第2話

 僕は市内のアパートに一人暮らしをしている。四年前に地元の国立大学を卒業した後は関東に就職をした。数年間あちらの会社で働いていたが、家庭の事情で地元の東北地方に戻ってきた。


 現在は市内の会社に勤めている。ここの会社は高卒も大卒も採用している。僕のレベルにも合っているだろう。タイミングよく中途入社を募集していたお陰ですんなり就職出来た。

 仕事では時に、ミスをして叱られる事もある。それも過程だ。普通の会社だ。


 僕の休日は基本的に土日だが、恋人の葉子の休日は基本的に平日なので、葉子が休みの時はよく僕のアパートに居る。葉子とは、地元東北に戻ってきてから知り合った。所謂合コンみたいな飲み会で出会った。


 葉子は【よく居る】タイプの女性だ。栗色でセミロングの髪の毛がふんわりしている。ファッションはスカートやズボンどちらも着用するし、色はピンクやベージュ等、ソフトな色合いだ。

 デートの時にヒールの靴をはいてきて「あんまり早く歩かないでよ」等と云われてみたいけれども、葉子がヒールをはくと僕とほぼ同じ身長になるので、はかないでほしいと心の中で思っている。

                  ○●

 さくら祭りも終わり初夏にもまだ届かない季節、僕は葉子と買い物に出かけた。駐車場から百貨店まで幾らか歩く。駐車場が遠いのは不便だけれども、この歩道を歩く風景が僕は昔から好きだ。

 気候も良い。春のような暖かさと少し冷たい風が時折吹く、何とも時季を表せないこの感じがたまらない。


 百貨店にもう少しで着くという手前、小松さんにばったり会った。お互いに驚いた。小松さんは一人だった。

 相変わらずの色白で、オレンジの鮮やかなニットを着ていた。

 黒髪・色白・オレンジとはっきりした色のコントラストが、遠くから見ても目を引くだろう。会社に居る時とは違うメイクが色気を醸し出していた。

 僕の隣には恋人がいる。軽く会釈をして、その場は終わった。


 小松さんのいつもと違う雰囲気のメイク(色気増し)とファッションに、驚いたような表情がアンバランスで、僕は言い表せない感覚を覚えた。何だ、この微妙な罪悪感は……。

 そして、自分でも少し動揺しているのが解る。下手に発言して葉子に変に思われるのも嫌なので、何でもない風を装う。


「あの子、あなたに好意があるんじゃない?」いきなり葉子が云った。

「まさか、ただの会社の同僚だよ」動悸が激しくなった。


 葉子は、何を根拠にそんな事を云うのだろう。

 どうやら女同士というものは、それが解るらしい。

 勘とか何となくとか、そんな精神論を云われてもなぁ。


 その後も葉子は、百貨店や街中で自分と違うタイプの女性とすれ違うと「私はケバケバシイ色使いよりも、ふんわりした感じが好きだわ」等と云うし。

 逆に、自分と似たタイプの女性が居ると「あの子可愛い、どう思う?」等と聞いてくる。


 明らかに小松さんを意識しているのだろう。そんな事を云ったとしても、葉子の魅力が増して小松さんの品格が下がる訳でもないのに。むしろ葉子のそんな所は見たくなかった。女同士というものは、僕の想像以上にややこしいらしい。

                  ○

 あの日から、葉子の疑惑が強まっているのが解る。

 葉子が休みの日は毎回僕のアパートに来る、そして泊まってゆく。

 僕が休みの日はまめにメールを入れたり、出勤前に僕のアパートに顔を出していったりする。

 先日、機嫌が悪そうだなと思っていたらいきなり「仕事の日は嬉しそうね」等と云われた。

 何故だ? 小松さんにはあの日以来、会社でしか会ってないし、仕事中は今までと変わりない。


 ただ、一度休日の私服とメイクを見た印象から、僕の中で小松さんのイメージは少し変わった。お洒落だなぁと思ったし、自分に似合うものを解っていると思った。

 そう思ったら、普段の何気ないお喋りや小松さんのはっきりした口調が、真実味を帯びてくる。中身がきちんとある人なんだな、と。

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