16日目<四軸低床車《よんじくていしょうしゃ》・後編>

新車を楽しみにしているフトシ。

やっと回って来た新車。

フトシは、ゲームソフトのパッケージに例えてウィングを操作する。が、手こずるフトシ。

そして、へんな啼き声を耳にした社長と玄三がプロフィアへ向かって歩いて来た。


➖➖➖➖➖


「あれ?ウィング開いてるやん。誰かいるん?」


社長は、開いたウィングをチラリと見る程度でプロフィアと向き合う所で、また玄三と喋り出した。


(ふー!よっこらしょ!はー、疲れた!)


フトシは汗だくになりながら荷台へ上がり、そのまま大の字で寝転んだ。


(っしゃ!勢いよくいったな!フトシ、凹むやろな~ククク。ま、あっちはもう凹んでるけどな。)


満子のミッションはどうやら完遂されたようだ。


(ん?フトシ何してんの?あ!寝とるやん。早くウィング閉めてさっさと凹めばええのに。)


後は何かしらの結果を待つ満子。

しかし、本格的にイビキをかいて寝だしたフトシはなかなか起きない。


「もぅ!!なんでやねん!!!」


満子はそんなフトシに苛立ち、寝ているフトシへ、ジャンピングプレスをしかけた。


「ギョブーーー!!」


満子は気づかれまいと一目散に逃げた。


また動物の啼き声みたいな声を出した。

今度はさすがに社長たちも気が付き、荷台に横たわるまるでトドのようなフォルムを目にした。


「あれ?フトシ?何してるん?昼寝やったら自分とこで寝てな。で、なんでこんな事してるん?これ、日野ちゃんが乗るんやで?キズ付けたら恨まれるで!」


「え!?ボ、ボクのプロフィアじゃないんですか!?え?えぇ~!楽しみだったんですよ~?」


そんな事言われても知らんと言いたげな社長。

すると…



「あーー!!フトシ?これ、前にボルトキャップはめたん?ちょっと!!こんな出っ張ってたらアオリ凹んでるんちゃう」


四軸低床車のアオリを下ろす時は注意が必要だ。

アオリをおろし、リフトなどで作業すると場合によっては、タイヤのボルト(ネジ)山とアオリが接触し、キズや凹みが付いてしまう事がある。

この時、アオリとタイヤの間に緩衝材を入れることでキズ、凹みを防げる。


フトシは、首を横に振った。

社長の会話で状況を把握した満子は、


(げ!マジかぁ!?やっべ!陽子、ごめん!)


もう謝るしかない。

が、社長は凹みを確認しようとアオリを上げた。


「お、ちゃんと緩衝材挟んでるやん。」


「へ?ひひ、ひひひひ、も、もちろんですよ。新車ですからね。(え?なんで?いつの間に?)」


「フトシ、さっき言ったことで悪いけど……」


社長は、改めて、新車は陽子が乗るとフトシに伝えた。すると、フトシは悔しそうにその場を去った。


近くにいた玄三は、両手でやれやれとジェスチャーしながら、いつの間にか戻った陽子に言った。


「陽子、悪いけど新車なおしといて。緩衝材、間におうたな!流石やな。」


小さく頷き、メガネをなおした。

そして、アオリを上げようと手を掛け何気なく荷台に目をやると、一ヶ所だけ大の字の濡れ染みがあった。



(うっ…フトシさん……)



陽子は、洗剤とブラシで濡れた部分を懸命にこすった。





16日目終了。

今日も一日お疲れ様でした!

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