10日目<イベント関係のお仕事3>

今まであまり言葉を交わしたことのなかったりん陽子ようこだったが、アムール・ナミエルがきっかけで徐々に打ち解けてきた。


➖➖➖➖➖


「そうだ!ヨーちんTシャツも買ったよね?どんなの?」


すると、待ってました!と言わんばかりに、すかさず袋から取り出し鈴の目の前に広げて、見せた。

『You are always in my heart』とプリントしてあるTシャツは、今の鈴にはとても眩しく見えた。


「いいなぁ……はっ!!ヨーちん!わたし今から買ってくる!!!あとトイレも!!!」\\バタン☆//


「あ、リンリン!」


助手席から飛び出したかと思うと、もう階段を半ばまで駆け上がっていた。途中、何かに気づいたらしく慌てて戻ってくる。


「ザイブワズレダ!ぜぇぜぇ」

どうやら財布を忘れていたようだ。


「あ!リンリン!!」

また、陽子が鈴を呼ぶが、聞こえていなかった。


「…リンリン、おもしろい。」

と、呟き陽子も車から降りた。


陽子はすぐに車内へ戻り、購入したナミエルグッズを眺めていると、肩を落として階段を下りてくる人物を見つけた。


「リンリン。」

である。


さっきまでの勢いはなく、生気を失った様子はゾンビさながらであった。


「ただいまぁ、物販コーナー…終わってたよ。」


「だろうね。」


「知ってたの!?早く言ってよ~ヨーちん。」


「言おうとしたら、リンリン飛んで出て行ったから。しかも2回も。」


(ぐ、ぐぅ…)


ぐうの音は出たようだ。


「はいこれ、リンリン、ちょっと落ち着こ。」


「あ!……ミルクティー!うん。ありがとね!」


ふたりはミルクティーで乾杯した。


「あ、ちょっとトイレ…行ってくるね。」


せわしない鈴。


予定時刻までもう少し。


『少し仮眠するね。』


陽子は、少し疲れた様子で言うと、アイマスクを掛けた。同じ年ごろの女の子同士で、あんなに喋るのも陽子にとっては初めての事だった。さすがに疲れたのだろう。


鈴も自分の車へ戻り、呼び出しのTELを待つことにした。


(…仮眠…か、…眠れないや。)


陽子との会話を頭の中で反芻すると、気持ちが高揚し、逆に覚醒してしまう鈴。暫くは、心ここに在らずだった。ただじっと、手に持ったミルクティーの缶を眺めていた……




………LLLLu…TLLLL☆

TELの音で気が付いた。


(あれ?わたし、寝てた?)

「あ!TEL!TEL!…もしもし…はい、5番から入場、わかりました!よろしくお願いします。」


鈴は慌ててエンジンをかけ、注意しながら発進し、5番ゲートを探した。


(そういえば、ヨーちんもういなかったなぁ?)


鈴の前に停めていた陽子の大型車の姿がなかったのを思い出した。


しばらく進むと、5番ゲートへ着き、やや登り気味の搬入口をくぐり慎重に中へ入ろうとすると、撤収スタッフが駆けつけ、鈴を誘導した。


トンネル状の搬入口を出ると、そこは大型トラック、フォークリフトが何十台、竿先20~30メートルは優にあろうクレーン数台が、不自由なく稼動できるくらいひらけた空間だった。


(ここが大阪ドーム…おおきい…。)


テレビでしか見たことのない景色が、今、目の前に広がっている。しかもそれがパノラマ360度である。更に、進行方向正面にはアムール・ナミエルが歌っていたステージが、まだそのままであった。

鈴の、若干引きずったままの眠気が一気に吹き飛んだ。


スタッフの指示に従い、言われた位置で一旦停車すると、一塁側ファールゾーン付近の資材を積み込む場所で、陽子と撤収スタッフが作業をしているのが見えた。

そして、それほど遠くない場所で、鈴は陽子の作業を見たが、さっきまでとまったく雰囲気の違う姿に見とれてしまった。


「……カッコイイ!」


「へ?なに?オレ!?」

「あ、すみません!!違います!!ごめんなさい!!!」


近くにいた作業服のおじさんが嬉しそうに反応していたので、必死に否定、もとい謝った。



つづく



10日目終了。

今日も一日お疲れ様でした!




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