第5話 プロキシー

30万円を使っていいものかどうか悩みながら

トモキはスマホの誘導のとおりに自宅についた。

自分の部屋に見慣れないモノがいた。

カメだ。

どうみても形はカメで、手のひらに載るほど小さい。

メタルな感じのおもちゃというところか。

「こんにちは。こんにちは。はじめまして。はじめまして。」

(なんだこれ)

「どうも。たろうです。カメみたいですが、まあロボットちゅうやつです。どうもども。元気ですか。よろしくね。」

(うわ、しゃべり早っ!)

早口のカメロボは、 たろう というらしい。

「トモキだといいづらいので、トモッキーって呼んでええですか。って長ぅなってるやん。とかいわんといてね。よろしく。よろしく。」

やはりというか何というか、二足歩行で机の上をぴょんぴょん歩く。

(なんか、もう慣れてきたぞ。こういうの。)

トモキは結構自分にはドライな側面があると気づいていた。

今回の異常事態にあたっては、そのあたりが功を奏しているようだ。

「おめでとー。よかったやん。15分で30万円って、時給にすると120万円ですやん。1日8時間働いて22日毎月働いたら1年で20億円こえるでぇ。」

(コイツ、なんで知ってる)

スマホに反応はない。イヤリングもなにも示さない。

「まあ、ご推察のとおりですわ。まあ、神様がいるとすればワシは使い魔みたいなもんということで理解してもらえば、まあまあ合ってるっていうことで。」

たろうがふわっと浮いてガメラのように空中浮揚しながら上下する。

「そうなんですよ。現代工学技術の塊みたいなキャラですねん。すごいっしょ。すごいんですよ。なかなか買えませんでぇ。ってトモッキーは富豪やけぇ、なんとか頭金くらいは払えるかもって、全然富豪ちゃうやん。ねぇ。」

クラクラしてきたが不思議と話は分かる。

どうも、 たろう との話は指向性のマイクとスピーカーらしくトモキ以外には聞こえないようだ。

そうでなれければさすがにいつもは無関心な母親だって覗きに来るだろう。

「レイさんとこから来たの?」

椅子に座りながら今度はこちらから質問する。

「まあ、そんなトコですわ。トモッキーこれからいろいろ体験してもらうにあたって、補助せなあかんってなってね。来たわけですよ。スーパーエースの たろう ちゃんがね。ワハハ。」

そういいながら たろう が空中で ふっと姿を消した。

「光学迷彩ちゅうやつやね。カメラで後ろの風景を取り込んで、トモッキーにみせてるだけやけど。ありふれた機能ですわ。」

この状態になると、傍目にはトモキの周りには何も居ないように見える。

たろう の声もトモキにしか聞こえないので、結局、会話をしていても独り言をいっていると見えるだろう。

「今日の出来事を教えてほしい。」

トモキが30万円の入った封筒をバサバサと振る。

「ええよ。教えるね。ステップごとにゆうてくわ。」

「まず、なんで今日のあの時間かってのは分かるかぁ?」

「さあ。なんかウラがあるのは何となく分かるけど。」

「美人のおねえさんレポーター覚えてるやろ。美人さんやし、トモキの好みのタイプちゃうか。そのバンの中で、後ろにパソコンあったやろ。」

「ああ。あった。」

声はすれども姿は見えない。

たろうは嬉しそうにそこらじゅうを空中浮遊しているようだ。

「簡単に言うとハッキングや。取材陣のスケジュールを見て、あのチケット屋に誘導したわけや。」

「誘導?でもあのチケットは?」

「おんなじや。へんなオヤジがええ席のチケットもってきたやろ。」

たしかにそうだ。

「あいつも結局、のぞかれてるねん。ネット使ってスケジュール管理してるからな。あと、あいつの持ってたチケットもネットで不正に入手したヤツやねん。そうでないとあんないい席、あんなみょうちきりんなオヤジが持ってへんわぃな。」

なんだか分かってきた気がする。

「それじゃこのスマホも?」

「そうそう。そういうこと。飲み込み早いやん。さすがに”選ばれし者”やね」

「なんだその、”選ばれし者”ってのは」

「もう聞いてんやないの?これからいろんなことが起こるって。」

「なにが起こる?」

たろう が急にぱっと姿を見せた。

甲羅を下にしてクルクル机の上でまわって止まる。

「もうトモッキーわかってるクセに。おとぼけさんやな。」

こちらをみてニッコリ満面の笑みで笑う。

「きまってるやろ。ラッキーや。ラッキーの特盛!ええねぇ。」

とまどうトモキにさらに笑顔の たろう が畳みかける。

「電子マネーも582円しかなかったんが、いつの間にか18万円になってたやろ。途中で自動販売機で買った飲料のキャンペーンが今日から開始で、その結果当たった5千円を元に株と為替でレバレッジ目いっぱい効かせてぶちこんだんねん。それを何回かやって外国のマネーを換金してトモッキーの当座口座に入れたってICカードにクレジット機能つけて、チケット屋でピピっと払ったってことやね。簡単に言うと。まあここまで大体3秒くらいで処理できんねん。イマドキ。クレカがなければもっと早いで。1秒以下や。認証突破が面倒やねん。あ、そうそう。口座開設費用の1万円の請求は来月くるから、それだけは払ってもらわんと。イマドキまだリアルマネーにこだわってるのが、いかがなものかって思うけど。まあええわ。ともかく、そのために30万円ももらえたんやからよかった。取材費の上限は50万らしいから、トモッキーの演技力が60点ってとこやったんかな。美人のおねえさんにもっと同情されたらよかったかも、やね。」

よくしゃべるカメだ。だがしかし・・・

「でも、為替とか株とかで損したらどうするの?」

「損?損とおっしゃいましたか?」

たろう は今まで一番のドヤ顔でこちらに向いた。

心なしか指向性のスピーカーからの声が大きくなる。

「損なんか絶対にない!ラッキーしかないんやって。」

「全部制御済みなんやで。まかしとき。」

「なんちゅうてもワシは神の”代理人”やねんから。」

いままでの早口と違う、

わざとらしい重々しい口調が、いかにも慣れた感じで聞こえた。



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