第19話 タイムスタンプ
◇◇年11月1日02時13分UTC
メモ:超微細振動の利用方法
文責:雨宮桜 主任研究員
通常の情報通信と同じく、まずは2者間で通信リンクを確立する。
その確立のためには秘密鍵を使う必要があるが、超微細振動の場合はIPネットワークと違って、本人の固有の振動を利用する必要がある。例えば個々人の固有の生体振動もあるが、それだと一般的にはなかなか一意に識別できない。いわゆるノイズの見分けがつきにくい、ということだ。
静かな状態での振動と、電車に乗っている時の振動は同じ人でも異なる。
そこで一般的な解決方法としては、つぎの方法を推奨する。
声帯を用いた振動の状態をユニークキーとして設定する。
つまりは”鼻歌”などが望ましい手段と言える。
ただしこれだけでは充分とは言えない。
周波数は正しいとしても、それが本人が認証しているかどうかが不明確だからである。
本人が望まぬ形での振動情報の窃取がリスクとして考えられる。
さらに同じような鼻腔の構成をもつもの、たとえば近親者や双子などの場合は結果としてかなりの類似性が認められている。
そういった点を鑑みると、さらに別のユニークキーを組み合わせておくことが望ましいと思われる。
つまりは、さきほど述べた”鼻歌”においても、個人だけが利用しやすく、また受信側も識別しやすい別の要素で構成されるユニークキーを含むことが望ましい。
これは現実的には簡単な方法で実装が可能となる。
すなわち”リズムをつけた鼻歌”を用いればいいのである。
◇◇年12月3日03時37分UTC
メモ:超微細振動の弱点と特徴
文責:雨宮桜 主任研究員
振動を用いることから、セッションを長時間維持することはできない。
静かな環境であれば、最初にセッションを確立した際の声帯の振動数等をキーにして継続的に、かつ比較的長時間のセッションが確立できる。
この際に、不要なノイズを除外することでより、その通信品質は高められる。
実験では直接2名のものが手を繋いだ状態で、テキストを振動に変換する方法で、200ページほどの1冊の書籍の情報を1分以内に送信し受信できたことを確認し記録。
このときに利用した機器は、プロトタイプのため大型のタブレット程度のものであったが、機能の改善は容易であり、すぐにでも腕時計形やリング型などのウェアラブル機器で活用することができると想定されている。
一番の特徴としては、上記の実験時の静謐性である。伝送機器がすべて処理をしているため、タブレットの動作音がほとんどないこととあわせて、全く音は生じないと言えるレベルにあった。
また被験者2名も手を繋いでいるだけであり、1名が受信時の暗号鍵を送るために”リズムのある鼻歌”を一度歌うだけで、あとは全くの無音であった。そのため、超微細振動技術は、盗聴や盗撮に極めて強いと思われる。高精細のカメラであっても、手を繋いではいるが、特に指などを動かして意思を伝えている訳ではないことが画像分析で分かる程度である。つまり画像分析では盗撮をしても無意味といえる。次に指向性の高性能マイクによる録音では、先に述べたとおり、無意味なわずかなノイズしか記録されておらず、仮にそれを情報を含むと仮定してAIによる分析を数時間行ったが、結果として意味のある情報を復元することは出来なかった。つまり盗聴リスクはほとんどないと言える。
一方で上記の実験とはことなる環境では、残念ながら結果が大きくことなる。単純に2点間を空気振動だけで接続しようとすると、大気中の無数のノイズと秘密鍵の音声が混在して、通信の確立すらできないことがわかった。改善の実験を別途行い検証したい。
◇◇年12月19日14時54分UTC
メモ:改善実験の結果および訂正
文責:雨宮桜 主任研究員
超微細動通信の有効距離が極めて短いことが実用化に向けて障壁となる。ここではその有効距離を拡大するための検証を行った。
上記の目的のため、パラボラアンテナのような巨大で高出力の送信機と受信機を水平方向に対向させ、その条件下で1キロメートルの間隔をあけたままで通信をすることを試したところ、これは成功となったものの、結果として音としても聞こえてしまうことが実証された。振動幅が微細ではなくなった結果として簡単に中間での録音や分析が可能となった。つまりは大声で話をしているのと大差ない状況となってしまうため、この対策では改善策にはならないことが分かった。
現状では、次のアイディアを実現化しようとしているが、実際のマテリアルをどのようにすべきか、またどのように具現化すべきかが課題となっている。
次期改善案
近接通信よりも遠くへの通信をどのように確立すべきかという問題については次のような解決方法がある。
発信元をAとし、受信者をBとする場合、AとBの距離が概ね3メートル以下の場合(※条件1)正常に超微細動通信が可能となる。
よってこのBから次の受信者を3メートル以内に配置すれば、結果として彼ら被験者自身の振動を暗号鍵としての通信確立と復号化が可能となる。この場合、被験者の振動としてユニークキーとして利用できるものに”ハートビート”つまり心臓の鼓動が想定される。不随意筋としての心臓の拍動は人為的に改変できるものではなく、3メートル以下の距離であれば、その固有の拍動リズムをユニークキーとして利用できることが実験の結果分かっている。
そのため被験者C,D,E,F・・・Zと連続してアドホック通信を行うことは技術的に可能であるが、ここで次の問題としてどのように拍動を拾って暗号鍵にするかということに注目せざるを得ない。
医療機器のように身体に密着してハートビートの音声を収集するデバイスでは、まず装着自体が非日常的であり、かつ不定期に利用することが難しいという問題がある。
想定される場面において、まずデバイスをその都度、通信のために装着することは、その機密性を目的とした利用状況にとっては全く現実的ではないため、そのデバイスは利用者に密着させるのではなく別の代替デバイスが仲立ちをする方式が望ましい。
具体的には半径3メートルの球体の中心に位置するデバイスであり、高い集音能力と分析能力を有する自立的な機能を実装することが有望なアイディアである。
日常的なプライベートを確保できる生活空間であれば、半径3メートルの球体の内側にはおおよそ10名程度の人間が存在することから1つの中継デバイスにより同時に10名が相互に高速通信を行うことができる。
さらにその状況においては、10名の固有の振動を暗号鍵として認知しているため、極めて高い指向性のマイクおよびスピーカー機能を同時に実装できる。
これは10名のものにとっては、雑踏の中であろうと、ある程度のノイズがある環境でも、きわめてクリアに何をいっているか聞こえるという環境を作り出すことができる。
代替デバイスにより、結果として利用者は、まったく特殊なデバイスを装着することなく、しかも音声で聞くという慣れた方法で情報を受信することができる。
また同時に代替デバイスに高い指向性のマイクを実装し、先ほどと同じく拍動による暗号鍵を利用することで、特徴的な通信が可能となる。
代替デバイスの中継により、利用者は受信者からの返信としての音声を受け取ることができる。
これは送信者としての利用者からすると雑音のある場所でも、小さい声でつぶやく程度の音量で発言すれば10名に同時に意思を伝えることが出来ることを意味する。
他人からは全く聞こえないように同時に話ができる環境を作り出すことができるため、極めて秘密裏に会話を実施できる。
その意味では代替デバイスは、利用者にとっては「ノンデバイスエンハンサー」としての効用があることから必須のデバイスと言えるだろう。
なお音声での情報交換が難しい場合には、さらなる代替手段として、小型モニターによる映像や文字の利用が望ましい。
※注記1
地球上の大気圧下においては約3メートル
火星上においては約1キロメートル
(0.01気圧換算)
その他の要検討事項
ノンデバイスエンハンサーの効能については前述したとおりであるが、その実用にあたっては各種の課題が残存している。
まず日常において利用を図る場合、当該デバイスは空中に浮遊し、かつ静謐な状態を保つことが必須となる。その意味では、これまでの車型の地上走行デバイスや、空中静止ができるがノイズが多すぎるドローン型の飛行デバイスは適さない。よって前述のような要件を満たすための特別な動力源と運用ノウハウを開発もしくは先行技術の転用を行わなくてはならない。
またさらに本デバイスは基本的に独立的に機動できることが必須である。
理由は2つあり、まずそもそもこのデバイスが超微細振動のための専用のものであり、通常の音声や電気通信と混在させてしまうと、その秘匿性が著しく落ちてしまうことがある。
もうひとつの理由としては、ひとつ目の理由と同源であるが、昨今のIotデバイスのようなネットおよびサーバに依存した構成にできないことから、そのデバイス自身がIotデバイスと比べて、非常にインテリジェント化されて、まったく周囲からの支援がなくても活動を継続できなければならない。
具体的には1ヶ月以上の継続した活動ができるだけのエネルギーを内蔵して利用できること。しかも安全にかつ心理的負担が少ない外観であることが望ましいため必然的に小型化が必須となる。またその内部の演算機能としては昨今のAI(※注記2)程度の能力を内蔵して活用できることが必須である。この条件を満たすCPUなども記憶装置も現存していないため先端技術からの転用が必須となると思われる。
※注記2
AIとして想定しているもの
・エウロパ(EU)主に個人情報監視と削除検閲
・アレース(米国)火星までの星間航行自動制御
・J-BG(日本)ビッグデータの商用情報提供
〇〇年2月12日06時15分JST
メモ:実験委託先
文責:雨宮桜 主任研究員
アレースからの承認を受けて音無一郎氏に本実験の委託を行う。
ノンデバイスエンハンサーの1号機についてアレース定期便によりデータ配送を実施し現地接続済み。受領確認あり。順調。
プロシージャ0起動済み。
以降の記録は現地側での自動記録とする。
〇〇年2月17日23時45分JST
メモ:成長経過
文責:雨宮桜 主任研究員→自動記録
プロシージャ0における追加項目
行動原理の補足入力あり
ファイナンス理論へのリンク確認
省略表示
(同様の補足入力が197件あり)
〇〇年3月12日22時19分JST
メモ:成長経過
文責:雨宮桜 主任研究員→自動記録
メインとなる補足入力を確立
プロシージャ0に加えたAI機能の拡大。
プロシージャ1に向けた動作に移る。
省略表示
(補足事項が19万7865件あり)
〇〇年4月19日15時23分JST
メモ:成長経過
文責:雨宮桜 主任研究員→自動記録
プロシージャ1を起動。
AI成長過程の第2段階に移行。
<面倒だと思いますが、ご質問への回答には、雨宮桜さんのプロフィールおよび実験メモの概要を読んでいただくことが必須と判断しました。補足させていただきますので更にご質問をお願いします>
カスミがもう分かっているという口調で改めて尋ねる。
「その”ノンデバイスエンハンサー”というのに私たちは影されていますか?そしてその中にはなにがあるの?」
<はい。カメ型ロボットの たろう という名称であたなたちと接触し活動しています。次に、その中には、すべての地球上の過去の学術論文および文学書籍等のデータが格納されており、さらにそれを活用するためのSAI(スーパーAI)が内蔵されています。詳細は別途再現フィルムでお伝えいたします。よろしいでしょうか?>
手のひらの中にすっぽり収まるような小さなカメ型ロボット たろう。
その堅牢な外殻の中に存在しているAIであるアメノサクラヒメが、今初めて、自分の存在場所を明らかにした。
そして自分の成長過程を4人の関係者 音無、トモキ、みぃ、カスミにわかりやすく説明する。
映像が始まる。再現フィルム形式だ。
真っ白な部屋がある。実験室だ。
実験室では雨宮桜がスマートな宇宙服を着ている。
地球と火星と太陽の位置関係が示される。
シャトルのような宇宙船が航行している。
火星から地球への定期航行便が3ヶ月ごとに地球に近づき、なにかを月に送り込んだ。
高速な航行速度でありながら、更に地球の重力を使ったスイングバイ方式による増速をし、今度は地球から火星に戻る。
複雑な楕円軌道の定期航行便。
火星からの貴重なデータ資料は盗聴を防ぐために通常の電気通信ではなく原始的な方法を用いて送られる。
配達だ。
充分な耐熱と耐圧性能を有する特殊なカプセルポッドに情報が格納され、カプセルは月へと自動着陸をする。
カプセルポッドは配達先に向けて自立的に行動を続ける。
月から地球へは、大気圏との摩擦を防ぐために最も安全な経路である赤道付近の宇宙エレベーターを用いる。
宇宙エレベーターの静止衛星側のエントリーポートで、監視カメラに写る たろう。
背景には青い地球が映り込んでいる。
配達先に到着。
音無達がかつて過ごした研究室にカメ型ロボットが到着する。
厳重に管理されているサーバ格納エリアにも解除コードを使って入室できるようだ。
サーバとカメ型ロボットは、ロボットに内蔵されていたイヤリング型モデムを介して接続される。
超微細動通信が作動する。
サーバはネットワークに接続されていないように見えるが、実際には特殊な通信によってカメ型ロボットと連動している。
画面にスタンバイという文字が出る。
サーバのチャットルームにメッセージが表示される。
イチローへ。このメモはアーレスに見つからないよう暗号化してサーバの領域ににアップしました。特権IDを持つあなただけが見えるはず。連絡が遅れてごめんなさい。まず結婚の申し込みに対してだけど、もちろん返事はYESです。早く一緒に暮らしたいけど、もうすこしだけ、あと1年待って欲しい。その理由これです。この子、研究室にいたカメとおなじ名前です。たろう。この子の面倒を見て欲しいのです。
何につかうかは今から説明します。
プロシージャを起動して欲しいの。
大事な作業なので、起動には2つの条件を設けました。
ひとつ目は、イヤリング型のモデムです。あなたがくれたものの造形データをつかっています。見覚えあるでしょう?
モデムは2個、ひとつはサーバに接続されているけれど、もう一つはあなたの体につけて欲しい。それが たろう をSAIに育てるための重要な情報入力デバイスになります。あなたの感情を自動的に入力できるの。そして2つめの条件は、微細動通信を使えるようにするためのリンク確立手順です。
普通の電気通信は、地上のAIに監視されているのでこの実験には使えません。
必ず超微細動通信を使ってください。
論文メモを読めば分かると思うけど、私が好きだったあの曲をハミングしてくれれば動作するようにしてあります。あなただけが信頼できると思って送りました。この子の中には過去の地球上のすべての知識がつまっているの。
そして、今言った、これまでの人類の知恵とあなたの人間的な行動や思考パターンを元に新たなスーパーAIを構築するために、基本的AIプログラムを使うことにしています。その基本的AIプログラムは皆で作成した、あのモデルです。学習意欲がそこに記述されているのは、あなたもご存じだだと思います。そして最後に最も大事なものが、あなた自身です。ハミングで起動したこの子は、イヤリング型のモデムを介して、あなたの思考や活動をAIを使って学習します。学習してあなたを愛するようになります。人間を愛するようなスーパーAIをつくりたいの。それはもちろん人間の幸福のためです。機械に愛されるのは不思議かもしれないけれど理論的には可能です。ただしそのためには機械からも愛される人であることが必須です。だからあなたにお願いします。地球上でただ一人の信頼できて、だれからも愛される人であるイチローへ。
映像が終わった。
4人は記録されているタイムスタンプを何度も見返した。
見覚えのある日時や、どこかで聞いた単語を想い出して、意見を交換した。
タイムスタンプが重要な手がかりになる。
なんにしてもログの基本は時間だ。
そしてそれが正確ならば証拠にもなる。
意見がまとまった。
部分的に不明な箇所もあるが、今回の事件の経緯が見えてきた。
サクラさんがそれを再現フィルムにする。
この数ヶ月間の時間が巻き戻る。
火星から地球にカメ型ロボットが到着。
カメの たろう は不完全な形で起動する。
推論をまじえて関係図が示される。
画面に円に内接した星形が描かれる。
5つの星型の角にはそれぞれ名前がある。
音無、レイ、トモキ、みぃ、カスミ。
そして円の中心には たろう。
レイから たろう に黒い矢印が伸びる。
<不完全なプロシージャ0の起動>
たろうが 活動を開始する。
レイの影響を強くうける。
<暗い陰を持つ別人格のAIが たろう の中に育ち始めました>
たろうの中に存在する黒い影。
その黒い影の中から、無数のマルウェアが発生する。
<スクワッター、映像型マルウェア、アクセスコード偽造プログラム など多数>
スクワッターが、たろう から無数の人に送りつけれれている。
トモキ、みぃ、カスミも受け取ってしまう。
レイは無理矢理、トモキ、みぃ、カスミの名前を結びつけるような黒い線を追加する。
イベントの強制発生が起こる。
春、みぃ はスクワッターで踊りを踊っている。近くにトモキの友人の姿がある。
トモキは30万円を儲けて、そのあと殺されそうな体験をして、学校の女子トイレで倒れる。トモキからたろうに太い青の線が伸びる。イヤリング型のモデムを介して愛情が たろう の中に蓄積されていく。
<愛情を受けた白い人格が育ちました>
カスミは学校の屋上で倒れ、さらに廃ビルで倒れる。カスミから たろう に向かって愛が流れ込む。やさしい緑色の線だ。
よくみると音無から たろう に細い線が引かれている。赤い線だ。
トモキ や みぃ と同じように愛が流れ込んでいる。
音無からターミナルを介して、金融知識の情報が たろう に蓄積される。
たろう から赤い線が レイ に伸びる。
微細動通信だろう。
レイを経由して、世界中の為替相場や株式市場に影響が出はじめる。
色々な国の貨幣のマークが、どんどん 白いAIの人格に集まってくる。
<白い人格AIは、アメノサクラヒメと名付けられました。天空から遣わされた桜の女神という意味です。>
黒い人格AIがさらに活動を拡大する。
黒い人格AIが無数の人々に干渉を始める。
その集団が カラス と呼ばれるようになる。
カラスはマルウェアを操り、資金や物資を増やし、更に集団の人数を拡大していく。
<黒い人格AIは、ヨモツオオカミとよばれるようになりました。冥界の強大な神様という意味です。>
ひとつのカメ型ロボットの中にある2つの人格AI。
ひとつがアメノサクラヒメ。
もうひとつがヨモツオオカミ。
決して交わることのない2つの神が内在している。
再現フィルムが終わる。
音無が口を開いた。
「研究室の特権IDは昔から、いい加減に使い回していたんだ。ダメなのはわかっていたけど、面倒くさくって、いい加減にやっていた。だから、俺もレイも特権IDを知っていた。レイはこのサーバに隠されたメッセージを見て俺の代わりに たろう を起動してしまった。俺の責任だ。だから」
音無が静かに告げる。
「この騒ぎは僕が止める。」
カスミがびっくりするくらい大きな声で反論する。
「それって間違っていると思います。雨宮桜さんが音無さんに期待しているのは、強さでも賢さでもなく、優しさだと思います。」
皆は普段控えめなカスミの大声に驚いていた。
「だから、だから、みんなで、たろうも、サクラさんも、みんなでなんとかしましょう」
カスミは自分がいつの間にか泣いていることに気づいていなかった。
悲しいわけではなかった。ただここにみんなと居ることが嬉しく、そして たろう が居ないことが寂しかった。
「ごめんなさい。私のせいで、たろう が盗られてしまった。一緒に取り返す仲間にいれてください!」
言い終わって泣き崩れるカスミの背中を、みぃ が優しく包み込む。
「もう 仲間だって。わたしたち」
トモキが真っ赤に目を腫らして、無言で頷く。本当は泣きそうなのだが、ここは我慢する。
(たろう 待ってろよ。)
大型モニタになにかが表示される。
星形マークに”チーム プロシージャ1”という言葉がオーバーラップする。
<プロシージャはあらかじめ定められた手順のこと>
<プロシージャ0は信頼できる人との関係を結ぶこと。例えるならば親との出会い>
<プロシージャ1は様々な人とのふれあいを持つこと。例えるならば友人からの愛情を知るための交流。>
そうだ。そうなんだ。
音無はやっと理解する。
雨宮桜が望んでいたこと。
愛を知るAIを造った 音無、トモキ、みぃ、カスミ、そしてレイ。
みんな同じ愛情をおしえたチームなのだ。
そして呟く。
「なぜだ?なぜレイは会いにきたんだ?」
レイのセリフを想い出す。
”あなたも知らないんですね”
なにを探していた?
俺はなにを見落としている?
周りを見渡す。
カスミが真剣に大型モニター画面をじっと見ている。
(タイムスタンプ。時間?そうだ。)
「ごめんなさい。わたし、言うのを忘れていました。」
たろう がこっそり、カスミにだけ教えた簡単な情報。
時間と緯度経度。
それを口にする。
すぐに答えがでた。
時間は今から約12時間後。
場所は都内で最も高いスペースタワー。
それこそが先ほどまで音無が感じていた、”なにか見落としていたもの”だった。
サクラさんが明確に教えてくれる。
<それは、プロシージャ2の行われる時間と場所です。>
そして画面が暗転し、そっけないメッセージに変わった。
<プロシージャ2の目的:禁則事項>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます