9日目<イベント関係のお仕事 2>
そのイベントは、なんと「アムール・ナミエル初来日ツアー」だ。ナミエルの大ファンである陽子は、胸を踊らせていた。
そして、お目当てのグッズをゲットした2人は、作業開始まで車で待機する。
➖➖➖➖➖
鈴は、陽子がイチ押しするアルバムを買い、テンションが上がっていた。
「ナミエルのCD買っちゃった~!このジャケットカッコイイね!初ナミエル!!おっ?へへ、ラッキー!何かもらえるみたいだよ?引換券だって!!アムール・ナミエル初来日を記念した、限定500枚の特別版DVD引換券って書いてるよ!!!」
自分で言いながら一気にテンションが高まる。高まる。
聞くや否や、陽子は慌てて売り場へ走った。
既に、このアルバムを持っているが、今回はナミエル初来日特典映像付ホログラム仕様シリアルナンバー入り特別版で、しかも限定500枚ということを知り、走らずにはいられなかった。
運営側の配慮で、混乱が生じないようにジャケット、価格など一見すると既存のアルバムと見分けが付かないまったく同じ仕様にしたらしい。後日談だが、このボリュームで、価格が据え置なのはアムール・ナミエルからのサプライズ企画だった。
「間に合った・・・。よかった!」
柔らかく、とても明るい顔をしている。
(日野さん……)
鈴は、初めて見る陽子の笑顔がとても愛おしく感じた。
「よかったね。日野さん!」
ふたりは目を細め、アムール・ナミエルの美声に身を包んだ。
しばらくして、陽子が口を開いた。
「ごめん、五十川さん。なんかはしゃいだりして。」
「ううん、でもちょっとだけビックリしたかな。日野さんが笑ってるところ、見たことなかったから。でも安心した。普通の女の子なんだって。」
「……なんだか恥ずかしい。」
「へへ、ねぇ日野さん!もっとナミエルのこと教えて!ね!・・・それと・・・日野さんのこと、よ、よ、『ヨーちん』て呼んでもいいかな?だだだだ、だから、わたしのことは『リン』て呼んで!」
こちらも珍しく、ヨソヨソしく尋ねた。
「……りん、りん。『リンリン』でもいい?」
「うんうん!!リンリンがいいよ!!!」
すかさず返す鈴。
距離を縮めたリンリンとヨーちんは、もう暫く2人だけのライブを楽しんだ。
PM11:30
ライブ客の往来もようやく落ち着くと、入れ替わるように、舞台設営関連業者がドーム内へ入場し始めた。
鈴たちは、周辺で待機しているトラックやクレーンが動き出すのを見て、時計に目をやった。
「そろそろ始まるかな?」
「うん。始まった。」
「…ヨーちん。わたし、このアルバムの5曲目『You are always in my heart』が好きだな。」
「私もその曲好き。ナミエルのデビュー当初の曲、
『出逢いはいつしか別れになる。だから恐れるの?違うよね?たとえ離ればなれになったとしても、私の中にあなたがいる。そうでしょ?悲しまないで。一緒に前を向いて進んでいこう。』
この詩が好き。
ナミエルは自問自答してるの。
ナミエルにも弱い側面があるんだなって思った。
それでもやっぱり芯には強さがあって、前に進む姿が好きになったの。」
陽子はさらに続けた。
「デビューからは、縦ノリ系アーティストだったのに、この曲で横ノリのメロウな感じになると『こんなのナミエルじゃない』とか言われ、
「ほ、ほ~、そうなんだ。さすがヨーちん…詳しい。」
陽子は鈴の方へ顔を向け、ふんわりと眼鏡を上げた。口元も緩んでいた。
(お~、ヨーちんがどや顔してるよ~!)
つづく
9日目終了。
今日も一日お疲れ様でした!
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