8日目<イベント関係のお仕事>
有名アーティストのイベントが有ると、会場資材の搬入、搬出の仕事が舞い込んだりする。
撤収日に割り当てられると、仕事は深夜に行われる。しかし、それが妙にワクワクする。
イベント後の熱気×深夜×ラジオという要素が相まって、テンションがちょっぴり上がるのである。
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日野 陽子はソワソワしている。
「あ、陽子、おつかれ。ど、ど、どしたん?」
珍しく陽子を心配する満子。無理もない。
それだけ、側から見て陽子は異常事態であった。
「明日、アムール・ナミエルのライブに行ってくる。」
ーアムール・ナミエルー
全米チャート118週連続1位のスーパーギネスを樹立したシンガーソングライター。満を持して初来日。
口調はいつも通り淡々としているが、大きなメガネの奥にある目は、ウルウルしていた。
「ライブったって、陽子、明日イベント撤収やん。」
「そう、アムール・ナミエルのライブの・・・。」
「あぁ、そういう事ねー。観れへんのにそんなに盛り上がれるんが不思議。」
「グッズが買える。初来日用のグッズは転売屋に流れたらチケットより高値がつく。その前に買わなきゃ。ライブが18:30開演で21:00終演だから…」
「あ、そっか!じゃ、あたしの分も買っといて!(プレミア付いた頃ネットに流して小遣い稼ぎ!)」
魂胆が丸見えだ。
しかし、陽子は満子の言葉を無視して倉庫へ向かい、明日の準備を始めた。
「シャックル八つにラッシング六本でいいかな。毛布も持っていこ。足りなかったらこっちの使うか。・・・完了。」
準備は整ったようだ。
出発は明日の夜8時。
(帰ったらナミエル聴こ。)
いつもは無表情な彼女も、今日は普通の女の子の顔になった。
陽子が仕事を終え、帰ってからしばらくして鈴が社に戻った。そして明日の行程を確認する。
「山田さん、イベントって何ですか?わたしが何か出し物するんですか!?」
「(ボケてるんだろうか、本気なんだろうか?わからん。)え~、大阪ドームでアムール・ナミエルのライブ資材の搬送ね。日野さんと二台口の仕事。詳しくは、日野さんに聞いて。段取りよく知ってるから。」
鈴は、明日の行程をスケジュール帳に書き込み、アルコールチェックをし、帰り支度をする。
「そだ、山田さん。日野さんと一緒に行けば良いですか?」
「どっちでも良いよ。日野さん、アムール好きでグッズ買いたいから早く行くとか言ってたよ。」
「そうですか、わかりました!では、お疲れ様です!」
鈴は、陽子と一緒に仕事をするのがとても楽しみだった。
鈴も明日が待ち遠しい面持ちだった。
次の日の朝。
「おはようございます。」
陽子が出社した。今日の仕事の確認をしていると、鈴も事務所に入ってきた。
「おはようございます!!日野さん、おはよう!」
「おはよう、五十川さん。」
「今日のイベント撤収の仕事、日野さんに付いて行っても良いかなぁ?」
人懐っこい鈴も、さすがに陽子とはまだ他人行儀だった。
「うん。いいよ。じゃあ夜8時に出発。」
「ありがとう!じゃあ夜8時出発!」
鈴はニカッと微笑むが、陽子は、目線を外して恥ずかしそうに頬をかいた。
二人は、午前の業務をこなし、一旦帰宅し、晩の仕事に備えた。
それから数時間後。
「そこに書いてある通り、呼び出し予定時刻は午前1時。割と早く終わるよ。終わったら悪いけどそのまま近くで待機して。9時に電話します。」
出発前、最後の確認で山田が指示すると二人は
夜の8時ともなれば、街を走る車の数も少なくなり、二台は予定していた時間より早く大阪ドームへ着いた。
ドーム周回路は、様々なトラックが停まっており、その大半はイベント関係車両だ。空きスペースを探してドーム外周を走り、丁度二台が停めれる場所を発見。そこへ車を停め、呼び出されるまで待機することにした。
「まだライブやってるね。」
「うん。五十川さん、あっち。」
陽子は急ぎ足で階段を上がり、正面ゲート前の物販コーナーを指差した。物販コーナーは既にオープンしていた。
「ふー、うわ!もうこんなにならんでる!!」
「うん。これでも少ないほう。五十川さん、こっち。」
陽子に言われるがまま従う鈴。陽子は、サイズの合っていないツナギの、引きずりそうになっている裾を持ち上げながら列の最後尾にならんだ。
「あった!ナミエルの初来日用限定Tシャツ!」
控えめに飛び跳ね指差す陽子の顔は、子供のような無邪気さを醸していた。
そして、目的を果たした陽子と鈴はトラックに戻った。
つづく
8日目終了。
今日も一日お疲れ様でした!
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