6日目<出会い>前編

出会いは偶然?それとも必然?

会うべくして会うことが決まっていたら?

鈴がドライバーを目指すきっかけになったお話です。


➖➖➖➖➖


学生生活最後の夏を終えても、まだひとつも内定をもらっていない生徒は数名いた。鈴もそのひとりであった。


短期大学では、保育士を目指し学問に励んでいた。とはいえ、それも本当にしたい事だったのか、今思えば、ただ周りに流された結果だったのかも知れない。

結局、当初の志は冷めてしまい、進路も決まらないまま新しい春を迎えた。


「五十川さん!Aバースで搬入準備!急いで!」

「はーい!わかりました!」


一応、短大卒の学を修めさせてくれた親の手前、新卒無職というのもバツが悪く、とある倉庫にて、フルタイムのアルバイトをしながら職探しをしていた。


鈴は、指示を受けたAバースで受け入れ準備をはじめる。鈴の仕事はフォークリフトでホームに下ろした荷物の検品だ。


「おっ、入ってきた!オーライオーライ!!」

鈴は両腕を大きく振って誘導する。が、それは違うトラックだった。


「あれ?気付いてないのかなぁ、オーライ!」

気付いてないのは鈴の方だった。


「・・・もぅ、感じわる!あっ!」

ようやく気付いたようだった。


「受付はこっちにトラック着けてから行ってください!!」

大声で叫ぶ。まだ呼び込もうとする。とうとうそのトラックへ駆け寄った。まるで気付いていなかった。


「あっ!!」

そのトラックがDバースに着けるのを見てやっと、気付いた。


勘違いに気付いて、急いでAバースへ戻ると、真紅のキャビンが40フィートのコンテナシャーシを従え、堂々と佇んでいた。



「いや失礼、いつもは誰かに誘導してもらえるのだが・・・勝手に着けさせてもらったよ。」


言葉の感じから、慣れた様子が伺える。

それにしても、いつの間に着けたのか、否、入ってきたのかすら、鈴は気がつかなかった。


(黒のシャツ、真っ赤なパンツ。金髪にサングラス。スマート・・・。)


「すまないが始めさせてもらうよ?」


男は既にフォークリフトに乗り込み、コンテナから荷物を取り出し始めた。


巧みなリフトさばきでコンテナから次々に荷物を出していく。一定のリズムで動くリフトは、まるで生きているようだった。


あっという間に片付け、リフトマンと談笑している。


「すごい。」


鈴は、男の流れるような仕事ぶりに圧倒された。


「お、お疲れ様です。いつも自分でリフトされるのですか?」


ここでは通常、リフトマンが作業するが、男がリフト作業していたので聞いてみた。それに、鈴はこの金髪にサングラスの男に興味があった。


「ああ、ここはいつも自分でするのさ。忙しいだろ?ここの倉庫は。少しでも助けになれば、と思ってね。ではそろそろ行くよ。お疲れ様。今度はちゃんと誘導してもらいたいな。ほら、これ。」


そう言って男は、鈴に何かを渡した。


(あ、ミルクティー・・・なんでわかるの?)


男は颯爽と真紅のキャビンへ乗り込み、車体をうねらせながら場を去った。


鈴の目は、強い意志を感じさせる輝きを放っていた。


「・・・Red Comet Transportの77、」


つづく



6日目終了。

今日も一日お疲れ様でした!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る