第6話 センサー
みぃ は近頃ラッキー続きの自分になれ始めていた。
いつもスマホで見る占いサイトにも「めったにない幸運期」とある。
スクワッターが勧めてくるイベントに参加すると必ず何か良いことがあった。
まず彼氏的なものが出来た。
同い年の高校生で、自分とおなじスクワッターでイベントに参加したのだ。
びっくりしたのは自分のニッチな趣味がマッチしたこと。
19世紀の銀細工に興味がある人間が、同じエリアにいたのは奇跡だと思った。
顔も悪くない。好きなアイドルに似て笑顔が素敵だった。
バイトも急に好条件で決まった。
ネット上で小学生向けの学習塾で科目講師を担当するのだが、
昔のようにリアルの作業としての事務とか待機時間の拘束はない。
割のいいバイトだ。
なんでも教えられればいいので、極端な話、
いま、まさにソレを実行中なのだが、自分の学校の授業中にサボって
トイレから教えてもいいのだ。
近頃はどこもそうだが、トイレの個室ですら電子錠で安全が確保されている。
どこでもが自分のオフィスみたいなものだ。
<せんせい 3番の図形問題のヒントください>
スマホの画面に質問が出る。
みぃ は自分のアバターとして使っているRPG的な弱そうなスライムを
うまく操って答えてあげる。
<さんきゅー わかった>
向こうの子供たちの顔は見えない。ぞんざいな言い方をする子もいる。
<それなら 検索するし もっと裏技おしえろ>
バイトなので金がもらえればそれでいい。
興味のない高校の授業を30分サボってつらそうな顔でトイレに駆け込んで
トイレでちょちょっと先生をしていれば
夕方のデートまでには、ライブのチケット代くらいは稼げそうだ。
アプリの電子マネーに早速、学習塾からリアルタイムで成果報酬が振り込まれる。
毎日継続ボーナスにランクアップボーナスも加算されている。ラッキー。
(やっぱり このバイトが一番単金が高い)
個室のドアを誰かがノックする。声がする。
「いや、まじで頭おかしいって、コレ」
泣きそうな気弱な声だ。
男の子? ここ女子トイレですけど。変態。ぎゅっと身構える。
別の声がする。
「ええから やれってゆうとんねん。あかんなあ。キミ優しすぎ。でもそれが逆に冷たいことになるんよ。この娘の場合は。実行あるのみ。ほな開けます。」
電子錠が音もなく空く。
涙目の男子が立っている。いや泣きたいのこっちなんですけど(怒)
「あ、あのですね・・そのボクは」
トモキは みぃ が躊躇なく突き出したスマホカバー型の
スタンガンの高圧電流で棒のように床に崩れ落ちた。
(あ 死んだかも)
ネットで高性能のスタンガンを買っての、いきなりの使用だ。
ボルトもアンペアも見てなかった。
(もうひとり別の声がしたはず。関西弁だった?)
「じゃじゃーん。モード解除。姿見えますかぁ?」
急に目の前に空中浮遊する小さなカメがあらわれた。
異常な事態なのだが、カメには謎の愛嬌があった。
ふと気を飲まれてフリーズしてしまう。
「キミも乱暴やね。まあ一緒に来てくれる?ここ危ないよ~。」
みぃ はスタンガンを構える。
「あ、無理。それ機能停止させといたから。あとスマホもね。」
チラとみると確かに両方とも電源が入っていないようだ。
「スマホないとこまるでしょ。一緒に来てくれたら治してあげる。そう これ脅迫です~。ごめんね乱暴な方法で。でもこのままここにいたらもっと危ない目に合うよ。キミ。ほな行こか。」
カメは急にポポポンという音を立てると白い小さなタマゴを生んだ。
タマゴは空中を漂って個室と天井に自動ではりついた。
「これで良しと。さあ、このニイチャンの足もってんか。運ぶよ。」
ドサッ。ごつん。
トモキはトイレの床にぴったりと張り付いた自分の頬をなんとかはがそうとした。
まったく体が動かない。
そのくせトイレ特有の臭気は感じる。
カメ=たろう が目の前に来て、ジェスチャーで「静かに」と示した。
指向性スピーカーも使えなような状況らしい。
たろうが甲羅を見せる。
そこはディスプレイになっているらしく
〈トモッキー待っといてや〉
とあった。
返事は求められていないらしい。
自分が救おうとしていた女の子と相棒のはずの たろう が急いでトイレから飛び出して行くのを床に寝崩れたまま見るしか出来ない。
「ねえさん スクワッターつこてるっしょ 見てみて」
全力で走る みぃ の横で たろう が囁く。
「あんたが壊したでしょ」
「直したで スタンガンもね」
電源が入っている。
「あんたさ」
「たろう ちゃんや よろしゅうな」
「あんた さっきの話ホント?」
「約束は守るよ~ ほら みてみい」
スマホの画面に表示が出た。ホントだ。
「みぃ って呼んでいいよ。よろしく」
「みぃちゃん よろしくなぁ~」
スクワッター画面を見る。
それを たろう に見せる。
「虎穴に入らんば やな 行こか」
(敵?敵ってなに?)
みぃは周りを見渡す。
屋上は春先の穏やかな日差しだ。
エレベーターの扉が開く。
見慣れないセーラー服の小柄な女の子が1人
(たったひとり?)
「来たで~ みいちゃん お願いします」
(こいつ 簡単に言うなぁ)
それにしても同性の みぃ から見ても可愛らしい女の子だ。
甘く見た訳ではないが一気に懐に入られた。
異常に素早い動作だ。
「予定通りや」
みぃ のスマホを奪おうと手が伸びる。
高圧電流のバチっという音と同時に悲鳴が上がる。
崩れ落ちた小柄な女の子を見ながら みぃ はなぜかこう思った。
(うわぁ 声もカワイイ)
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