カサイラズ

青山えむ

第1話

 僕は自分を知っている。

 自分で云うのも何だが、というか自分で云う事では無いだろうが顔の作りはそこそこだと思っている。自分で気づいた訳ではなく、周りから云われて気づいた事だ。

 同性の友人からは少し褒められたり羨ましがられたり。バレンタインには女子から幾つかチョコを貰っていた。

 しかしそんな事も、高校生までだった。

                  ○

 僕は身長が低い。

 高校三年生になっても身長は一向に伸びない。クラスの女子の平均身長程度だろう。これに由来しているのか、あの頃から発言も控えめになっている。たとえどんなに知的な発言をしても、隣に居る長身の友人には何一つ敵わない。これを悟った時僕は、静かに生きてゆく事を決めた。

                  ○●

 社会人になってからもそれは変わらない。

 仕事は必要量をこなす。はみだした発言等は一切しない。

【一般的な】社会人はこんな感じだろう、というイメージを頭の片隅に置いている。後輩を怒鳴る事はしないし、同僚に横柄な態度を取らない。上司に必要以上に愛想を振りまく事も無い。

 恐らく全員にほぼ同じ態度で接しているだろう。静かに生きる為に、良い行動の選択をした。

                  ○

 最近、同じ職場の女子がよく話しかけてくる。何故だろう。間違って春が来るのだろうか。


 彼女は小松さんといい、僕より二つ程年下だと記憶している。色白で、女子には珍しく黒髪で、髪型はショートボブというのだろうか。髪型のせいか、社内で被るタイプが居ないので一度会ったらすぐに覚える。


 小松さんは仕事に関して濁さずに云えば、ムラがある。優秀かと思えば、何て事ない所で手順を飛ばしたりする。得意な事と不得意な事の差が激しいのだろう。

 性格は、おとなしくもなくうるさくも無い。誰とでも交流をとれるタイプだろう。

                  ○

 僕に話しかけてくるのは、仕事上のコミュニケーションというやつだろうか? それにしては……。


 小松さんと接する時間が長くなったからか、気づいた事もある。

 意外に賢い面もある。仕事、というよりも今までの環境や趣味・人脈等で身に付けたと思われる力がある。上司や他部門の気難しい人には聞きにくい事を自然に疑問を投げかけて、回答を得ている。

 小松さんは、手順等の飲み込みは遅いけれども、一度手にしたらマスターしている努力家だろう。努力している人を疎んじる奴なぞ、そいつ自体がろくな奴ではない。

                  ○

 小松さんは、仕事の質問をよく僕にしてくる。

 仕事の合間にも、ちょっとしたお喋りを投げかけてくる。小松さんの豊富な雑学知識と話題、『もっと話したい』と思わせる会話術。けれども一定の距離は保つ気遣い。小松さんとのお喋りが、だんだん待ち遠しくなってきた程だ。

 そして小松さんには、長身の恋人がいるそうだ(同僚情報)

 なんだこの微妙なもやもや感は……?

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