第三話 ついに転生~待ち受ける関門~

ミカエルが話し始めてかれこれ2時間ほどが経過しただろうか。


その間、俺は転生後のルールについての説明を受けていた。


そこで聞いたルールは3つ。


・異世界の住人に転生したという事実を知られないこと


・魔獣を狩りつくし、来たるべき時に備えること


・異世界ライフを存分に楽しむこと


こういうことらしい。


ルールを課せられたことによりいくつかの選択肢は消えてしまい自由が利かなくなるが、


それだけならば支障はない。


というか、最後の存分に楽しむことってなんだよ。


ルールを守って楽しく転生ってか。・・・・・いいな、それ。


「―――以上で説明は終了です。お疲れのところ悪いのですが、今から転生の準備をさせてもらいますね。」


「ふぃ~、肩こったわ。あ、肩もなかったんだった。」


それにしても、転生するのにこんなにも時間がかかるとは。


予想だにしなかったことに若干の疲れを覚えるアラタだった。



――――数分の後、準備ができましたよ、とミカエルからの報告があった。



俺には何をしているかさっぱりだったが、誰かと話をしていたのだけは分かった。


それが誰なのかは知る由もないだろう。


「それでは始めます。」


そう言うや否やミカエルは俺を手で包み込み、自分の胸のあたりに押し当てた。


「わわっ!?ちょ、何するんですか!」


生まれてこの方、女性に手を握られたことのなかったアラタは、あまつさえ胸に押し当てられたのだ。


もちろん動揺は隠せなかった。


「し、仕方ないじゃないですか!!転生の儀は対象に触れているのが一番手っ取り早いんです!!」



―――それにしても、何の予告もなしにされるとこちらの心臓が持たん。あと、少し柔らかくて気持ちいい。



儀式とはいえドキドキが止まらないアラタ。この童〇野郎が!


「最後になりますが、転生後は赤ん坊の姿ですので、無理はなさらないでください。」



―――え、あれ?ん?赤ん坊だと!?



元の姿のまま転生できるなど、そう上手い話はない。赤ん坊からやり直せ。強く生きるんだ、アラタ。


「え、ちょ―――」


「それでは行ってらっしゃいませ。よい異世界ライフを!」


アラタは頭に多くの疑問符を抱えたまま、元居た空間から追い出されるように消えていった。





――――ん、ここは・・・・・



目を開けると眼前には知らない天井が広がっていた。



―――知らない天井だな。



一度は言ってみたかったセリフだが、それは叶わなかった。


なぜなら、俺はすでに赤ん坊の姿になっていたからだ。


数時間ぶりに肉体というものを取り戻し安堵していたアラタ。


しかし、その安堵が焦燥へと変わるのにそう時間はかからなかった。



―――赤ん坊・・・だよな。ってことは、おっぱ・・・・



待て待て待て、それはさすがにまずいですって。


体は赤ん坊とはいえ、前世から引き継いだ意識や記憶はある。


そんな状態で#それ__・__#を直に見てしまえば、恐らく俺のリビドーが爆発してしまうだろう。赤ん坊だが。


アラタはそれから少しの間考え、ある考えに至った。




――――うむ、俺は我慢できない。その場の状況に身をゆだねるしかないだろう。

仕方ないよな、赤ん坊なんだから。



クズだ、クズである。


どうしてそんな考えに至ったかは、言わずもがな。男だからである。



―――なら、やることと言ったら一つだな。



「おんぎゃぁ、おんぎゃぁ、おんぎゃぁ」


アラタは泣いた。いや、鳴いたのだ。己の欲望のために。


すると、部屋のドアの音が開く音がした。


「はいはい、ミルクでちゅね~」


出てきたのは母親らしき女性だった。


肌は白く、髪は黒髪。服装は中世ヨーロッパ風なのか、麻で作られた服を着ていた。


それにしてもこの女性、美人で巨乳である。


アラタは期待に胸を膨らませながら、その時を今か今かと心待ちにしていた。


そしてついに、その瞬間が訪れる―――


「は~い、どうぞ。」


差し出されたのは哺乳瓶であった。


よく使い古されているのか、少し小汚かった。



――――はぁぁぁ、マジかよ・・・・そりゃないぜ。



アラタは落胆し、この世の不条理と言うものを呪った。残念だったな。


そして、ビンいっぱいに入ったミルクに口を付ける。



―――うわ、まっず!?おぇぇ・・・



入っていたのはやはりとでもいうべきか、粉ミルクだった。


粉ミルクというものはご存知の通り、牛乳を乾燥させて粉状にしたものだ。


授乳期である生後5か月から6か月の間に与えられるもので、栄養価は高いが基本的には舌に合わない。


本来、赤ん坊が飲めば普通に飲むことができるのだが、俺は前世から記憶を引き継いでいる。


もちろん、味の記憶も残っていて覚えているわけだ。


そんなやつが飲めばまずくも感じるだろう。



―――しかし困ったな、これから数か月もこんなのを飲ませられんのか・・・・・・・



と考えたものの、この程度のことで諦めてしまっては先が思いやられる。

これが異世界での第一関門と言うわけか。



――――おっ、面白れぇ。やってやろうじゃねぇの!!待ってろ、俺の楽しい異世界ライフ!



心を決め、自棄になって一気にミルクを飲み干すアラタであった。

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