第22話 パターンマッチング

エアライドが加速を始める。

トモキは前席で手動運転に集中している。

「目標ポイントのデータ、来たっ!」

後席の みぃ がスマホの情報を伝える。

座標が音声で入力されるとエアライドはさらに加速して都会の上空を疾走していく。

「あと2分で到着!」

トモキは手動操縦レバーを握りしめる。

<住宅地のため飛行禁止>

警報が来た。

予定どおり警報と自動航行をオフにする。

見えた!

古い低層の住宅街だ。

「あと10秒くらいで着くはずなんだけど」

みぃ が後ろでスマホを確認している。

「その、テンペストってのは、本当に使えるの?」

トモキが不安を紛らせるように大声で聞く。

「大丈夫だって。ほら運転集中して!」

なんとか事前に確認していた空き地に、無理矢理機体を停めることができた。

古い住宅街は人の気配が少ない。

早朝ということもあるが、都心に人口移動した結果、廃墟のようになっているのだろう。

二人は目標に向かって走り出す。


音無は早朝のDEAオフィスにいた。

「おはようございます」

眼鏡の女性が笑顔で挨拶をしてきた。

無難に返事を返しながら、音無は自分専用の分析デスクに急ぐ。

時間がない。

オフィスの中央には円柱状のモニタにいくつもの映像が流れている。現在発生している事件性のある事象を表したものだ。

あの廃ビルの消滅事件もそこに表示されている。

担当官に割り振られて、それぞれの事象について調査が行われるのだ。

「コーヒーでもお持ちしましょうか?」

さきほどの女性が話しかけてくる。

自分は、相当ひどい顔をしているのだろうな、と自答する。

徹夜で分析業務を行っていたような顔をしているのだろう。

たしかにあまり昨夜は寝ていない。

分析をしていたのも事実だが、それはこのオフィスではなく、目的も業務では無い。

忙しそうなDEAメンバーの様子を見て、申し訳ない気持ちになる。

誰もが寝不足気味だ。

だが、今は割り切ってやるしかない。

音無はモニターの前に座るとものすごい勢いで検索作業を始めた。


カスミは音無のマンションで状況把握と分析を行っていた。

 スクワッター:機能停止中

 サクラさん:応答無し

 報道発表:廃ビル破壊の追加情報なし

音無からのメッセージが入った。下のオフィスからのものだ。

 ユウ:検索結果ヒットなし

 レイ:検索結果ヒットなし

 廃ビル:被害者ゼロ

 カラス:不審者数名を逮捕拘留中

 たろう:検索結果ヒットなし

状況が徐々に判明してきた。

カラスたちを守っていたヨモツオオカミは機能を停止しているらしい。

逮捕者が出始めているのがその証拠だ。

ネット上で彼らを守っていたAIの庇護がなくなり、丸見えになってきている。

そして、なぜか ユウ と たろう の目撃情報がない。

おそらく たろう の中のヨモツオオカミの機能を自分のためだけに使って、ユウ がネット上から隠れているのだろう。

「あのデバイスマニアが、たろう を手放す筈がない。」

トモキが主張していたとおりだ。

ユウは たろう を盗んで逃亡中らしい。

そして、ヨモツオオカミと同じく たろう の中に存在するAIの、サクラさんが応答しないということは、ユウ は用心深くスマホなどを持っていないということだ。

半径3メートル程度にスマホがない環境にいるという仮説が成り立つ。

そんな場所が今の日本にあるのか?という疑問もある。よほどの山の中や森林の奥だろうか?

だがこれ以上はデータが増えない。

世界中の監視カメラをチェックすれば頭上にカメのロボットを浮遊させた、拗ねた感じの細身で黒づくめの若者なんてすぐ見つかるはずだ。

やはり、追加プランが必要だ。

音無から追加で情報が来た。座標だ。

カスミはそれを みぃ に送った。


「住所はここだけど・・・」

トモキは唖然としている。

どうみても目標の住居は廃墟だった。

何十年も前の木造2階建て住宅は、手入れをする人もいないのだろう、すっかり朽ちてドアや壁にも所々、穴があいている。

みぃ は裏に回って電気メーターをチェックする。やはりそうだ。

「ここであってる。行こう。」

何度か声をかけたが応答がない。

みぃ が先頭でドアをあける。

玄関にはよく見ると足跡があった。

靴をはいたままリビングに進む。

そこに目的の人物がいた。

男が怪訝そうにこちらを見ている。

ガムをくちゃくちゃ噛みながら面倒くさそうに鼻をならす。

「なに?ドロボーあんたら?警察呼ぶよ?」

暗い声で抑揚のない声だ。

みぃ がわざとらしい明るい声で話しかける。

「急にお邪魔してすいません!おめでとうございます!カスミちゃんを探せの当選者に選ばれました~」

とにかく笑顔で一気に押し切る!

みぃ は開き直っている。

目の前の男が、昨日、ビルの23階を通報してきた本人であるのは音無のDEAでの調査で間違いない。問題はその通報をするために使っていた何かの機材だ。

「あぁ?あー、んんんぁ!?」

下を向いて男がつぶやく。

歓びなのか不審を咎めているのかさっぱりわからない口調だ。

トモキは偽の取材のためにビデオカメラをのぞき込むフリをしている。

部屋の色々な方向を撮影する。

なにか不審な機材があるはずなのだ。

錆びたような饐えたようなニオイが部屋に充満している。

足元はゴミだらけで全く掃除をしている様子はない。

(もう、無理。まじで吐きそう!)

「・・・で、カスミちゃんはどこよ?」

男がガムを吐き出して立ち上がる。

2メートル近くあるだろうか。

巨体に二人は圧倒される。

みぃ がスマホの画面を見せる。 

昨晩、サクラさんが即席で作成してくれた偽のイベントサイトだ。

「ご確認なんですけど。えっと。」

男が急に みぃ の手首を掴んだ。

「ごちゃごちゃ言ってないで、カスミちゃんどこよ?表にいるの?」

スマホ型スタンガンの最大電圧の音が一瞬鳴り響いた。

トモキは床に崩れ落ちた大男を見て、カメラを回すのをやめた。

やっぱりこうなった。

「まじ無理だって。キッツい。こいつ握ったよ。私の手首!」

みぃ がもう一度床の男にスタンガンを発射する。

トモキは自分の体験を思い出して、少しだけ男に同情した。

これ、結構後に残るんだよな。ダメージが。

となりのキッチンに二人は進んだ。

床をみると隅にある床下収納の蓋あたりにはゴミがないようだ。

「電気メーターからすると大型の電気機材がこの下にあるはずなんだけど」

みぃ が分析結果を告げて、トモキに向かって顎を突き出す。

(開けろってことデスね。ハイハイ)

トモキは泣きたいような気持ちで、ベタベタの床板の蓋を持ち上げる。

開いた。

地下に階段はしごが降りている。

みぃ が頷いて、白いフチの眼鏡を渡す。

暗視装置だ。

トモキはしぶしぶ受け取る。

(行けってことデスね。ハイハイ)

地下は結構広いスペースになっていた。

上のフロアとまったく異なり、整然と機械類が棚に並べられている。

一番奥のパソコンにあたりをつけてトモキはチェックした。

起動しているパソコンにはパスワードはかかっていない。

画面をスマホの動画で撮影しながら、それを音無に送る。

すぐに回答がきた。

特定のウェブサイトのアドレスと、”捜査協力依頼”という手順書が書かれている。

トモキは指示通り、目の前のPCからサイトにアクセスする。

<勝手にさわると罪になるからそれ以上はなにもしないでおいて下さい。こちらから遠隔で操作します。>

捜査用の特定のサイトなのだろう。

DEAの担当者が向こう側で内容を分析して対応してくれているようだ。

特にすることもないので上にあがる。

みぃ がいない。

隣の部屋にいくと、みぃ が倒れた男のスマホを勝手に取り出して、テンペストでコピーしていた。

「あんまり、それやり過ぎるとマズいんじゃないの?」

トモキは銀のブレスレットを見つめながら、コメントする。

みぃ がきっとした目つきでトモキに反論する。

「カスミちゃんの個人情報をいっぱいもっているんだよ。コイツ。違法に決まっている。全部、音無さんに言って捜査してもらうの。証拠収集よ。」

勝手な言い訳をしながらコピーを終える。

「行きましょう。ここなんかクサイ。」

最後にもう一度スタンガンを使おうとする みぃ をなんとか止めさせて、大急ぎでエアライドで飛び立ち、次の目標地点に向かった。


音無がコーヒーを眼鏡の女性に差し入れた。「さっきはありがとう。眠気が吹っ飛んだよ。」

女性が驚きながらお礼を言う。

数年間一緒に仕事をしていて音無から礼を言われた記憶はなかった。

「これ、さっき見つけた違法情報なんだけど、分析してみてくれないかな?」

音無が渡してくれた情報は貴重な捜査情報だった。

「これ、盗撮用のIotマルウェアですね?今、問題になっている。」

中央の円柱形大型モニタにも有名人や、政府高官などの私的画像流出のニュース映像が映っている。

これがあれば一気に捜査が進む。分析官としてはまさに大手柄だ。

「ああ、君なら分析できるだろう。そろそろそういうレベルの仕事もやっていくべきだと思うよ。」

上司から褒められて女性は照れる。

「その代わり、なにをすればいいんですか?私は?」

さすがに飲み込みが早い。

「ひとつは簡単だ。この男を、今の映像マルウェアで検索してほしい。こういった仕組みは今後DEAでも必要になるだろうから、その練習にもなる。この男は犯罪者との証言があるから捜査の一環として実施できる。」

音無が提示した ユウ の属性を、女性はテキパキと設定していく。

外見的特徴を分類して入力する。

色、大きさ、印象、そして動作の癖。

「入力できました。いつでも検索開始が可能です。数分で結論が出るはずです。」

音無は頷いて話しを続ける。

「その検索結果はあとで、私のスマホにでも連絡してくれないか。それとこれは聞かなかったことにしてくれていいが、1分だけここを離れてコーヒーのおかわりを持ってきてくれるというのはどうかな?」

女性は急にわざとらしく疲れたように背伸びをして、席を立った。

コーヒーを片手にもって音無に軽く頷きながら向こうに行ってしまう。

1分後にコーヒーを2つ持ってきた女性の席には音無はいなかった。

モニタに映像マルウェアの検索結果が表示されている。

キーワードには、男性のものと思われる、身長や体重などの外見的特徴、年齢や学歴そして”紅茶好き””イヤリング”などの不思議なキーワードが並んでいた。


音無はマンションに急いで帰宅した。

DEAには休暇を申請した。

やらなければいけないことがあるのだ。

「ありがとう。いくつか情報が入ったよ。」

カスミは無言でうなづく。

音無のスマホに連絡が入る。

部下からのものらしい。

意外な結果に音無は戸惑っている。

「Iot監視カメラに仕込まれた映像分析マルウェアの検索結果はゼロだった。本人の特徴や動作などで何回も検索してみたんだが、ユウは画像に写っていないらしい。」

カスミは、考えを整理する。

サクラさんとは未だに通信できないことから、ユウは未だにスマホが半径3メートルに無い場所にいるのだろう。

そしてその場所には監視カメラが装備されていないようだ。

検索で条件に合致するエリアを表示する。

すぐ結論は出た。

該当する場所は大きく分けて2つある。

まずひとつめは、都心の旧街区の地下エリアで監視カメラもないような見捨てられた場所。そしてもうひとつは日本国内に100カ所ほどあるようだが、いずれもここから800km以上離れた山間部ばかりだ。

「都心にいるのならば、どこか地下にでも潜っているはずだ。監視カメラにも写らないし、コンクリートに囲まれていれば、スマホも使えない場所は沢山あるだろう。だけどそんな場所に長くはいられない。問題はそこからの脱出時の経路だ。」

音無は都心の交通網のマップを表示する。

「移動するにしても公共交通機関にはすべてカメラが義務化されている。乗客だっていくらでもスマホを持っている。その時点で監視カメラのマルウェアでの検索で捕捉されるだろうし、たろう との通信も回復してアメノサクラヒメが応答してくれるはずだ。しかしどちらの動きもない。ということは、もう何かの手段で脱出している可能性の方が高い。」

音無の結論にカスミも同意する。

公共交通というキーワードでなにかひらめいた。疑問に思っていたことを口にする。

「そういえば、あのエアライドはどこから持ってきたんですか?」

「あれは、アメノサクラヒメが手配してくれた・・・」

音無は、はっと気づく。

3つめの該当する場所があった!

特殊な乗り物の中にもうすでにいるとすれば話は簡単だ。

公共交通機関だが準備段階のため監視カメラは義務づけられていない。

空中移動中は周り3メートルに誰もいない。

条件通りの乗り物があった。

カスミが答えを口にする。

「エアライドですね。」

「ああ、そうだ。おそらく、すでに乗って移動中だと思う。廃ビルに接近する私たちのエアライドの映像を ユウ はきっと見たはずだ。その存在を知って盗み出したんだろう。誘導すれば地下からすぐの場所まで持ってくることも可能だ。」

音無は ユウ の行動を予想してみる。

たろう に内蔵されているヨモツオオカミの機能なら、昨日、こちらでアメノサクラヒメがやったように、エアライドを1台拝借することは容易なはずだ。

そして脱出用の乗り物を地下出口の近くまで自動的に到着させて乗り込む。それで逃げればいい。

犯罪者が捜査機関に見つからないように逃亡するには最適な方法だ。

「たろう を持って搭乗すれば、自動航行システムをオフにしておいても、自前でナビゲーションと手動操縦が可能になる。どこでも好きな場所に脱出可能だ。おそらく犯罪者が逃亡先によく選ぶ外国だろう。管制塔からの制御を拒否するために機体の通信機能は全部遮断しているはずだ。」

問題はそこだ。

自由に大空を滑空できる新交通システムをどうやって探す?

しかもこのAIが使えない状況で。

音無は答えにつまってしまう。

カスミが素早く何かを検索している。

「これです。ここを見て下さい。」

カスミが企業の広報IRページを指し示す。

エアライドの実験会社のサイトだ。

「15台の実証実験中?」

音無が怪訝そうにカスミをみる。

15台もあればなおさらどこにあるのか特定など出来ない。

しかも予定の時間まで、あと3時間もないのだ。ユウが奪ったエアライドは今も、監視ができないエリアに向かって航行しているはずだ。

「もっと下です。ほらここ!」

カスミが示す表示欄には特におかしなところはない。

少しカスミの顔が赤く上気している。

「わかりませんか?株主の表示名をみてください。一番の大株主が”サイレント・ワン”になっていて・・・クリックすると・・・ほらこの株主企業の住所!」

やっとわかった。

音無はあんぐりと口をあけてしまう。

「このマンションの住所が本社所在地になってます!あとサイレント・ワンって音無一郎さんってことですよ。きっと」

ということは。

「そうです。サクラさんが気を利かせてそういう風にしておいたんですよ。一瞬で。」

で、どうすれば?

カスミは壁のモニタに記載されている皆の決定事項のひとつである”なんでもやる”を指し示した。

「今から緊急株主総会を開催します。ネット上で。その議案に盛り込めばいいんですよ。簡単です。」

てきぱきと会議召集の操作を開始しはじめたカスミを見ながら音無は黙って、よろしくといわんばかりに頭を下げた。

まったく彼女たちにはかなわない。


「次の目標、来た!新しい運行規則に違反しているエアライドを追え?なにこれ?」

みぃ は不思議そうにスマホのメッセージを読み上げる。

音無から音声で補足説明が流れてきた。

「ユウはおそらく、別のエアライドのマシンで逃亡中の可能性が高い。逆探知をおそれてスマホもオフにしているようだ。そのため、たろうとの通信ができないので、結果としてアメノサクラヒメからの反応がないと思われる。」

音無が冷静に説明して更に続ける。

「カスミちゃんがすごいことを思いついてくれた。いまから1分前に、ネット上の会議で決議が行われて、エアライドの運営会社の方針が変更になった。環境に配慮して、2名未満の乗員時には自動的に、乗りたい乗客を1名相乗りさせなくてはいけないというルールだ。よくある海外の交通規制のルールとおなじようなものだ。君たちの乗っているマシンも含めてすでに運行プログラムが書き換わっている。」

カスミが思いついた作戦は次のようなものだ。積載重量100kg未満の場合、運行エネルギーの節約と更なる効率化のために、相乗りが強制される。一方で相乗りを希望する者は、スマホの専用アプリで搭乗希望場所を入力すれば最寄りのマシンが強制的にその場所に着陸して相乗り客を拾う仕組みだという。

「エアライド運営会社のAIが優秀で、さっっそく環境相乗りアプリを作成してくれたの。すごいねAIって。」

カスミの嬉しそうな声が聞こえる。

みぃ もマシンの中で嬉しそうにその声を聞いていた。

(カスミちゃんのほうがスゴい!)

どうやって、そんなことをやってのけたのか検討もつかないが、カスミの知恵に感嘆するしかない。

「君たちのマシンは100kg以上の積載だから大丈夫だ。ユウはおそらく自分ひとりと、たろう だけで逃亡中のはずだ。細身の男性ということだから重量制限以下になって強制的に相乗りになる。相乗りになれば一般の方はスマホを持っているはずだから、たろう が中継してくれてアメノサクラヒメが反応するというわけだ。」

トモキは疑問に思って問いかける。

「でも、音無さん。一般の方をユウと一緒に乗せるのは危ないですよ。そもそも乗りたい人が居ない場合はどうするんですか?」

答えがすぐに返ってくる。

「乗りたい人がいないことを想定して、その場合は速度を時速60キロメートル以下のエコ運転しかできないようにしてある。ノロノロ運転だ。そこで、君たちが、乗りたい人に偽装して先回りをするんだ。高速飛行で先回りして強制的に着陸させるしかない。それが一番効率的な方法だよ。」

トモキは納得して、エアライドの航行ナビを見つめる。確かに表示が変わっている。

赤い点が、着陸すると緑の点に変わる。

相乗りを完了して飛び立ったのだろう。

都心部では早速相乗りの希望者が出始めているようだ。

トモキは心の中で、これは環境にいいアイディアだと、妙な感心をしていた。

しかし、そういう都心部での利用ではなく、長距離移動や人口過疎地域への移動などの特殊な使い方をしていれば人が少ないルートを通るため相乗り者が手をあげない状態がつづく可能性が高い。

いつまでも赤い点のままの機体があるはずだ。

あった。

赤い点が、都心から太平洋に向かって低速で移動している。都心に向かう流れと逆行しているためか、相乗り希望者がいないようだ。

「この距離なら最高速を出せば洋上に出る前に追いつける。10分もかからない。」

トモキが慣れた感じで手動操作を行う。

ゲームなら自信がある。

しかもエアライドの運転ならばゲームよりも簡単だ。

急上昇する機体の中で、みぃ がカスミに伝える。

「カスミちゃん、アプリの登録をお願いね!相乗り希望者は私にしておいて。大丈夫、まかしといて!折角の良いアイディアを無駄にしないからね!!」


千葉県の外房の手前の森林山間部で、ユウの乗っていたエアライドは強制着陸となった。

イライラしながら待っていると、相乗り者の女子高校生があいさつをしながらドアハッチを開けてきた。

「こんにちはー。ごめんなさい。彼氏と外房で待ち合わせなんです~。」

(こいつは、洋上でX国の輸送船に乗り換えてから処分すればいい)

ユウは物騒な考えを隠しながら、丁寧に笑顔で挨拶を返す。

「ああ、そうなんだ。大丈夫ですよ。特に急いでないんで、どうぞ、乗って下さい。狭いですけど」

突然、カメ型ロボットが大きな声を出した。

「そうやで。トモッキーこいつで間違いないわ~。悪い奴やねん。カスミちゃんにきついことしよってからに。」

はっとする間もなく高圧電流がユウを昏睡させる。

みぃ が敵討ちといわんばかりにスマホケース型のスタンガンをもう一発お見舞いする。

「まあ、ええんちゃうかな~。そんぐらいされても仕方ないわ。この悪いニイチャンは。」

たろう がふわふわと みぃ に近寄ってくる。「おひさしぶりですぅ~。みぃちゃん元気そうやね。相変わらず。」

みぃ は思わず吹き出す。

みぃ と たろう が機体の外に出てくると、トモキが嬉しそうに待っていた。

「トモッキー!元気やった?こっちはえらい目にあったわ~。分解されそうになったんよ。まったくアホやで。この悪いニイチャン。」

どうもユウと長く一緒に居たせいで多少ガラが悪くなったようだ。

「トモッキー、あのイヤリングある?あれがあると状況把握がしやすいんやけど。」

みぃ があわてて借りていたイヤリングをトモキに投げてよこす。

トモキが音無から借用しているスマホのデータや履歴を自動解析しているようだ。

「なるほど、おもしろい罠で、悪人を捕まえた訳やね。でもこれはトモッキーよりもっと頭のエエひとが考えたんちゃう?」

むかつくがその通りだ。

簡単に経緯を説明する。

「じゃあ、こうしましょ。こっちのマシンは悪いニイチャンを乗っけてそのまま警察に直行!こっちのマシンで音無さんのマンションに急行して、ボクとサクラさんとで、レイさんの居場所を突き止める、ということでどう?大株主さん?」

たろう の問いかけはエアライドの通信機能を経由して音無とカスミに聞こえていた。

「もちろん賛成だ。どうですか秘書の方?」

多少悪乗りしている音無に、カスミの声が加わる。

「たろう さんの考えに賛成します!皆に会いたいのですぐ来て下さい。お待ちしています。」










 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る