その3 次のターゲットへ向かって
翌日、ドルシェム国方面へ通じている街道脇の低い山を二人は進んでいた。ルートの横では、シーグラムが彼に合わせてゆっくり飛んでいた。
「ふむ、ドラゴンの水晶を持っている人間か。気にはなるが、デマという可能性の方が高いだろうな」シーグラムは言った。
「いやに確信的な言い方だな。なんか根拠でもあるのか?」
「我々の額の水晶というのは、脳の一部のような物だ。傷がついたり、割れたりしたら激痛に襲われる上に、そのまま死に至ることもある。だから我々は、この額を一番に守るのだ。もし、その老人とドラゴンがどれだけ仲良くなっていたとしても、この額の水晶をくれてやるというのは考えづらい。だが、無理やり奪い取ったんなら話しは別だがな」
「なるほどな、いくら仲が良くったって、死ぬかもしれないことはやらないだろうし、奪い取るにしても、ドラゴンは額を一番に守るから、人間が手にするのは難しいってことか。でも、大勢で束になってかかれば体の一部くらい取れるかもしれないぜ」
「それを私の前で言うか」シーグラムは軽く睨んだ。
「あー、悪かったって。可能性の話しだ」ルートは弁解した。
「まあ、ドラゴンの水晶ってのはあまり期待しないで行くよ。お宝はたくさんあるみたいだしな」
「しかし、今まで誰も盗み出せたことがないのだろう?一体どんな作戦でいくのだ?」
「うーん…。多分屋敷にはなにかしらの仕掛けがあるんだろうし、屋敷の主も一筋縄ではいかないってことだからな。エルマーの本を読んで憧れた純真無垢な学生っていう体(てい)で近づくのはどうだ?歴史学とか民俗学あたりだったらいけそうだし。あ、同じ冒険家だって言うのもいいな。そっちの方が色々話しを合わせられそうだ」ルートは嬉々として計画を練りだした。
「お前が純粋な若者を演じる?ハハッ。百戦錬磨の老人にはすぐにバレるんじゃないのか?」シーグラムは思わず笑ってしまった。
「お前な、俺が演技してるとこを実際に見たことないんだから、そんなことが言えるんだよ。見てろよ、見事に偏屈老人からお宝を盗み出してやるぜ」ルートは息巻いた。
「それじゃ、俺はそろそろ街道に戻るぜ。ティツ周辺に着いたら教えろよ」
「ああ。いい隠れ家を見つけておくさ」
そうして二人は後の合流を約束して、一旦別れた。
西へ二十リーグ、平地の続く街道を行くと、ドルシェム国東南に位置する入り口に着く。目指すティツの街は国の西方に位置しており、ルートが到着予定の所からさらに国の中を十リーグほど移動する必要がある。
シーグラムに乗せてもらえば楽に着くのだが、ドラゴンの鱗というのは非常に硬く、鮫肌のようになっている。そのため、人間がそのまま乗るとその身を傷つけてしまうだけでなく、衣服までぼろぼろになってしまう。だから、そのために鞍が必要なのだが、ルート達はそんな物もってはいない。ドラゴン用の鞍というのは、丈夫な革を何層にも重ねて作るため高級品な上に、ドラゴンが姿を消した今のご時世、そんなものを作る職人はいない。何より、シーグラムが身につけるのを嫌がるのだ。だから、ルートはいつも徒歩移動をしている。
ルートは徒歩移動と汽車移動を繰り返し、四日ほどかけてティツの街に着いた。この街は首都から離れてはいるが、瀟洒な石造りの街並みと落ち着いた気候、そして食べ物の美味さによって旅行客から人気がある。また、有名な教会と古城もあり、観光名所としても知られている。
ルートはまず、エルマーの屋敷に向かうことにした。訪問の名目は、自分も冒険家として活動しており、大冒険家であるエルマー翁の話しをぜひ聴いてみたい。そして、できれば旅の中で得た物も見てみたい、という体でいくことにした。ルート達はあちこちを旅して回っているわけだし、あながち冒険家というのは間違いではない。あとは、純粋で熱心な若者を演じるのみだ。偏屈な老人、ということがルートの心を少し不安にさせたが、今までの経験が彼に自信をつけさせていた。
なにより、彼の特技の一つは口の達者なことだ。長い間、人々を騙くらかしてきたおかげで口は上手くなったし、とっさの機転の良さも身についた。今回もなんとかなるだろうの精神で、ルートは行くことにした。
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