12日目<無事故手当>

大概の運送会社は、1ヶ月間事故なく仕事をこなすと、「無事故手当」として給与にプラスされる。

また、それとは別に「何かしらのご褒美」が配られる所もある。人気どころだと『お米』だろうか。


➖➖➖➖➖


(ん?クリープ?山田さんだなぁ?出しっぱなしにして仕方ないなぁ、なおしてあげるよ)


鈴は、やれやれといった感じで戸棚にしまった。


すると満子が帰ってきた。


「おっつ~、あれぇ?鈴~?今日はやくね~?仕事終わんの~?」


「そうなんですよ~、満子センパイに絡まれないようにぃ~、早く帰ろうかなぁって、頑張ったんですぅ。あ、この事は満子センパイには内緒ですよ~?……。」


「だよねー、あたし後輩からもの凄く嫌われてるから、ねー!……って、おい、陰口なら陰で言ってくれ…面と向かって無表情で言うなよ……生々しいよ、怖いよ、泣くよ。」


「やだ~、満子センパ~イやめて下さいよぅ、まぢでぇ、わたしがセンパイを~、虐めてるみたいじゃぁないですかぁ?これあげますから、元気出して下さいよねぇ~」


と言って、鈴はテーブルの上にある『お米』を満子に渡した。


「満子先輩、このくだらない寸劇毎回しないといけないんですか?」


「ただ持って行くだけは味気ないだろ?ってか今、くだらない言うたな!?一生懸命……考えて、かわいい後輩と距離を縮めようと努力してんのに……泣きそう。」


「あ、せ、先輩。ごめんなさい。満子先輩がそんなにわたしのこと気にかけてくれてたなんて気付きませんでした……先輩、これで元気出して下さい。」


と、言ってテーブルからもう一つ『お米』を満子に渡した。


「あ、ありがとう。で、でもあかん、あかんでぇ。米ふたつも抱えられへん、重い、おんもいわぁ、あー、おもいおもい。………ま、言うても一つたかだか2キロの米ですけどね。」







「………終わった?」


いつから居たのか山田がいつものように座っていた。


((っ!!!!!))


「おそらく、中盤の二段構えのボケあたりから見させてもらったよ。」


(よりによって山田に見られた!)

(うわぁ~、うわぁ~、うわぁーー!!)


「確かに2キロは少ないと思うんやわ。社長の知り合いの農家やし変えれへんみたいやねん。みんなもランク下げてボリュームアップしたらって言うてるくらいやしなあ。あ、お米もらったらサインしといて。」


(う、よけい恥ずかしいやん!ボケに真面目に突っ込まんといてや!さむいで山田!)


「すいません!ワガママ言ってすいません!」


((なんで!!?))


「満子先輩に代わって謝ります!」


(うわぁ、あかんでぇ、鈴、それは寒いで。ほんで、こっちまで寒い人になるやん。)


事務所の妙な空気をなんとか変えたい満子に天の声が聞こえた。柳 玄三が帰って来た。


「おつかれ~、お、何してたん?…まあええわ。せや、今日は無事故手当の日や!ほな、もら……あらへん。」


「ほんまや、ないですね。」

山田が確認するが、無かった。


鈴はとても不思議そうだった。

(お米なら目の前にあるのに?名前書いてるの?)


「ほんまやな、玄さんのどこ行ったんやろ?……鈴?ホンマに知らん~?玄さんは手積み専門やし米と違ってプロテインもらってんねん。おかしいなぁ?鈴~?」


(満子先輩、わたしに聞いても……。)


「今月、わし無事故やなぁ?どこ行ったんやろ?………あーーーー!!山ちゃんあかんで!それそれ!!クリープちゃうで!!それやん!良かった!」


玄三が慌てふためき山田を制止した。

山田がコーヒーに入れようとしたクリープは、なんと『プロテイン』だった。


(プロテイン?)

鈴はますます混乱した。


「なんで戸棚にプロテインが入ってたんやろ?」

山田も不思議がる。


「ま、プロテインも無事やったしええよ。」


場がようやく落ち着きを見せた時だった。



「はっ!!!」

慌てて両手で口を塞ぐ鈴。


そして、ゆっくりと目だけを満子へやった。

満子は何も言わず、ただただいやらしい笑みをこちらに向けていた。



12日目終了。

今日も一日お疲れ様でした!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る