18日目<ロングお願いします>

長距離のこと。

一般的な呼称ではないが、「長距離」と言われるよりソフトな感じが、ドライバーの精神的負担を和らげる。

私はそう感じる。

余談だが、私の理想は月に1~2回。

まるで小旅行でもしている気分になる。


➖➖➖➖➖


りんがTouch By Now Transport社に入ってから、そろそろ半年になる。業界未経験の鈴は、安全最優先で車に慣れるところからの始まりだった。

事務所も無理をさせないため、一日一便のみの運行を採っていた。


「部長、五十川さんにもう一便増やして良いですか?もう慣れて来たようなので。」


配車係の山田は、既に、鈴に割り当てる仕事をピックアップしているようだ。


「そうやなぁ、だけども京阪神でもう一便は彼女にはまだキツいかもな。特に東大阪、奈良周辺。まだその辺は走ってないやろ?」


「それに、距離と時間の感覚がまだつかめてないのもあります…か?」


山田は、なんとなく感じていたことだが、確認の意味を込めて聞いた。


「そうやなぁ、交通状況がコロコロ変わる地場よりも、いっそのことロングで勉強させたらどやろ?」


「うーん、では五十川さんに一回ロング行ってもらいます。二台口の仕事とりますので、もう一台は下口しもぐちさん同行させます。」



山田と部長の話はまとまった。

山田は、鈴のために資料を用意し、部長は満子を呼び、この件を伝えた。




準備が整った頃、時計の針はちょうど午後5時を指していた。




「ちょ、長距離ですか!?」


驚きを顕にし、目を丸くする鈴だったが、


「行きます!是非!行かせてください!!」


この前向き思考は好奇心からなのだろう。

目がキラキラ、を通過しギラギラしている。


(わっ!すごいギラつき…)


そして部長は、鈴に長距離運行の主旨を説明し、満子に渡した資料と同じ物を鈴にも持たせた。

こうして鈴の初長距離運行が決定した。



「…これでよし。いいか鈴!今回の目的地はネズミーランドのある舞浜!初めてのロングやからってビビることは無いで?まずは安全運転最優先な。ほな、もらった資料見てみ。あんたの課題は3つ!はい、読んで。」


「……はい。1.運行ルート。2.到着時間の予測。3.高速道路の走り方を覚える。です。あの……」


「ん?なんだ?言ってみ?」


「なんですか、このBGM?」


「バッ!あんた知らないの?ミッションだよ!ミッション・インポッシブルだよ。セミ・クルーザー主演のな!こういう時に流すんだよ!最近の若者は知らないのか?」


「はあ…」


「よし!じゃあルート。目的地までどうやって行く?10分で決めて。」


「はい。……えーと…」


鈴はスマートフォンでCoogleマップを開き、目的地の住所を打ち込んだ。


(お、これでいいよね?わかりやすい!10分もいらないや!)

「満子先輩、決まりました!こうです。」


と言って、満子にスマートフォンの画面を見せた。


「うん、まあ途中からこのルートになるんやけど…。やり直し。」


「え、なんでですか?このルートわかりやすいですよ?」


「そりゃ確かに分かり易いわ。でもあたし達はどっから出発するの?ここから?えっ?車庫に戻って出発するの?」


Coogleマップの出発地点は自社車庫を示している。


「あ、そうだった!」


「あたしらは津から荷物拾って出発。」


鈴は出発地点を津に打ち直し、満子に見せた。


「じゃあこれで行きます。」


「……うーん、まだわかってないなぁ。津まではどうやって来る?あんたはどこで空車になる?」


「あ、そしたらこうやって…っと。はい!満子先輩!」


「ほな燃料はどこで入れる?ルート途中にある?あたしらが使える燃料屋が通り道にあるか?」


「う、う~~む……」


「入れて行くならどこで入れる?場所によってはこのルート変わるよな?じゃあ高速道路どっから乗る?」


「……………」


鈴のCPUは、情報を処理しきれなくなりフリーズしたようだ。



つづく


18日目終了。

今日も一日お疲れ様でした!


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