13日目<ヒッチハイカー>

トラックで色んなところを走っていると、ヒッチハイクする方を見かける。

さて、そんな場面にこの方々が遭遇したらどうするの?


➖➖➖➖➖



土曜日の午後……。

社内の安全講習会議が終わった後のこと。


会議は多目的施設を貸りて行われる。

施設には直接来る者もいれば、会社からワンボックスを相乗りして来る者もいる。


「はい、みんなそっちに並んで~!…白鳥もうちょい寄って。はい、いくよ!」


\パシャ/


「はいOK。では、ここで解散します!」


会議の後は、社のホームページにアップする為の写真を撮るのが慣例だ。発案者は社長だ。


「ワンボックス組はこっち来て!」


玄三が声をかけていると、横から鈴が、


「白鳥さん、写真の時チャック開いてなかったですか?」


と、呟いた。


「お前、よぅ見てるなあ~。すけべ。」


玄三の一声で、鈴は黙った。

たまたま鈴の目線の先が、白鳥の股間だっただけで、それもたまたま目に入っただけだった、と言ったところでこの男には意味がないだろう。この男に言ったのが間違いだったと思った。


「おう、白鳥も乗るか?お前歩きやろ?途中で降ろしてやるで?」


白鳥の家は、この施設と会社のちょうど真ん中にある。玄三は白鳥に気遣いしたが、歩いて帰ると言われムッとした。


「せっかくさそったのに。白鳥!チャック開いてるぞ!!!」


車の中から言い放った。

住宅街ど真ん中でだ。

もう、とんだ仕打ちだ。

鈴は心の中で白鳥に謝った。


「もう、柳さんやめて下さい。」


「言わな白鳥が可哀想やろ?五十川が気付いたから良かったけど、もしあのままやったら、白鳥今頃『猥褻物横領なんたら』でブタ箱やで?」


「まさか、ちなみに猥褻物陳列罪です。横領してどうするんですか、まったく。」


冷静につっこむ鈴。


「ちょい!玄さん見て、交差点の手前!」


唐突に満子が前方を指差した。


「『東京方面!』って書いてるで、ヒッチハイクか。」


と、言うと玄三は何を思ったのか、そのヒッチハイカーの前でハザードを点滅させ車を停めた。



「ちょい、玄さん!まさか乗せるん!?」


満子は玄三の行動に驚いた。


「どうしよかと思って…どう思う?五十川。」


「もう、やめときって玄さん。」

「と、言うか先ず立ち位置が悪いですよ。こんなとこ地元民しか通らないでしょ?」


(え!鈴、食いつくの!?)


鈴は続けた。


「よくいるんですよね、高速道路の入口で待ってる人。バイパスの路肩で待ってる人。反対車線の道路で待ってる人!困ります!乗せたくても停まれないじゃないですか!バツです!」


どっちなんだか…


「せや。東京方面てのもマイナス点や。いかんせん遠い。具体性にも欠ける。例えば琵琶湖タワーとか。近場で分かりやすく、乗せてあげる人がイメージしやすい場所を伝えな。」


「琵琶湖タワー、もうないで玄さん。」


「…せや。満子はどやねん?」


「あたし?あたしは、うーん、あ、こんなんやったら面白おもろいから乗せるかもな!」


「どんなんや?」


「交差点の信号待ちの時に、持ってるスケッチブックで4コマ漫画見せるねん。一枚ずつめくってな!」


「それや!満子!」

「満子先輩、珍しく冴えてる。」

「だろ?珍しくは余計だって。」


「でもまだ何か決め手にかけるんだよなぁ…。」


「ワシは、唇はぽってりしてて、パツキンで眼が青くて、丈が短いヘソ出しTシャツとデニムのホットパンツはいて、足元は赤いピンヒールのB・Q・B美女やったら、何処まででも。あとオプションで機関銃かついでたらな。さらに挑発してくる感じやと文句無し!」


「アホか。B・Q・Bてなんやねんな。」

「え~?ボン・キュッ・ボンやん。」


「ちょっと、柳さん、満子先輩、あっちで女の人がうずくまってます!」


突然、鈴が反対車線の歩道を指差し、車から降りると一目散にその女性の元へ走った。


「鈴!玄さん、あの人おなか押さえてる…赤ちゃんちゃうか?あたしらも行くで!!」


満子たちも駆けつけた。


「満子先輩、赤ちゃんが!」

「やっぱり、ねぇ、救急車呼ぶ?産婦人科行く?」


満子は女性に質問すると、その女性はカバンから産婦人科の診察券を出した。


「光原産婦人科医か、近くや!ワシらで送ろ、その方が早い。」


「わたし、病院に電話します!」

「たのむで、満子はそっちから抱えて…」


鈴が病院へ話をつけてる間に満子と玄三が女性の脇を抱えて、車にゆっくりと乗せた。


「大丈夫ですよ、すぐ着きます。」


玄三は優しく声をかけた。




間なしに車は病院へ着き、助産師たちが女性を病室へ運んだ。


「ふー、なんとか無事に連れてこれたな。」

「よかったですね!」

「ほんまや、近くで助かったわ!」


3人は自販機で飲み物を買い、病院ロビーで一息入れた。


「今日、産まれるんやろか?」

「きっとそうですよ。」

「……!?白鳥?」



すると、入口から白鳥が入ってきた。


「どうも、嫁から産まれそうって聞いて…。」


(((…………。)))





翌日。

白鳥婦人は、無事男の子を出産した。

白鳥は、報告を兼ねて玄三たちに礼を伝えた。


「そーか!おめでとう白鳥!いや、よかったよかった!これからはチャック開けてられへんな!」


「白鳥さん!おめでとうございます!」


「おめでとう白鳥。嫁さんどうなん?体調。」


「ありがとう下口、お陰で産後も問題なし。」


それぞれに祝いの言葉をかけ、白鳥婦人の出産を喜んだ。


「ところで柳さん、なんであんなことになったんですか?会議の後、僕に声かけてから直ぐに会社へ戻ったんじゃ?」


「いや、そのあとな……!?(あ、わすれてたわ!)」



玄三は、仕事の帰りに例の交差点へ向かった。


『いるわけないですよ!』


鈴に言われなくとも、わかってはいるのだが気になって行ってしまった。


「あ、おった。ぷっ!ワシらの話聞いてたんか?」


交差点の手前でスケッチブックをめくって行き先をアピールする青年を見つけた。


「しゃあないな。」


そして一時間後、玄三は草津サービスエリアで青年をおろした。



13日目終了。

今日も一日お疲れ様でした!




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