。

「ま、いいや。それじゃ、俺たちを捕まえられたら、お望みのものは渡してやるよ」

「それじゃ、遠慮なく…。」男達はジリジリとルートに近寄り、飛びかかった。だが、それは空振りに終わった。シーグラムがルートを引き上げたのだ。

 シーグラムはそのまま飛び上がった。

「ナイス、シーグ!」

「言ってる場合か。奴らの別働隊が地上にいるぞ。」

「あ〜。ボスとその取り巻きか。何人くらいだ?」

「十五人いたな」

「さっき地下にいた奴らは全部で六人。半分が下敷きで、残り半分が無事だった。合流するかな?」

「さあな。私の存在が知られた以上、合流するかもしれないな」

「十五人のハンターって、相手にできるか?」

「数としては少ない方だが、奴らの武器によるな。まあ、私が引きつけといてやる。それで、エルマー達はどこへ行った?」

「屋敷の方向へ地下道を進んで行った」

「そうか、無事に辿り着いているといいがな。さて、敵を引きつけるのに泥を被っていてはいけないな」そう言ってシーグラムは体の泥をふるい落とした。彼の黄金の体は夜でも目立つため、泥を体中に塗りたくってきたのだ。

「おい、俺にも泥がかかってるだろ!」

「我慢しろ、その内に落ちるさ」ルートは文句を垂れながら、近くの民家の屋根に降ろされた。「それじゃ、俺はエルマー達を追いかける。しっかりやれよ、シーグ」

「言われなくてもやるさ」

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