4日目<3段乗降ステップ>
大型トラックの運転席は高い場所にある。
そこへ乗り込む際、ステップがあるのだが、車種によってステップが2段のもの、3段のものがある。
当然、3段ステップの方が運転席が高い位置にある。
上がるのが大変。仮に1日に10回乗り降りするとして2段ステップとの運動量を比較すると、
2段×10回=20段
3段×10回=30段
10段の差が出る。
つまり、2段ステップ5回分余計にエネルギーを消費していることになる。
ちなみに、地面から座席までの高さはおよそ2m。
➖➖➖➖➖
「も~、神戸界隈は『コブシ☆ヒットパレード!』入らないよ~。」
ラジオの電波が入らず、ややご機嫌ななめな鈴。
今日は、自社から2台口の仕事だ。
1台では荷物が積みきれなかったので、残りは後から鈴の車に載せた。先に積んだ1台は、満子の大型車だった。
朝、満子から、車庫から出る前に『道、ややこしいからあたしのケツについて来な。』と、言われ、鈴は必至について行く。
(うわぁ、満子先輩早いよー。トラックも多いし見失わないようにっと・・・)
どこの運送会社も似たようなもので、朝のこの時間帯は一番混む。鈴は、万が一満子号を見失ってもいいようにナンバープレートに注視していた。
「325325325325・・・いた!」
幸い、信号が赤になり、満子号の左後方に停まった。
(ふぃ~、なんとか追いついた。)
が、満子号の様子がおかしい。助手席のドアが少し開いては閉まるを繰り返している。
(ん?満子先輩もしかしてドアちゃんと閉めてない!?知らせなきゃ。)
異変に気付いた鈴は満子にTELを入れる。
「満子先輩!助手席のドア!開いてますよ!」
「なに?助手席の?・・・あ~、わかったよ。」
(なんだろ?満子先輩怒ってる?)
声のトーンから、少し機嫌が悪い様子だった。
(ははぁ~ん、さては満子先輩も『コブシ☆ヒットパレード!』聴けなくてイライラしてるんだな。そかそか。)
信号は青になり、辺りの車が一斉に動き出した。
2台の位置はそのままで再び赤信号で停車した。
鈴が、ふと右前方を見るとまた助手席のドアが開閉している。
(あれ?ドア壊れてるのかな?満子先輩気付いてない?)
すぐさま満子にTELを入れる。TELLLLL…P!
「あ、もしもしミ!?」
「ぅっせー!!そんな事はわかってんだよ!!さっさと消えな!おま・・」
「す、すみません!!」ガチャ★
TELが切れると同時だった。
突然、満子号の助手席のドアが開き、3段ステップの上から男が勢いよく転げ出た。そして、男は慌ててその場を走り去った。
「お前なんか・・・二度と現れるな!!!」
満子は走り去る男に吐き捨てた。
鈴は満子の口調に、一瞬放心状態になった。しかし、辺りの車が動き出すと我に返った。そして大粒の涙があふれ出てハンドルを握る手を濡らした。手は小刻みに震えていた。
2台は程なくして納品先へ着いた。が、鈴はなかなか運転席から降りなかった。いや、降りれなかった。満子に怒られる・・・。そう感じていた。
不審に思い、受付を済ませた満子が鈴の車へ向かった。
「おーい、りーん。どうした?気分悪いのか?」
「・・・いえ、ひっ、だいじょひっ、だぃじょぅぶ、です。」
ハンドルに突っ伏したまま返す。
「おーい、早く降りないと先方さんに迷惑だろ~。しかたないやつだなぁ、、、」
下車を促すが、ちっとも降りない鈴に面倒臭そうに運転席のドアを開ける。
「おーい、疲れたのか?まあここまで3時間乗りっぱなしだったからな。ほれ、コレやるから降りな。」
さっきと様子が違う満子に戸惑いを感じつつ、顔を上げ、恐る恐る満子の方へ向いた。
「!?なんだよその顔!おまえ泣いてんのか?なんで?目、真っ赤!」
「・・・だって、さっきTELで・・・ひっ、ひっ」
そういうと、また涙があふれ出した。
「ひっ 、ミ、満子先輩も目が腫れて真っ赤ですよ?」
「コレはさっきだな・・・その・・男が・・。」
「・・・?」
ふたりは顔を見合わせ目を丸くした。
そして、お互いに事の顛末を話した直後、両者は抱き合いながら再び泣き出した。さっきよりも一層大きな涙が頬を流れた。
納品先のスタッフは、不思議そうにふたりを見ていた。
「あ、満子先輩、わたしコーヒー飲めないです。しかもブラックだし・・・。」
「うっせー、演歌娘。」
さっきまでの曇り空は、いつのまにかすっかり晴れ渡っていた。
4日目終了。
今日も一日お疲れ様でした!
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